第39話 ……なんで鈴木先輩がホッとしているんですか
「陽子があたし以外の人と話すとモヤモヤするの」
「それ、結構ヤバいだろ。私が牧野だったら間違いなく桐島のこと嫌ってるぞ」
「えっ……マジ」
「マジだ」
どうやら愛理は自分の異常に気づいていなかったらしい。
さすがにそれはヤバいだろう。
まだ付き合っているわけでもないただの幼馴染が、自分と違う人に話しているだけで嫉妬するのは友達がいない真希ですら異常だと分かる。
真希が違う人に話すたびに、好意を寄せている幼馴染が嫉妬したり妨害していたらドン引きだし幼馴染の縁を切る。
「よく考えてみろ。もし牧野が桐島が他の人と話すたびに嫉妬したり妨害したり機嫌を悪くしてたら嫌だろ」
「……確かに嫌だわ」
真希が愛理と陽子を逆転させて説明すると、愛理もその異常性に気づいたらしく物凄くショックを受けていた。
「それに桐島が牧野が好きなことはもちろん、牧野だって桐島のことが好きだろ。両想いなんだから牧野が私に話しかけたぐらいで嫉妬なんてしなくても良いだろ」
「両想いじゃないよ。これはあたしの片思い。陽子は多分あたしに恋愛感情なんてないと思うよ。だから陽子が北野と笑顔で話したり、二人でいる時に北野の話ばかりされると嫌で嫉妬していた」
てっきり二人は両想いだと思い込んでいた真希は少しずつ自分の考えが勘違いだったことに気づいていく。
確かに陽子は愛理のことを慕っている。
陽子の好意は『友愛』であい『恋愛』ではない。
「なんか複雑だな。牧野も桐島もお互いが好きなはずなのに、その好きのベクトルが違うなんて」
「そうなの。あたしと陽子は好き同士なのに、あたしと陽子の好きは違う。あぁー、自分の好きが伝わらなくてモヤモヤするー」
「だからそれで当たるなよ。もう懲り懲りだからな」
「それは……本当にごめん。次は気を付ける」
愛理も自分の好きと陽子の好きは違うことには気づいているらしく、それが通じ合わなくてモヤモヤしている。
そのモヤモヤに巻き込まれる人間のことも考えてほしい。
その指摘を真希がすると、愛理も反省しているらしくションボリする。
「あっ、ごめん電話だ。……陽子からだ。ヤバい、昇降口で待ち合わせしてたんだ。ごめんね北野、行かなくちゃ」
どうやら陽子と待ち合わせをしていたらしく、愛理がなかなか来ないから心配して電話をしてきたのだろう。
「散々北野に迷惑かけたからこのことは借りにしておくから。それで許されるとは思わないけど。それじゃーまた」
「おい。別にお前の借りなんていらねーよ……って行っちゃった。ホント桐島は牧野のことが好きだな……」
いつの間にか愛理への貸しが一つできてしまった真希。
別に愛理からの貸しなんていらなかったのだが断る前に屋上から出て行ってしまった。
本当に陽子第一優先である。
「……帰るか」
もうこれ以上真希が屋上にいる意味がない。
真希は茜色に染まる空を背にドアを開けて校舎の中に入る。
これで明日から変に愛理に絡まれることはなくなるだろう。
ようやく真希は肩の荷が下りてストレスから解放されたのであった。
「どうやら上手くいったようだな」
「……鈴木先輩」
一人で階段を下りていると踊り場で真希のことを待っていた紗那と遭遇する。
ちなみに清美と麗奈の姿はない。
「先ほど桐島後輩と思しき女の子が階段を降りて行ったよ。彼女、凄く清々しい顔をしていたよ。それを見て上手くいったんだなとあたしまで安心したよ」
「……なんで鈴木先輩がホッとしているんですか」
「そりゃー可愛い後輩の悩みが解決したからだよ。あたしも今日一日気が気でなくてね。上手く解決できて良かったよ」
紗那の言う通り、これで真希と愛理のわだかまりは溶けただろう。
これで明日から変に睨まれたり怒鳴り合うことはなくなると思う。
それを知った紗那はまるで自分のことのように安心し、喜んでくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます