第一章 北野真希は一人でいたい
第2話 ウザい鈴木紗那先輩
北野真希は今年涼ノ森高校に通う高校一年生の男の娘だ。
男の娘と言っても創作で出てくる男の娘と同じようで違う生き物である。
この世界には男子である男の娘と女子である女の子の二種類しかいない。
だから、顔だけで見ると男の娘なのか女の子なのか分からない。
男の娘の特徴は胸がないことと、男性器がついており、女性は胸が発達し女性器が付いている。
だから体つきは男の娘の方がゴツゴツしており、女の子の方が丸みを帯びているが、パッと見はあまり大差はない。
閑話休題。
身長百五十後半と小柄である。
黒髪のショートボブで、よく目つきが悪いと言われる。
目は悪いので眼鏡をかけている。
毎日化粧水はついているので、肌はピチピチである。
制服は男の娘は紺のブレザーにワイシャツ、ネクタイに紺のスラックスである。
女の子は上半身は男の娘と同じで、下半身だけ紺のスカートである。
一方鈴木紗那は高校三年生の女の子らしい。スカート履いているし。
身長は百七十前半はあるだろう。真希よりもかなり大きい。
黒髪のロングヘアで前髪はどうやらつくっておらず、パーマをかけているのか全体的に髪にウェーブがかかっている。
大人っぽい印象を与える見た目で、目が細い。
肌はきめ細かく、欠かさず手入れをしている肌である。
身長に比例をするかのようにバストも大きく、推定Gカップぐらいはあるだろう。
とても大きく弾力もありそうだ。
そんな大柄な女の子が目の前に立っている。
正直言って邪魔である。
「……そうですか」
面倒な人に絡まれた真希は、早く紗那から解放されるためにわざとそっけない返事をする。
「まさか声をかけても無視されるとは思わなかった。結構ショックだったんだぞ」
真希に声をかけたのに無視されたことがショックだったのか、紗那はそのことを本人の前で愚痴る。
「いや、普通『もしかして君は新入生かっ』て言われても『自分だ』って分かるわけないじゃないですか。それに初対面ですし」
そもそもあんな複数人該当する言葉を言われて返事をする人なんていないだろう。
「確かに北野後輩の言うとおりだな。初対面なら目の前で声をかければ良かったな。反省、反省」
自分の声のかけ方が間違っていたことに気づいた紗那は一人で反省をする。
自分よりも年下の真希の意見を聞いて反省できるところだけは、良い先輩だった。
なぜか呼び方が『北野後輩』だったが、確かに相手が三年生で自分が一年生だから紗那からみて真希は後輩だからなにも間違っていないが、違和感がある。
「そういえばあいさつがまだだったな、おはよう北野後輩」
なにを思い出したかと思えば、今まであいさつをしていなかったことを思い出したらしい。
紗那はなぜか嬉しそうにあいさつをする。
「今更ですけど、おはようございます鈴木先輩」
いくらウザいからと言って先輩のあいさつを無視するほど非常識な人間ではない。
当たり障りなくあいさつをすると、さらに紗那は表情をほころばせる。
「……先輩……いや~良い響きだな。初めて後輩に先輩と呼ばれたよ」
初めて後輩に『先輩』と呼ばれて凄く嬉しかったらしい。
「いや、鈴木先輩って三年生ですよね。去年は一度も呼ばれなかったんですか」
鈴木紗那は今年高校三年生と言っていた。
つまり去年は二年生である。
今年二年生ならまだしも今年三年生なら二年生の時普通、後輩から一度ぐらい『先輩』と呼ばれなかったのだろうか。
「……それがだな、あたしが近づくとなぜか後輩が避けるんだよ。そして後輩が誰一人寄り付かなくなった」
「あぁー……」
落ち込んでいる紗那には悪いが、その理由は簡単に想像できる。
むしろ、共感しかない。
真希だって電車を待っていなければ、ウザいのですぐにでもこの場から離脱したいと思うほどだった。
最初に口ごもったように見えたのは真希の見間違いだろうか。
「なぜ後輩はあたしを避けるんだと思う?」
「えっ、それって先輩がウザいからですよね。そんなにウザければ普通逃げます」
「やっぱり北野後輩もウザいと思うのか。あたし的には普通に接しているだけなのだが」
紗那になぜ後輩に避けられているのか聞かれたので素直に答えた真希。
そもそも紗那と仲良くする気もなかったので、嘘偽りのない現実を突きつけた。
紗那の反応を見るに前から『ウザい』と言われた経験はあるが、本人は納得していないらし。
「いやいや、十分ウザいですって」
「そうか。でも北野後輩は優しいな。ウザいと思ってもあたしの話に付き合ってくれている」
「別に優しくはありませんよ。ただ逃げ場がないだけです。私も電車を待っていなければ面倒なのですぐに逃げてます」
こんなに『ウザい、ウザい』と言われているのに嬉しそうに真希に話しかける紗那はマゾなのだろうか。
それに真希だって電車を待っているせいで逃げ場がないだけで、学校だったらすぐに逃げている。
「いや、北野後輩は優しいよ。ただ可愛げがないだけで」
「……ウザい鈴木先輩にそんなこと言われる筋合いはありません」
前半の良いセリフも後半のせいで全て台無しである。
本当に嫌な先輩である。
真希が拗ねるように紗那から顔をそらすと、嫌らしい笑みを浮かべながら真希を茶化す。
「北野後輩は本当に可愛げがないな~。拗ねちゃって」
「なっ、本当にウザいですね。静かにできないんですか」
「あたしは人とおしゃべりするのが好きでね。静かにしてるのは嫌いなんだ」
「私は静かな方が良いので、もう喋りかけないでください」
「もう拗ねちゃって~。可愛げはないが可愛いな~北野後輩は~」
からかわれて拗ねた真希が可愛いのか、真希の肩を抱いてくる。
その時、紗那の方が真希よりも身長が高いせいで頬に紗那の胸が当たってくる。
制服越しからも分かるぐらい、紗那の胸は弾力があり男の娘の真希からすれば反応に困る行為だった。
そのせいもあって、頬が若干赤くなる。
「止めてください。その……む、胸が当たってます」
「やっぱり可愛いな北野後輩は。少し胸が当たっただけで動揺するなんて」
男の娘も女の子も見た目はさほど変わらないが胸の部位はかなり違う。
男の娘の胸は発達しないが女の子の胸は発達するため、男の娘の胸ではありえないほど柔らかく弾力があり、膨らんでいる。
真希だって高校一年生の男の娘だ。
タイプでなくても女の子の胸に触れるだけで緊張してしまう。
逆に紗那は動揺している真希を見て楽しんでいるのか、余裕そうな表情を浮かべている。
それが本当に腹立たし。
「本当にウザいですね。離れてください」
「いたっ、顔面を叩くことはないだろう」
「叩いていません。押しのけただけです。ウザかったので」
からかわれた真希はそれを誤魔化すように拳を作り、紗那の顔面を押し返す。
さすがに紗那もこれには不満そうな表情を落とす。
真希からすれば紗那はウザいのでこれで嫌われれば、真希にとっては願ったり叶ったりだ。
「先輩にも物怖じしない態度。ますます気に入ったよ」
「えぇー……」
さっさと嫌われて一人になりたかったのに、なぜかますます紗那に気に入られてしまった。
本当に変わっている先輩である。
こんなこと、後輩にされたら普通先輩としてのプライドを傷つけられて怒って離れていくのが普通だろう。
さすがの真希もこれには意味不明すぎてわけが分からない。
「おや、そろそろ電車が来るようだ。やっぱり一人よりも誰かと登校する方が楽しいな」
「私は一人で静かに登校する方が楽しいですけど」
電車が来るというアナウンスが流れ、プラットホームに電車が入って来た。
紗那は初めてできた後輩と一緒に話して学校に登校ができてとても楽しんでいる。
逆に真希は、静かな一人の時間を邪魔されて不機嫌だった。
「やっぱり北野後輩は可愛げがないな」
「それを言うなら鈴木先輩はウザすぎますね」
余裕そうに笑う紗那に面倒くさそうに睨む真希。
こうして真希の淡々と単位を取って卒業する高校生活が早くも崩壊した。
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