第43話 バイトと言っても仕事だからな
「ほらっさっさと案内しろ。サボってると怒られるぞ」
「はいはい。ではお客様二名様案内しまーす。こちらへどうぞ」
バイト中に油を売っている清美に紗那が一喝するも清美に軽く流される。
バイト中ということもあり、さすがに紗那の忠告を無視して根掘り葉掘り聞いてくることはないだろう。
「それでそれで本当にたまたまなの? 本当は二人で遊びに出かけていてお腹が減ったからここに来たんじゃないの?」
「しつこいぞ清美。たまたま北野後輩とは一緒になって来ただけだ。こんなことになるなら違うところに行けばよかったな」
「……さっき鈴木先輩が言ったことなんとなく分かりました。これは面倒ですね」
席に案内するわずかな時間さえも紗那と話したいのか、清美はあれこれ紗那に聞いてくる。
さすがの紗那もウザいのか、少し怒っているようだった。
駅で会った時、友達が働いている店に行くことに抵抗はないのかと聞かれたがその意味が分かった気がする。
これは面倒くさい。
「まぁーそういうことにしておくよ」
清美は一人納得しているが絶対、真希たちの意図が伝わっていないことは誰が見ても明らかである。
「本当に偶然、北野後輩と会っただけなんだが」
「分かってる分かってる。隠さなくても大丈夫だから。二人ってここまで仲が進展してたんだね。頑張れ紗那」
「お前、絶対なにも分かってないだろ」
いくら紗那が偶然だと伝えても、清美は聞く耳を持たない。
なにを勘違いしているのかまでは分からないが、勘違いしていることだけは真希でも分かる。
紗那も呆れて声を荒げているが、清美は反省するどころかニヤニヤしている。
「それではお客様、メニューが決まりましたらボタンを押してお呼びくださいませ。水はセルフとなっております。ではごゆっくり」
二人を席に案内させて座らせると、マニュアル通りの対応して清美が去っていく。
『ではごゆっくり』という言葉になにか含みが含まれていたのは真希の気のせいだろうか。
そこだけなんというかニュアンスというかアクセントが違うような気がした。
「全く清美は。なにを勘違いしてるんだ」
「そうですよね。でも沢田先輩って馬鹿ですから、自分の勘違いにも気づいていないんじゃないですか」
「そう言われると否定できないのが怖いところだ。確かに清美は馬鹿だからな。馬鹿だから気づいていないのかもしれんな」
「ですです。沢田先輩は馬鹿ですから」
清美が去った後、二人はなぜ清美が勘違いしているのかその理由を話し合った。
その結果、すぐに『清美は馬鹿だから』という結論に辿り着いた。
別に清美を侮辱しているわけではない。
清美は本当に馬鹿なのだ。
だから自分の勘違いにも気づけないのだろう。
可愛そうである。
「あんなに馬鹿でもバイトはできるんですね」
「らしいな。もしかしたらバイトするのにあまり頭の良さは関係ないのかもしれんな」
「そうですね。見てる限り、ちゃんとバイトしてますし」
二人で散々清美のことを『馬鹿』だと言ってきたが、意外にも仕事はそつなくこなしているらしい。
笑顔で接客できているし、オーダーや運び間違いとか目立った失敗はしていない。
「沢田先輩がバイトしている姿はなんだか新鮮です。学校の時とは全然違いますね」
「バイトと言っても仕事だからな。真面目に働いているのは当たり前だろう」
学校では見たことがないくらい真面目で真剣な清美を見て、真希は私服の紗那に会った時と同様新鮮味を感じた。
あんな真面目な清美、見たことがない。
確かに紗那の言う通りバイトといえ仕事なので、真面目に働くのは当たり前だ。
「学校の時とプライベートの時ってみんななんか印象変わりますね」
「北野後輩が言いたいことは分かる。学校の時は制服だがプライベートの時は私服だからな。それだけでもかなり印象が変わるのは分かる。特にバイト中は、高校生ではなく一人の社会人として働いているからな。高校生の軽いノリでは上司に怒られるしお客さんにも迷惑だからな」
真希は初めて先輩たちとプライベートで会って、学校の時と印象が違うところに驚く。
平日は毎日会っている先輩たちもプライベートで会うと印象がかなり違って見える。
もちろん、中身は同じだしその人だということは変わらないのだが、服装が違うだけでも印象が変わるのは不思議である。
私服姿の先輩たちはまた制服姿の先輩たちとはまた違った印象を受ける。
それは真希にも言えることで、きっと紗那も清美も私服姿の真希を見て違った印象を受けているだろう。
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