第14話 無理して北野と仲良くすることないんじゃないの
「ごめんね北野さん、愛理ちゃんがひどいこと言って。でも愛理ちゃんって本当は優しい女の子なんだ。北野さんにはなぜか辛辣だけど」
二人の険悪な雰囲気を和ませようとしたのか、愛理の幼馴染である陽子が愛理のことを庇う。
「別に気にしてないから大丈夫」
なぜか陽子の方が気を使っているが別に真希はなにも気にしてはいなかった。
「……ちっ」
そしてなぜか陽子と話を交わしただけで睨まれ舌打ちをされる。
この女は相当面倒くさくて嫉妬深い女だと言うことが分かる。
人とあまり接してこなかったが、どうして真希が愛理の目の敵になっているのかだいたいは予想がつく。
きっと愛理は陽子のことが好きなのだ。
陽子はどうかは分からないがきっと、幼馴染とぐらいしか思っていないだろう。
でもその陽子が、愛理と話す時間を割いてまで真希と話していることが気に入らないのだろう。
「それじゃー愛理ちゃん、またね」
「うん。またね……」
更衣室の前にたどりついた三人は、男女で別々の更衣室に分かれる。
陽子はいつも通りの優しい笑みを浮かべていたが、愛理は物寂しそうな表情を浮かべ、なぜか真希を羨ましそうな目で睨んでいた。
着替えは男女別々なんだから、そんなことで文句を言われても迷惑だ。
真希は心の中でため息を吐いた。
「陽子、遅かったね」
「うん、愛理ちゃんや北野さんと来たから少し遅くなっちゃった」
「へぇーそうなんだ」
男子更衣室に入るとすぐにその中にいた男の娘に話しかけられる陽子。
陽子はクラスの中でも人気なため、陽子に話しかけてくる人は多い。
陽子に話しかけてきた男の娘も、入学初日から仲良くなった取り巻きの一人だろう。
「北野さんも着替えよっ」
「牧野に言われなくても着替えるから大丈夫だ」
陽子は友達のいない真希に気を使い話しかけてくる。
それが大きなお世話ということになぜ陽子は気づいていないのだろうか。
「無理して北野と仲良くすることないんじゃないの」
「別に無理してないの。私はみんなと仲良くなりたいだけだから」
「……陽子がそういうならあたしはこれ以上なにも言わないけど……」
真希に邪険に扱われている陽子を見て、取り巻きが陽子にお節介を焼く。
陽子が無理してではなく自分が好きでやっていることだと言われると、取り巻きは渋々引き下がった。
もうすぐ体育の時間も始まると言うこともあり、すぐに体操着に着替え校庭に集合する。
ちなみに男女とも上は白の半そで、下は青のハーフパンツである。
四月で季節も春ということもあり、日差しは穏やかで過ごしやすい気候である。
気候は最高に過ごしやすいのだが、体育の時間は他の授業と比べてかなり憂鬱な時間だ。
「では二人でペアを作って、ストレッチをしてください」
それは体育の時間だと、毎回こうして二人でペアを作らされるからだ。
他の授業なら隣同士の人とやればいいが、体育だと好きなように移動することができる。
そうすると、自然と仲の良い同士で集まることなる。
ボッチの真希には誰も集まることなく、一人だけあぶれることになる。
普段は一人でいる方が気が楽な真希だが、この時ばかりは居心地が悪い。
ペアであぶれると仲の良い三人組の誰かと組まされることが多い。
そうなるとお互い気まずくて地獄である。
だからこういう生徒同士でペアを作らせるのは、真希みたいな被害者を作らないために廃止した方が良いと思うのだが、言ってもそれは真希ぐらいしか当てはまらないため却下されるのがオチだろう。
「北野さん、一緒にストレッチしない」
なにを血迷ったのか、一人あぶれている真希に陽子が声をかける。
きっと一人あぶれている真希を哀れんで声をかけてきてくれたのだろう。
「……別に良いけど」
ここで断るほど真希は馬鹿ではないし、そもそも断ったところで組む相手もいない
なら、ペアを組もうと頼んできた陽子と組む方がベストだろう。
「あぁ~、あたしが男の娘か陽子が女の子だったら一緒にペア組めるのに~」
「それはしょうがないよ~愛理ちゃん」
体育のペアは基本、男女で組むのが一般的である。
ストレッチのペアを陽子を組みたかった愛理は不平不満を垂れ、陽子が苦笑いを浮かべながら慰めている。
「はいはい、愛理も文句言わないの。ペアの私が悲しくなるでしょ」
「ごめんね弥生」
愛理のペアの弥生という女の子も愛理をからかうような感じで宥める。
愛理も弥生に失礼なことを言ったと自覚したのか素直に謝る。
「別に私は愛理ちゃんのことが好きだからストレッチしても良いけど、男子も女子も偶数だから私と愛理ちゃんがペアを作るともう一ペアも男女ペアになっちゃうから愛理ちゃんとは組めないね」
陽子的には愛理とストレッチするのは大丈夫だが、男子も女子も偶数のため陽子と愛理がペアを組むともう一組のペアも男女ペアになってしまう。
そうなるから陽子は愛理とペアが組めないらしい。
「あら愛理。好きだって言われてるわよ」
「うっさい弥生。からかうな、この馬鹿」
愛理をからかう弥生に真っ赤な顔で愛理は言い返す。
言わなくても分かると思うが、陽子の『好き』はきっと幼馴染としての『好き』だろう。
そして愛理の反応を見る限り、愛理の『好き』は恋愛としての『好き』だろう。
別に真希には関係ないからどうでも良いのだが。
「陽子ー、愛理も陽子のこと好きだって」
「ちょっ、弥生、なに言ってるのよ」
「うん、ありがとう愛理ちゃん。私も好きだよ」
弥生も高校一年生の女の子だ。
色恋沙汰が好きな年頃なのだろう。
愛理の色恋沙汰には興味はないが、あんなに恥ずかしそうに慌てている愛理を見るのは滑稽で面白い。
陽子は嬉しそうな表情を浮かべながらお礼を言い、自分も好きだと伝えているが完全にすれ違っている。
愛理には悪いがこれはこれで面白い。
「さっさとストレッチするわよ弥生」
「はいはーい」
「それじゃー私たちもストレッチしようか、北野さん」
「そうだな」
その話題であまりいじられたくなかった愛理は無理矢理話を終わらせストレッチを始める。
弥生もからかえて満足なのか清々しい笑顔だった。
陽子も今がストレッチする時間だと思い出し、真希も陽子と一緒にストレッチを始めたのであった。
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