第33話 最近、あたしの扱い雑過ぎない?
「そうだよ北野。別に先輩後輩ってあんまりこだわらなくても良いでしょ。通路側の人間が運んできた方が合理的だし、あたしは後輩だから先輩に気を使えなんて思ってないし。北野は年齢にこだわりすぎ」
「私たち三人は年齢とか気にしていませんので肩ひじを張らなくても大丈夫ですよ」
清美も麗奈も真希との年齢を気にしておらず、年齢を気にしすぎている真希に優しくしてくれる。
少なくともここにいる三人の先輩は、先輩だから、後輩だからを気にするような器の小さい先輩ではないらしい。
「分かりました。ではお言葉に甘えさせていただきます」
先輩三人が気にしなくて良いというなら、真希が意固地になって年齢にこだわるのは逆に三人に失礼である。
真希は素直に紗那の好意を受け取ることにした。
「それではオレンジジュースをお願いします」
「了解。氷はありなし?」
「ありで」
「了解」
真希はオレンジジュース氷ありを紗那に注文する。
紗那は嫌な顔一つせず、むしろ嬉しそうに注文を受けるとドリンクバーのところに行く。
「麗奈はなににする?」
「コーヒーをお願いします。もちろん、ブラック、氷ありで」
「了解。それにしてもよくブラックで飲めるよね~。あの苦さは人が飲みものじゃないよ」
「人の飲み物にケチをつけないでください」
「北野ってコーヒーってブラックで飲める?やっぱり砂糖とかミルク入れるよね?」
「いえ、ブラック飲めますよ」
「マジッ。まさかあたしだけじゃん。この中でコーヒーブラック飲めないのって」
清美はブラックコーヒーが飲めないらしく、ブラックコーヒーを飲む人の嗜好を理解できないらしい。
だから清美は同士を増やそうと真希にブラックコーヒーを飲めるか聞くが見事に玉砕し、自分以外ブラックコーヒーを飲めることにショックを受けていた。
別にブラックコーヒーが飲めても飲めなくてもそれは人の好みだし、そこに上も下もない。
「どうした清美。ドリンク持ってこないのか?」
「ちょっと聞いてよ。北野もブラックコーヒー飲めるんだってー。あたしだけじゃん。ブラックコーヒー飲めないのって」
ずっと真希たちの席の前で立っている清美を訝しんだ紗那は清美に声をかけると、清美は自分だけブラックコーヒーが飲めないことを愚痴る。
「そうか。北野後輩もブラックコーヒーが飲めるのか。また一つ北野後輩のことを知れたな」
「まぁ……そうですね。私も鈴木先輩や黒木先輩がブラックコーヒーを飲むことができて、沢田先輩がブラックコーヒーを飲めないことも知れたので」
紗那はまた一つ真希のことを知れて嬉しそうな表情を浮かべている。
なぜ紗那が嬉しそうな表情をしていたのか分からず、真希は心の中で首を傾げる。
「清美、早く持ってきてください。紗那はもう持ってきてますよ」
「分かったよ。あぁー、麗奈は怖い怖い」
なかなかドリンクを持ってこない清美に痺れを切らした麗奈は少し苛立ちながら催促する。
麗奈に少し怒られた清美は文句を言いながらも、ドリンクを取りに行く。
「はい、オレンジジュース」
「ありがとうございます」
紗那は真希の隣に座ると真希にオレンジジュースを手渡す。
それを真希はお礼を言って受け取る。
しかもストローが刺さっているので飲みやすくなっている。
「ストローが刺さっているので飲みやすいです」
「そうだろ。喜んでもらえて良かったよ」
真希は一口、ストローを使ってジュースを飲む。
その瞬間、口の中に甘みと酸味が広がる。
真希はストローのことにお礼を言うと、紗那も嬉しそうな表情を浮かべる。
「麗奈ー、持って来たよー。はい、ブラックコーヒー」
「ありがとうございます」
「それじゃーみんな飲み物持って来たことだし、乾杯でもしますか」
清美が麗奈にドリンクを渡し、麗奈はお礼を言ってから受け取る。
「すみません。一口飲んでしまいました」
まさか乾杯するとは思っていなかった真希は、一人だけフライングしてしまい申し訳なさそうに謝る。
「別に気にしなくても大丈夫だよ、北野。乾杯はあたしの思いつきだし」
申し訳なそうに謝る真希を見て、逆に乾杯を提案した清美が申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「そうだぞ。清美がもっと早く持ってくれば北野後輩がフライングすることもなかったのにな」
「そうですね。清美がいつまでもここで駄弁っていたのが悪いです」
「ちょっとなんで二人はいつもあたしを悪者にするのよ。最近、あたしの扱い雑過ぎない?」
真希のことを慮り、紗那と麗奈はわざと清美を悪役に仕立てる。
清美もそれを薄々感じているのか、大げさに反応する。
そんな三人のやり取りを見て面白かった真希は思わずクスッと笑う。
真希が笑って安堵したのか、三人の表情も綻ぶ。
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