第45話 二人でシェアなんてまるでカップルみたいじゃん
「せっかくだからシェアしないか。シェアしたら一度で二度おいしいぞ」
「……確かにそうですね。鈴木先輩が良いならしましょう」
「えっ、マジ?」
「はい。もしかしてなんかの冗談でしたか? それでしたら別にシェアしなくても大丈夫ですけど」
「いや、しよう。……本当に最近の北野後輩は丸くなった。丸くなりすぎて怖いぐらいだ」
自分からシェアをしようと提案して来たのに、真希が賛成するとなぜか紗那は驚く。
その理由も真希はなんとなく分かっている。
きっとまた断られると思ったのだろう。
でももし断ったら真希が折れるまで食い下がるだろうし、無駄な労力を使うことになる。
それに今回賛成した理由は他にもある。
それは紗那が注文したサーロインステーキの方が真希のハンバーグよりも高い料理だからである。
だったら断る理由もない。
だから真希は考える振りだけをして、紗那の提案に賛成したのだ。
真希は強かな男の娘であった。
その後、半分ずつ交換し合い料理を食べる。
ハンバーグはとてもジューシーでナイフで切った瞬間、肉汁が溢れ出てきた。
サーロインステーキも肉厚で噛めば噛むほど肉汁が口の中にあふれ出し、凄くおいしい。
「サーロインステーキもハンバーグもどっちもおいしいな」
「そうですね。どっちもおいしいですね」
二人はおいしそうに料理を食べていく。
あまりにもおいしすぎたせいで、気づいたら会話もロクにしないで食べ終わっていた。
「おいしくて気づいたら食べ終わってましたね」
「そうだな。全然会話しなかったな」
「それぐらいおいしかったということですよ。たまには外食も良いですね」
「そうだな。一人で外食するよりも友達と一緒の方がおいしく感じるぞ」
「別に私は一人でも誰かと一緒でも味は変わらないと思いますけど」
真希も紗那も食べ終わった後に、自分たちが会話もしないで食べていたことに気づく。
たまには外食するのも良いかもしれない。
紗那は一人で食べるよりもみんなで食べる方がおいしいと言うが、真希はその感覚が分からなかった。
そもそも真希は一人でいることが苦痛ではないし、むしろ一人でいる方が好きなため一人で食べようがみんなで食べようが味が変わることはない。
お昼を食べ終えた二人は、会計へと向かう。
お昼を食べ終えたのに長居をしている客がいたら、店側からすれば迷惑以外のなにものでもないだろう。
「二人でシェアなんてまるでカップルみたいじゃん」
「なにを馬鹿なことを言ってるんだ。さっさと会計しろ」
「はーい」
真希と紗那はちょうど会計のところにいた清美に会計をしてもらうことになった。
清美は仕事中も真希と紗那のことを見ていたらしく、料理をシェアしていた二人を茶化している。
本当にくだらない。
そう思ったのは真希だけではなかったらしく紗那もお怒りだった。
紗那に怒られたのにも関わらず清美の返事は適当である。
その後、それぞれ食べた分を会計し外に出る。
「……全く清美には困ったものだ」
清美の言動にはうんざりしているらしく紗那が頭を抱える。
「こういう時麗奈のありがたみを感じるよ。ここに麗奈がいてくれれば清美を大人しくさせられたのに」
「言われてみればそうですね。沢田先輩も黒木先輩には頭が上がりませんもんね」
清美の勘違いに手を焼き、ため息をこぼす紗那。
紗那に言われて気づいたが、確かに清美が暴走していた時、止めていたのは麗奈だった。
基本話す人は紗那と清美の二人で、麗奈は聞き役が多くこんな言い方は失礼だが、あまり目立たない先輩だった。
だが麗奈がこの二人を制御し調和させていたことに気づき、麗奈がこのグループにはなくてはならない存在ということに真希は改めて気づかされた。
「……なんか一雨降りそうだな」
「そうですね。これは早く帰った方が良いですね」
いつの間にか空は曇天に覆われ、今にも雨が降り出しそうな天気だった。
それになんだか空気も湿っぽい気がする。
真希と紗那は傘を持っていなかったので、すぐに帰ることにした。
電車に乗り、真希たちの最寄り駅で降りて家に帰っている途中に案の定、雨が降り出した。
「いきなり降り出したな」
「はい、もう土砂降りですよ」
降り出してすぐ二人を嘲笑うかのように土砂降りになる。
その勢いは凄まじく十数秒で二人の体はびしょ濡れになり、道路が小さな川のようになっている。
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