第35話 ……北野後輩はかなりのコミュ障かもしれん
「別に大したことではないさ」
「そうそう。困った時はお互い様だしね」
「少しでも楽になったのなら良かったです」
紗那も清美も麗奈も、本当に優しい先輩である。
その優しさだけでも嬉しい。
「北野さんの話を聞く限り、北野さんが桐島さんに嫌われる理由が分かりませんね。北野さんは基本クラスでは話さないですし」
「そうなんだよなー。なにが原因なのか全く見当がつかない。北野後輩の話を聞く限り、自分からは桐島後輩と話さないらしいからな」
「なんか逆恨みとか?」
先輩三人が真希のために、色々と考え合う。
「私から桐島に話しかけたことなんてありませんし」
真希が記憶している限り、自分から愛理に話しかけた記憶がない。
毎回、愛理の方が真希に絡んでくるのだ。
だから恨みを買う覚えも全くない。
「なるほどな。桐島後輩から一方的に因縁つけてくるわけか」
「私視点そうです」
「それに中学も一緒じゃないと?」
「はい、違います」
「それじゃー前から怨恨という可能性もないわけだ」
紗那はいろんな可能性を考えながら一つ一つ、その可能性を潰していく。
真希視点、自分から愛理に話しかけたことすらなければ、中学が同じだったというわけでもない。
一体、なにが原因で愛理が真希にきつく当たるのか想像もできない。
「そう言えば北野さんって牧野さんというクラスメイトとは話すんですか」
「話すというか、一方的にあっちがは話しかけてくるんです。一人でいたいと言っているのにも関わらずどっかの先輩のように話しかけてきます」
麗奈はまた違った視点から質問をしてくる。
どうやら麗奈は愛理だけではなく陽子の存在も気になるらしい。
真希が陽子について自分が知っている範囲で話すと、麗奈はまた考え込む。
「北野後輩。今あたしがディスられたような気がしたのは気のせいかな」
「気のせいです。鈴木先輩はいつもウザいのでディスってません」
「少し元気になってくるとやはり可愛げがない後輩だな」
「こういう後輩を好きになったのは先輩です。我慢してください」
「くそ~なにも言い返せないのが悔しい」
ディスられていると勘づいた紗那がそれを指摘すると真希は素直に頷いた。
そもそもこんな後輩を好きになったのは紗那の方であり、紗那が悪い。
真希が開き直るとなにも言い返すことができず、紗那は一人唸る。
ちなみに真希だったら絶対こんな後輩を好きにはならないし、仲良くなろうとも思わない。
「……あれ絶対両想いだよね?」
「……本人たちは気づいていないようなので、私たちは静かに見守ってましょう」
向かい側で清美と麗奈がなにか話しているが、店内がうるさいので聞き取ることができなかった。
「冗談はさておき、牧野後輩と桐島後輩は仲が良いのかい?」
「幼馴染らしいので結構仲が良いとは思います。いつも二人一緒にいるので」
「ふむふむ。ちなみに牧野後輩と桐島後輩って付き合ってるかい?」
「いや、付き合ってはいないとは思います。仲の良い幼馴染って牧野は言ってました」
愛理のことで悩んでいるのに、麗奈に続き紗那も陽子のことを聞くようになってきた。
これになんの意味があるのだろうか。
今まで友達がいなかった真希には推し量ることができなかった。
「桐島後輩は牧野後輩のことをなんて思っているのか聞いたことはあるか?」
「桐島とは話さないので分かりません。あんな奴とは話したいどころか、見たくもありません」
陽子が愛理のことを仲の良い幼馴染ということは本人から聞いたことはあるが、その逆はない。
そもそも愛理なんて話したいどころか見たくもないし、一緒の空間にもいたくない。
それほど真希は愛理のことを嫌っていた。
「あれ、そう言えば牧野が北野に話しかけるといつも桐島の機嫌が悪くなるんだよね?」
「はい、そうですが」
「あっ、あたし分かっちゃったかも」
「今の話を聞くとあたしも分かったかもしれません」
「私もです。桐島さんが不機嫌な理由はあれだと思います」
「?どういうことですか。全然話が見えないんですけど」
最後の清美の質問で、先輩たち三人はなぜ愛理が真希に対してきつく当たるのか分かったらしい。
その原因に気づいた三人はなぜか、ため息を吐いている。
一人だけ話についていけない真希は一人、首を傾げる。
「……北野後輩はかなりのコミュ障かもしれん」
「……まさかここまで来ると、笑えないわね。っていうかこれってかなり単純じゃない?」
「……私の予想が当たっていれば、すぐに解決できますね」
「ちょっと三人してヒソヒソ話は止めてください。凄く気になるじゃないですか」
三人がヒソヒソ話を始めたので、蚊帳の外に出された真希は抗議の声を上げる。
三人はすぐに分かったのに、いまだにその原因が分からない真希からすれば歯がゆかった。
これも高校三年生と一年生の人生経験の差だろうか。
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