第51話 またさらに成長しましたね紗那

「忘れたり気にしないのが無理ならもう一度北野さんと話すべきです。これからどうしたいのか、このままで良いのか。紗那だってこのままの関係は嫌ですよね」

「もちろんだ。でもなんて話しかければ良いのか分からないんだ」


 麗奈の言っていることはもっともだ。

 紗那だってずっと真希と気まずいままは嫌だ。


 真希との関係をなんとかしたいと思いつつも、真希と気まずいせいで紗那もどんな顔で話しかければ良いのか分からない。


 こんな経験は初めてだ。


「えっ、そんなの簡単じゃん。いつも通り話しかければ良くない?」

「それができたら苦労はしないんだが」

「お互い意識しているから気まずいんでしょ。なら意識しないで話しかけてみたら。もしかしたら北野も紗那が意識していることが伝わってますます気まずくなってるかもしれないよ」


 清美の言う通りいつも通り話せたらなにも苦労はしない。


 だが、そのいつも通りが今は難しいのだ。


 それを清美に訴えると、予想外な答えが返って来た。


 まさか、紗那の気まずさが真希に伝わっている可能性は考慮していなかった。


「……その可能性は想定外だった」


 清美に指摘された紗那は頭を抱えた。


「いつも通りウザい紗那の方がきっと北野さんも安心します。北野さんと真剣に向き合いましょう。北野さんもきっとそれを望んでいるはずです」

「麗奈の言う通りだよ。いつもウザいのが紗那でしょ。その紗那が大人しくなって話しかけてこなくなったら北野だって困惑するでしょ」

「……二人ともあたしをアドバイスしているのかディスってるのか、どっちなんだ」

 きっと麗奈も清美も紗那を応援しているはずなのだが、言葉選びが悪いせいかディスっているようにしか聞こえない。

「それにこういうのは先輩の紗那がリードしないと」

「そうですよ。北野さんは大人びているように見えて後輩なんですから、ここは先輩の紗那がリードするべきです」


 そして清美と麗奈には先輩の紗那がリードすべきだとアドバイスをもらった。


 確かに真希はあんなに大人びているように見えて、まだ高校一年生だ。


 紗那たちよりも二つ、年が若い。


 ここは先輩の紗那が後輩の真希をリードするべきである。


「そうだな。清美と麗奈の言う通り、先輩のあたしがいつも通りでいないと北野後輩も気まずいよな」

「その意気だよ紗那」

「またさらに成長しましたね紗那」


 二人にアドバイスをもらった紗那は心を決める。

 いつまでも真希と気まずいままなんて、絶対に嫌だ。


 それにこれは紗那が招いたことだ。


 紗那がバランスを崩して真希を押し倒さなかったら、こんな気まずい状況にはなっていなかっただろう。


 真希と向き合うことを決めた紗那に清美も麗奈も応援の言葉をかける。


「それとあたしは北野後輩と真剣に話をしたいとも思っている。だから明日北野後輩の家に押しかけようと思っている。二人だけで真剣に話をしたいからな」


 気まずいと感じているのはキスのわだかまりがあると紗那は考えている。


 それを今度は真剣に話したい。


 あの時、適当に忘れようと言ったせいでお互い、変に意識をしてしまい気まずい状況になっている。


 学校や外では誰が聞いているか分からないので、紗那は誰にも聞かれない場所、つまり真希の家で話すのがベストだと考えた。


 ちなみに、真希の春祭り当日用事があるのは嘘だろう。


 もし本当だったら口ごもらずはっきり言うだろうし、あの言い方は明らかに取ってつけたような言い方だった。


 その後、なぜ紗那が真希の家を知っているのか、清美と麗奈に根掘り葉掘り聞かれたのは言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る