第13話 お前は馬鹿か。これが見えないのか

 朝の紗那の出待ちはもはや日常になり、その後電車を降りると清美と麗奈と合流する。


 これが真希の朝のルーティーンになっていった。


 紗那たちといるとひっきりなしに話題を振られるので面倒だったが逃げる場所がないため、真希は諦めた。


 そして教室では相変わらず一人でいる。


 たまに陽子が気を使ってというか仲良くなるために話しかけるぐらいで、むしろ教室にいる方が一人でいられて楽だった。

 もちろん、好んで一人でいるのになぜかクラスでは腫物扱いするような視線を向けられる。


 本当に心外である。


 どうしてみんなといることが『善』として一人でいることを『悪』だ思っているのだろうか。謎である。


 真希からすれば、全く分からないのに友達の言葉に共感して友達ごっこをするより一人で自分の好きなことをしている方が楽である。


「北野さん、次の授業体育だから一緒に更衣室に行かない?」


 休み時間になり、ちょくちょく陽子が真希に話しかけてくる。

 紗那のようにウザいまでは行かないが、煩わしいと思っている。

 でも紗那のように強引なことはしないので、まだ陽子の方がマシである。


「そうだな。移動しないとな」


 別に陽子の提案にのったわけではないのだが、次は体育で更衣室で着替えをしなければならないため、真希も移動を開始する。


「そんな奴、気にかける必要ないわよ陽子。早く行くわよ陽子」


 一度も話したことがないのに愛理は明らかに真希を敵視している。

 変に馴れ馴れしいより愛理の方がまだマシである。この時は。


「待って愛理ちゃん。行こう、北野さん」


 先に行く愛理を見て焦った表情を浮かべる陽子。

 でも真希と一緒に行くのは諦めていない陽子は、手や腕ではなく袖を掴み愛理を追いかける。


 陽子を力ずくで払いのけることは簡単だが、陽子の体は真希よりも華奢である。

 力ずくで払いのけたらきっと陽子は転倒し、それを見た愛理は怒り狂った顔で真希に詰め寄るだろう。


 それはかなり面倒くさい。


 だから真希は陽子に逆らうことはせずされるがまま連れていかれる。


「どうして北野が一緒についてくるのよ」

「お前は馬鹿か。これが見えないのか」


 明らかに不満そうな表情を隠さず睨み愛理に、真希は陽子が掴んでいる袖を見せつける。


「陽子もそんなもの離しなさい」

「えぇー別に良いじゃん。多い方が楽しいよ」


 姉のように注意する愛理に、陽子は頬を膨らませて抗議をする。

 その抗議内容が意味不明すぎて、真希は理解できなかった。


「おっ、北野後輩が同級生と仲良く歩いているぞ」

「あっ、ホントだ。北野もなんやかんや言って友達いるじゃん」

「……いやあれはただ渋々ついていっているだけですよね」


 廊下ですれ違った紗那と清美にからかわれ、麗奈だけは真希の状況を理解しているらしく紗那と清美に呆れていた。


 紗那と清美はこれのどこが仲良さそうに歩いているように見えるのだろうか。


 眼科、もしくは脳神経外科に行くことをオススメする。


「北野さんって先輩たちと仲が良いの?」


 先輩三人のやり取りを聞いていた陽子は世間話をするかのように自然な感じで話しかけてくる。


「……仲が良いのか分からないが懐かれてる」


 真希は瞬時に思考を巡らせ、不服そうに答える。

 真希は別に紗那たちとは仲良くしたいとは思っておらず、懐かれていることに辟易している。


「北野さんって先輩たちに可愛がられてるんだね」


 今のセリフでどうやって陽子はその思考に辿り着いたのか全く理解できない。


「こっちからしたら迷惑でしかないのだが」


 真希は迷惑そうに答える。

 陽子もそうだが、別に高校に通っているのは高校卒業という資格が欲しいからであって別に友達を作るわけでに通っているわけではない。


 本当は通信制でも良かったのだが、親に大反対されて渋々全日制に通っている。


「全く北野後輩は素直じゃないな」

「絶対照れ隠しだよー」

「……いや、割と本音だと思いますけど」


 真希と結構離れているのにも関わらず真希たちの会話を聞き取るのなんてかなりの地獄耳だ。


 しかも紗那と清美は自分の都合が言いように解釈している。


 呆れてなにも言えない。


 そんな的外れなことを言っている二人に麗奈だけは呆れていた。


「へぇー、北野って先輩たちとは結構話すんだ」

「別に私が話すんじゃなく、あっちが話しかけてくるだけだ」


 愛理が高圧的に真希に話しかける。

 他の友達とはもっと柔らかいのに、真希だけ声が鋭い。


 別に真希から紗那に話しかけているわけではなく、主に紗那が真希に話しかけてくるだけである。


 その愛理の『自分から会話するんだ』みたいな言い方は不適切である。


「あっそっ」


 愛理は興味がなさそうに鼻を鳴らす。

 自分で聞いてきたくせに失礼な女である。

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