第5話 紗那に会わないように
次の日。
ウザい紗那に会いたくなかった真希は、いつもより早起きをして三十分も前に駅に向かった。
朝早く起きたせいで、睡眠時間がいつもより三十分も短くなってしまったが、紗那に絡まれて精神的に疲れるよりはまだマシだった。
三十分早くてもこの時間帯は通学、通勤ラッシュのため人混みはあまり変わらない。
昨日と同じように制服を来た学生やサラリーマン等、いろいろな人がプラットホームで電車を待っていた。
「今日は早いんだな北野後輩」
「げっ」
先に駅に着いていた紗那が余裕そうな表情を浮かべながら真希を迎える。
紗那に会いたくなかった真希は思わず嫌な表情を浮かべた。
「そんなに早く駅に来るなんて、そんなにあたしに会いたかったのかー……」
真希の嫌そうな表情に気づいていないのか、真希が駅に早く来たのは紗那に早く会いたかったと都合よく解釈をし、茶化してくる。
「全然違いますよ。むしろ一人で静かに登校したかったので早く来たんです」
相手が先輩でも紗那相手なら気を使ったり遠慮する必要はどこにもないだろう。
真希は歯に衣着せずに紗那に伝える。
「北野後輩のそういう先輩に対してもズバズバ言う性格は本当に凄いとあたしは思う」
「ありがとうございます」
なんだか紗那に皮肉を言われたような気がするので、真希も皮肉で返す。
そもそも先輩だからと言って遠慮する必要はないと思うし真希自身、遠慮されて本人にはなにも言わず、真希のいないところで陰口を言われる方が嫌である。
だったら直接、文句や悪口を言われる方がマシである。
もちろん、直接文句や悪口を言われたら無視するか、文句や悪口を言い返すが。
「気になったのだが、北野後輩って先輩に対してもズバズバ言うよな。敬ったり遠慮したりしないのか?」
「基本しないですね。別に年上年下関係なく私は自分の気持ちを伝えますので。それが嫌なら私に関わらなければ良いですし、私も一人でいる方が楽なんで」
多分社会的に見て、真希の考え方の方が間違っているのだろう。
そもそもどうして年上だからといって敬ったり遠慮しなければならないのか真希には理解できない。
そもそも年が違くても同じ人間だし、そこに上も下もない。
「ホントに初めてできた後輩がこんなにひねくれていて面白いなんてある意味最高だよ」
困っているのか喜んでいるのか分からない声音で紗那は呟く。
「残念でしたね、ひねくれた後輩で」
ここでもう一回真希は紗那に皮肉を言う。
「いや、全然残念じゃないよ。北野後輩は素敵な後輩だとあたしは思うよ」
「……」
今までこの性格を褒められてこなかった真希は、紗那にこの性格を肯定され思わず照れてしまった。
「もしかしてときめいちゃったか~、このこの~」
「別にときめいていないですから。頬をツンツンするの止めてください。その指、折りますよ」
「北野後輩が言うと冗談に聞こえないのだが」
「冗談じゃなく本気ですので、冗談に聞こえなくて当然です」
照れている真希をからかうように頬をツンツンする紗那にイラついた真希は、ツンツンしている指を折ると紗那を脅迫する。
もちろん本気ではないが、もし紗那がそれでも止めなかった場合逆方向に曲げるぐらいの制裁は行うつもりだった。
だが紗那も指は折られたくなかったのか、素直に言うことを聞いてくれた。
「というか鈴木先輩もずいぶん変わってますよね。私と仲良くなりたいなんて」
「おや、それはなぜだい?意味が分からないのだが」
この時、紗那は演技でもなんでもなく本気で真希が言っていることが分からず首を傾げた。
「私はこんな性格ですし、仲良くするメリットとかないと思うんですけど」
もし真希が先輩で、こんな後輩がいたら絶対仲良くしたいとは思わないし、そもそも関わりたくもない。
それなのに、紗那はウザいぐらい真希に話しかけ仲良くなろうとしている。
真希からすれば紗那の方が意味不明である。
「まずこれだけは言っておくが、別に人と仲良くなる時にメリットとかデメリットとかあたしは考えない。そもそもあたしがその人と仲良くなりたいのは『仲良くなりたい』からであって、そこにメリットやデメリットは関係ない。もしメリットやデメリットを考えて仲良くなる人を決めているならそんな人とは仲良くなりたいとは思わない。さすがにそれはあたしを馬鹿にしすぎではないか」
紗那の口調はいつものようなちゃらけた口調ではなく、強い口調だった。
「……ごめんなさい」
紗那の口調が予想以上に強い口調だったので、紗那に責められたと感じ取った真希は罰の悪い顔をしながら謝罪した。
「あたしこそすまない。少しカッとなってしまった。強い口調で責めるようなことを言ってすまない」
紗那も紗那で強く言い過ぎたことを気にしているらしく、真希に謝罪する。
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