第4話 黒木麗奈と沢田清美

 沢田清美は紗那と同じ高校三年生の女の子だ。

 身長百六十半ばで、紗那より小さいが真希よりは大きい。

 髪はブリーチしているのか金髪のショートでツインテールに結っている。

 見た目も喋り方もギャルのような感じで、真希が苦手とする人種だった。

 そもそも一人が好きな真希とギャルはまさに水と油みたいな存在だ。

 目もパッチリしていた可愛いし、制服を着崩して着ているせいか胸が凄く強調されている。

 胸は推定Gカップぐらいあるだろう。

 かなりの巨乳である。


「それって好かれてないよね。むしろ嫌われてるよね」

「そうなのか。別にそんなことはどうでも良いだろう。最終的に仲良くなれば良いんだから」


 どうやら紗那よりも清美の方が物分かりが良いらしい。

 紗那の方は相変わらずポジティブというか馬鹿である。

 あのウザくて馬鹿な先輩に捕まると、貴重な真希の体力と時間を奪われることになる。


 そんなのは嫌だ。


「紗那。北野逃げ出したよ」

「そうだな。逃げたなら捕まえれば良い。簡単なことだろ」

「だね。ならあたしも本気で追いかけちゃうよー」


 ウザい紗那に捕まりたくないという一心で真希は紗那たちから逃げ出す。


 だが二人ともなぜか面白がって、真希を追跡する。


 鬼ごっこでもしていると勘違いしているのだろうか。


 廊下を走ってはいけないという校則があるが、そんな校則を守っている生徒なんてほとんどいないし、校則も守よりも二人に捕まらない方が優先度は高かった。


 真希は全力で逃げ、二人は獲物を追い詰める狩人のように楽しそうに追いかける。


 あいつら、楽しんでやがる。


 真希は心の中で悪態を吐いた。


 そして廊下の曲がり角を曲がろうとした時、誰かとぶつかってしまった。


「いたっ」

「す、すみません」


 廊下を走っていた真希が百パーセント悪いため、真希はぶつかった相手に素直に謝る。


「廊下を走るとぶつかって危ないから、廊下を走ってはいけないという校則があるのに知らなかったんですか」

「いえ……すみません」


 その女子生徒は校則を破った真希にかなり怒っているらしく静かな口調で説教をする。


 冷静に怒っているせいか、普通に怒られるよりも恐怖感は強い。


 しかも圧を感じるのでなおさらだ。


 真希も自分が百パーセント悪いと言うことを自覚しているので、素直に謝ることしかできない。

 そして相手の顔を見た時、今朝紗那と話していた真面目な女の子ということに気づいた。


 黒木麗奈、朝紗那と一緒にいた女の子だった。

 身長は百六十前半と、この女の子も真希よりも高い。

 黒髪のロングヘアーで、腰近くまで長い。それにも関わらず枝毛一本もなくサラサラして美しい髪だった。

 前髪は姫カットで、目は釣りあがっていてクールな印象を与える。

 それに真希と同じく眼鏡をかけている。

 制服は当たり前と言えば当たり前だが、しっかり校則通り着ている。

 胸は制服の上から分からない感じなので、推定Aカップぐらいだろう。

 紗那と清美と違って、貧乳の分類に入るだろう。


「廊下を走るとぶつかって、最悪の場合大けがになることだってあるんですよ。以後気を付けてくださいね」


 別に後輩に先輩風をふかしたかったわけではなく、説教はすぐに終わった。


「……はい」


 真希は深く反省し、その場から離脱を計ろうとする。


「捕まえたぞ北野後輩。ナイスアシストだった麗奈」

「つーかまえたー、北野」


 そこに廊下を走って来た紗那と清美が逃げられないようにするためにしっかりと真希の両腕を抱きしめる。


 制服越しからも分かる胸の弾力のせいで、脈拍が少しだけ上がってしまう。


 やはり、女の子特有の柔らかい体は色々と刺激が強い。


 真希が紗那たちに捕まった瞬間、前から今までの比ではないぐらいの圧を感じた。


「紗那、清美。あなたたちもう高校三年生ですよね。廊下を走って後輩を追いかけ回してなにをしているんですか。来年は大学生、もしくは社会人になっているんですよ。高校三年生になって少しは大人しくなると期待した私が馬鹿でした。ですので期待は止めます。私は二人の友達として二人には大人になってもらいたいのです。ですからまずはそこに正座をしてください」


 麗奈の言葉には有無を言わせないほどの圧力があった。

 当事者ではない真希ですら、ビビるほどに麗奈の言葉は本能的恐怖を感じた。


「……ヤバい、完全に麗奈を怒らせてしまった」

「……こうなったら気が済むまで怒られないと長引きそうね」

「ここは逃げるしかないよな」

「そうね。面倒だし」


 紗那と清美は一瞬青ざめた表情を浮かべたが、すぐに切り替え二人で逃げることを画策し先ほど麗奈に『廊下を走るな』ということを無視し、逃げ出した。


「待ちなさい。廊下は走るなって言いましたよね」

「そうだな。でも真面目な麗奈は廊下を走って追いかけるようなことはしないよな」

「そうよね。ここで廊下を走ったら麗奈も同じだもんね」


 麗奈が逃げた二人を走って追いかけようとした時、紗那と清美が走り出そうとした麗奈にブーメランを投げる。


 麗奈はかなり真面目な性格らしく、ここで廊下を走ったら自分も同じになってしまうと考えたらしい。


「紗那、清美。後で覚えてなさい」


 麗奈はブツブツ文句を言いながら歩いて追いかけるも走っている二人に追いつけるわけもなく、どんどん距離が離れていく。


 真希はそんな三人のバカ騒ぎに呆気をとられていたが、すぐに正気に戻り紗那に捕まる前に家に帰ることができた。

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