第40話 それこそ気のせいです
「なんで鈴木先輩が一日中緊張していたんですか。おかしいでしょ」
「おかしくないさ。北野後輩は大切な後輩だからね。心配するのは当たり前のことだよ。それに清美も麗奈も一日中ソワソワしてたし。それぐらいみんな北野後輩のことが好きなんだよ」
自分のことでないのに、一日中緊張していた紗那に真希は呆れていた。
本当にお人よしすぎる。
しかも一日中緊張して心配していたのは紗那だけではなく清美と麗奈も同じようにソワソワしていたことを知って、さらに真希は呆れるもその好意は嬉しかった。
「そう言えば今日は沢田先輩と黒木先輩はいないんですね」
「清美はバイトで麗奈は塾に行っている。二人とも北野後輩に会いに行けなくて悔しそうな顔をしてたよ」
一日中ソワソワしていたはずなのに、なぜかここに清美と麗奈がいないことに疑問を抱いた真希が紗那に質問する。
紗那に二人がいない理由を言われて、真希は一人納得した。
塾ならまだしもバイトは自分勝手な理由でさぼるわけにはいかない。
「そうなんですね。では二人には明日伝えますか」
「ンフフ……」
「なに笑ってるんですか」
いきなり紗那にクスクス笑われた真希は不機嫌そうな表情を隠さずに紗那を睨みつける。
「いや。北野後輩も変わったなと思って。出会ったばかりの北野後輩だったらそんな自分の得にもならないこと自発的にしなかっただろ」
「別に変わってませんよ。鈴木先輩の気のせいです」
「そうか?結構丸くなったような気はするけどな」
「それこそ気のせいです」
「北野後輩がそう言うならそういうことにしておくさ」
紗那が笑った理由は真希が出会った時よりも角が取れ丸くなったことが微笑ましかったらしい。
変わった自覚がない真希は紗那の言葉に不服だったので噛みつく。
いくら変わったと言っても聞く耳を持たない真希を見て、紗那はこれ以上言い合うのは不毛だということを理解し折れた。
なんか子供扱いされたようで真希はモヤモヤした。
「でも北野後輩の肩の荷が下りて本当に良かったよ。お疲れ様北野後輩」
「……ありがとうございます」
「それじゃー今日は疲れたし帰ろうか」
「そうですね。今日はとても疲れました。早く家に帰って休みたいです」
今まで他愛もない会話をしていたのに、急に真面目な表情で労わられると照れてしまう。
紗那は真希を気遣い家に帰ろうと提案する。
真希も愛理の件でかなり疲れたので、紗那の提案に賛成する。
紗那の言う通り、愛理と話し合い愛理のことを知り和解することができた。
それも紗那たちが真希を気にかけ、背中を押してくれたおかげである。
もし紗那たちがいなかったら愛理との問題はもっと長引いて真希は精神的に病んでいただろう。
だから真希は心の中で紗那に感謝した。
真希が心の中で感謝して直接紗那に言えなかった理由は、気恥ずかしかったからだ。
その後、二人は他愛もない会話をしながら家へと帰っていった。
その二人の表情に笑みがこぼれていたのは言うまでもない。
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