第49話 せいぜい失敗しないように頑張りなさい

「……愛理、陽子。少し私の話を聞いてくれないか」


 真希は二人に相談する決意を固める。


 その言葉を聞いた陽子は少し嬉しそうな表情を浮かべ、愛理も茶化すことなく真剣な表情で真希の話を聞く。


「別に二人であのキスのことは忘れることにしたんだから、真希も忘れてなかったことにすれば解決じゃん」


 真希が話し終えると、愛理が一言で結論を出す。


「うん、そうだね。今の話を聞くと鈴木先輩も事故だって分かってるし。いつも通りに接すれば大丈夫だと思う」


 陽子も愛理と同じ意見らしい。


「でも鈴木先輩に会うとやっぱり意識しちゃうし……それに鈴木先輩も意識してるのか、あまり話しかけてこないし」


 紗那も意識しなくても良いと言っているんだから、意識しないで今まで通り普通に接する方が良いのは分かっている。

 頭では分かっているのに、心がついていかない。


「っていうかなんで先輩頼りなのっ。自分から話しかけにいけば良いじゃん」


 愛理に指摘されるまでなんで気づかなかったのだろう。


 いつも紗那が話を主導してくれていたおかげで、勝手には会話は紗那がリードしてくれるものとばかり思っていた。


 でも違った。


 真希が主導で話しかけても良いのだ。


「それに鈴木先輩が話しかけてこないのって真希が意識しているから気を使って話しかけてこないんじゃないの。そんなあからさまに意識されたら鈴木先輩だって話しづらいでしょ」


 さらに愛理は真希では一生気づけなかったところにも指摘する。


 そんなこと考えたこともなかった。


 紗那はウザいが優しい女の子だ。


 真希がキスのことを意識してたら、優しい紗那は気を使って話しかけてこなくなるのも納得である。


「だけどやっぱり事故とはいえ私とキスをして、鈴木先輩も不快だったと思うし嫌われたと思う」


 真希は今まで自分のことばかりで相手のことを考えていなかったことに気づく。

 真希の場合、別に紗那とキスをしたことが嫌なのではなくキスをしたことを意識しすぎるあまり話せないだけである。


 だけどもし、紗那が真希とキスをしたことが嫌で話しかけてこなくなった場合、真希にできることは謝罪しかない。


「う~ん、それはどうかな? 鈴木先輩は真希ちゃんのこと大好きだと思うよ。じゃなかったら異性の家でシャワーも浴びないし着替えも断ると思うし家にも上がらないと思う。それだけ鈴木先輩は真希ちゃんのことを信頼してると思う。それに嫌いな人にキスされたら絶対嫌な顔すると思うよ。そうじゃなかったら結構大丈夫だと思う」

「それにそんなグチグチ悩んでるなら直接鈴木先輩に聞けば良いんじゃん」

「そんな言い方はないと思うよ。それが難しいから真希ちゃんは悩んでるだと思うし」

「でも……」

「でも愛理ちゃんの言うことも一理あるよ。もし心配なら直接鈴木先輩に聞くのもアリだと思う。大丈夫、もしダメでも私と愛理ちゃんで真希ちゃんのこと慰めてあげるから。心配しないで」

「どうして失敗前提で真希に話してんだ陽子」

「あっ、そうだった。えへへ。でも私は失敗しないと思うから大丈夫」


 しかし、陽子は真希の推測をすぐに一刀両断して切り捨てる。


 それに続き、ウジウジ悩んでいる真希が煩わしくなったのか愛理がハイリスクで大胆の提案をする。


 確かにここで三人で悩んでいても答えが出るわけではない。


 愛理の言い方は棘が多いが正論である。


 それに失敗しても陽子たちが真希を慰めてくれるらしい。


 失敗前提で話している陽子がおかしかったのか愛理が陽子にツッコミを入れる。


 今の光景は紗那たちに相談した時の光景にかなり酷似していた。


 あの時も紗那たちは真剣に真希の悩みを聞き、真剣に答えてくれた。


 その時も失敗したら慰めてやると言ってくれていた。


 他人は面倒だ。


 中学の頃までは一人で過ごしてきたので、こんな人間関係で悩むことはなかった。

 そのせいで今まで人と接してこなかった真希は、人間関係で悩んだ時どうすれば分からない高校生になっていた。


 だけど周りの人が助けてくれたおかげで愛理の問題を解決することができた。


 そして今も今度は逆で、真希と紗那の問題を陽子と愛理が必死に考えてくれている。


 もし、陽子と愛理がいなかったらまた一人でドツボにはまっていただろう。


 真希は少しずつ人の大切さを知っていく。


「ありがとう陽子、愛理。鈴木先輩とちゃんと話してみるよ」

「うん、頑張って真希ちゃん」

「まっ、せいぜい失敗しないように頑張りなさい」


 二人に励まされた真希は二人にお礼を言う。


 陽子は笑顔で真希を応援し、愛理は言葉はきついが心配していることは伝わってくる。


 紗那と話し合う決意はしたものの、放課後紗那と出会うことができずに休日を迎えてしまう。


 この時、紗那と連絡先ぐらい交換しておけば良かったと嘆く真希だったが時すでに遅かった。

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