第三章 北野真希の休日

第41話 断ってほしかったんですか。なら断ります

 休日は特にやることもない。

 真希は部屋で本を読んでいた。


 宿題も終わっているし、休日に遊びに出かける友達もいない。


 そもそも一人でいるのが好きな真希にとって、一人で家にいることはなんの苦痛にもならない。


 時刻は十一時半。


 もうすぐお昼の時間だ。


 これは真希の個人的な感覚だが、夕食ならまだしも昼食を作るのは面倒くさい。


 昼食は簡単に作れるものが良い。


 そう思い冷蔵庫を開けるものの、中にはほとんど食料がなく今日の夕方に食料を買ってくると母が言っていたような気がした。


 今すぐに食べられるものはカップラーメンぐらいしかなく、さすがにそれは栄養バランスが悪いと思いどうするか考える。


「……確か沢田先輩にファミレスのクーポン券をもらったんだっけ」


 今日の昼食はなにを食べようかと考えていた時、ふと清美からお金を借りたお礼としてファミレスのクーポン券をもらったことを思い出した。


「まだ有効期限は残っているな」


 真希は財布からクーポン券を取り出し、有効期限を確認する。

 先週もらったばかりなので、有効期限はかなり残っていた。


「これなら四百円ぐらいで昼食が食べらるな」


 真希の家は両親が共働きで忙しいということもあり、真希の昼食代のことも考えられ多めにお小遣いをもらっていた。


 四百円で昼食が食べられるなら結構安い方だろう。


 真希は私服に着替えて、外に出る。


 ちなみに服装は白のロングTシャツに上から黒のシースルーを羽織り、下は紺に近い青いフレアスカートである。

 スマホでファミレスの場所を調べると学校の近くということが分かり、真希は駅に向かった。


 休日なのに学校に行く時と同じ道を歩くのはなんだか新鮮である。


 春の日差しが心地良い。


 休日ということもあり駅構内には人も多く、ほとんどの人がカジュアルな服装をしている。


「おや、これは北野後輩じゃないか。珍しいな休日に会うとは」

「す、鈴木先輩っ」


 休日に外に出て誰かに声をかけられる経験が一度もなかった真希は、紗那に声をかけられた瞬間驚きのあまり声が上ずった。


 休日ということもあり、紗那も私服姿だった。


 白のポロシャツにデニムというまさに王道でカジュアルな服装だった。


 いつもは制服姿しか見たことがなかった真希からすると紗那の私服姿はかなり新鮮だ。


「おはようございます」

「おはよう。やはり北野後輩はなんだかんだ言って礼儀正しいな」


 紗那にあいさつするとなぜか紗那に礼儀正しいと褒められてしまった。

 誰かに出会ったらあいさつをするのが普通だと思っていた真希はなぜ褒められたのか分からなかった。


「北野後輩はどこに行く予定なんだ?」

「私はお昼を食べにファミレスに行こうと思っていたところです。鈴木先輩は?」

「奇遇だな。あたしもお昼を食べに出かけたのだがどこに行こうか迷っていたんだ。せっかくだから北野後輩とご一緒しよう。一人で食べるより二人で食べる方がおいしいからな」


 紗那にこれからの予定を聞かれた真希は正直に答えた。


 別にここで嘘を吐く必要もないし、メリットもない。


 紗那も昼食を食べるために出かけていたらしく、成り行きで一緒に食べることになった。


 紗那と一緒に食べる理由もなければ、断る理由もない。


 例え、一人で食べたいから紗那と一緒に食べるのを断ったとしてもなんやかんや理由をつけてついてくるのは予想できるので断るだけ無駄である。


 むしろ体力を削られて真希側にはデメリットしかない。


 真希は少しずつ紗那の扱い方を熟知していく。


「そうなんですね。実はここに行こうと思っているんですけど鈴木先輩は大丈夫ですか?」

「別にあたしは大丈夫だが珍しいな。いつもなら『一人で食べたいのでついてこないでください』って断られると思ったのだが」

「断ってほしかったんですか。なら断ります。一人で食べたいので鈴木先輩も一人で食べてください」

「いやそういうわけじゃない。……最近角が取れすぎて逆に怖いな」


 真希がこのファミレスで良いか紗那に確認すると、てっきり断られると思っていた紗那は心底驚く。


 その紗那の反応にイラっとした真希は思わず拗ねてしまう。

 そんな反応されるとは思っていなかったので内心ショックだった。


 紗那も自分の失言に気づいたらしく、罰の悪い表情を浮かべていた。


「あれ? ここは清美が働いているファミレスじゃないか。意外だな、先輩が働いている店でお昼を食べるなんて」

「別にそういうの気にしませんし。この間沢田先輩からクーポン券もらったので、せっかくだから行こうと思いました」


 ファミレスの場所と名前を聞いて紗那はすぐにそのファミレスが清美が働いているファミレスだということに気づいたらしい。


 紗那は友達や先輩が働いている店でお昼を食べようとする真希に抵抗感がないことに驚く。


 そもそも友達がいなかった真希は今までそんなことを気にしたことすらなかった。


 それにそのファミレスに行く理由はこの間清美にクーポン券をもらい安く食べられるから行くのだ。


 それ以外に行く理由はない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る