第47話 ……忘れられるわけないじゃん
「お待たせしました」
「いや、全然大丈夫だ。着替えもありがとうな。あと弁償するよ」
「いえ、そのまま洗って返してもらえれば大丈夫ですよ。ななみに下着は新品なので安心してください」
「別に気にしてないよ。むしろあたしが履いた下着を次履くのは嫌だろう」
「私は洗って返してもらえれば気にしませんので大丈夫です」
「なるほど、北野後輩はあたしの使用済み下着の方が嬉しいと。いたっ、悪い。さすがに言いすぎた」
「鈴木先輩。あまり度が過ぎると先輩でも容赦しませんよ」
「今のはあたしが悪かったです。すみません」
「……分かればよろしい」
真希的には今日貸した服は洗って返してもらえればそれで良いと思っていたが、それでは真希が嫌がると紗那は思ったらしい。
だから弁償させてほしいと言っているが、何度も言うが洗って返してもらえればそれで良いと真希は思っている。
一回しか履いていないのだから、洗って返してもらえれば新品とほとんど変わらないだろう。
するとなにを血迷ったのか紗那は使用済みの方が嬉しいんだと真希のことをからかってきた。
さすがにこれには真希もキレた。
真希は紗那に拳骨を落とすと、さすがに言いすぎたと反省する。
ちなみに紗那には学校で使っているジャージを着させている。
「初めてボクサーパンツを履いたが、なんか変な感じだな」
「私はいつも履いているので、その変な感じが分かりませんが」
「そうか。けど初めてボクサーパンツを履いたが結構良いな。意外にもフィットする」
「気に入ってもらえたなら良かったです」
意外に履き心地が良かったのか、紗那がボクサーパンツを気に入る。
「やはりノーブラはなんか落ち着かないな。なんか恥ずかしい」
「そうなんですか?私はつけないので分かりませんが。透けてないので別に恥ずかしがることはないと思うんですけど。さすがにブラジャーはないのですみません、我慢してください」
「いや、文句を言ったわけじゃないんだ。嫌な言い方をしてすまない」
「いえ」
さすがに真希は男の娘なのでブラジャーまでは持っていなかった。
別にノーブラでも服で完全に隠れているし、透けていないのだからなぜ恥ずかしいのか分からなかった。
ブラジャーを貸せなかったことを謝ると紗那も真希に気を使わせてしまったと思ったらしく紗那も真希に謝る。
例え真希が女の子でもあんなにでかいブラジャーは持っていなかっただろう。
それぐらい紗那のおっぱいは破壊力が大きかった。
その後、一時間ぐらい紗那と雑談をしていた。
まだ雨は降っているが、かなり勢いは弱くなっている。
これなら傘を貸せば帰れるだろう。
「結構雨脚が弱くなったので帰りますか?」
「そうだな。あまり長居をしていても北野後輩に悪いしな。お暇させていただくよ。今日は着替えとかありがとう。助かったよ」
シャワーや着替えを貸してくれたことに感謝しながら紗那は家に帰るために立ち上がる。
真希も玄関前まで見送るために立ち上がる。
「あれ……」
「北野後輩っ」
急に立ち上がったせいで貧血になったのか、やはり雨で体を冷やしてしまったのかは分からないが頭から血がさぁーと引いていく。
頭がクラクラして足に力が入らない。
よたつく真希を心配した紗那が真希の体を支えようとする。
しかし、支える態勢が悪かったせいで踏ん張ることができずに二人してベッドに倒れこむ。
一瞬、なにが起こったのか分からなかった。
いや、今も分からない。
目の前に吐息がかかりそうなぐらい近くに紗那の顔がある。
いや、吐息がかかりそうなぐらいではない。もうかかっている。
唇に触れる柔らかい感触。
その感触はとても瑞々しく弾力があり、今まで唇では触れたことのない感触だった。
二人の視線が混じり合う。
紗那の胸の感触もダイレクトに伝わっていく。
女の子の体ってこんなに柔らかいんだと初めて知った真希だった。
「すまない北野後輩。重くなかったか」
「はい、大丈夫です……」
紗那も真希になにをしてしまったのか理解しているらしく、慌てながら真希の上から体をどかす。
真希も平静を装うとしたが、唇の感触が忘れられず頬を赤く染め、紗那から視線をそらしてしまう。
今のは事故だから気にする必要はないと伝えるべきなのだが、動揺しすぎて言葉が出てこない。
「本当にすまない北野後輩。事故とはいえ、キスをしてしまって」
「いえ、事故だって分かってますから。私こそすみません」
動揺している真希を見て申し訳ないと思ったのか再度、紗那は真希に謝罪する。
これが事故だと真希は分かっているのだが、心が追い付かない。
「今日のことは忘れるから北野後輩も忘れてほしい」
「はい。今日のことは忘れます。今日のは事故なんですから」
紗那もこれが事故だと言うことは分かっているらしく事故ということにしてくれた。
もちろん真希も異論はなく、事故ということで忘れることに決定した。
と言っても心がそれに追いつくかはまた別な話である。
その後、紗那の服は乾ききらなかったのでビニール袋に入れて持って帰ることになった。
傘を貸し、紗那は真希のジャージを着て家に帰った。
その間、色々と紗那とやり取りをしていたはずなんだが、キスのことが頭から離れずなにを話していたのか覚えていなかった。
紗那が帰った後も真希はベッドの上に寝転がり、一人悶々した。
「……忘れられるわけないじゃん」
真希にとってこれがファーストキスだったのだ。
そんなの忘れられるわけがない。
もちろん、紗那が悪くないことは分かっている。
だが心が追い付かない。
真希の呟きは誰にも聞かれることなく虚空へと消えていった。
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