第一章 柊瑞希に友達は必要ない

第2話 帰宅部は部活だ!?

 公立白王(はくおう)高校は部活動入部が強制である。


「柊、これは私の見間違いか。入部届に帰宅部の三文字が書かれているように見えるのだが」

「いえ、見間違いではありません。帰宅部に入部します」

「柊。この学校に帰宅部という部活はない。書き直してこい」


 入部届を受け取った担任の黒川尚美、二十六歳、独身が眉間にしわを寄せながら入部届を出してきた生徒の正気を疑っている。


 入部届を出した張本人、柊瑞希は淡々と肯定をする。

 すると、なにが気に食わなかったのか瑞希が出した入部届を突き返してきた。

 婚期を焦っているせいか、尚美はカリカリしているのだろうか。

 全く、生徒に八つ当たりをしないでほしいものである。


 黒川尚美は、この学校に勤めている瑞希の担任の先生である。

 身長百六十半ばで、女性にしては高い方である。

 黒髪のショートボブで、髪の毛の手入れはかなり入念にしているらしく枝毛は一本もない。

 目はキリっとしており、見た目はキャリアウーマンである。

 ただ言葉遣いが乱暴なところは、玉にきずである。

 胸はかなり大きく、Eカップぐらいはあるだろう。

 スーツの上からも分かるぐらい大きい。


「帰宅部も『部』である以上、部活と同じではないでしょうか」


 自分で言っていて苦しい言い訳だなと瑞希は心の中で思った。


 柊瑞希。

 高校一年生の男の娘である。


 男の娘と言っても創作で出てくる男の娘と同じようで違う生き物である。

 この世界には男子である男の娘と女子である女の子の二種類しかいない。

 だから、顔だけで見ると男の娘なのか女の子なのか分からない。

 男の娘の特徴は胸がないことと、男性器がついており、女性は胸が発達し女性器が付いている。

 だから体つきは男の娘の方がゴツゴツしており、女の子の方が丸みを帯びているが、パッと見はあまり大差がない。


 閑話休題。


 身長は百六十前半。平均身長は男女ほとんどない。

 黒髪のゴールデンポニーテールをしている。

 目は鋭く、周りから見るとかなり冷たい印象を与える。

 性格を一言で表すと、生意気でひねくれている男の娘である。


「帰宅部は部活じゃねー。ここをよく見ろ、部活動紹介のところに、帰宅部なんて書いてねーだろ」

「ちっ」

「今、舌打ちしたよな。先生に向かってしたよな」


 もちろん、帰宅部が部活動という理論が通じると思わなかったが、それはそれで腹が立った瑞希は思わず舌打ちを漏らしてしまう。


 すると、尚美は大人げなくわめいてる。


 本当にうるさい教師である。


「すみません先生。思わず本音が漏れてしまいました」

「……お前、さすがにそれは正直すぎるだろう」


 正直に謝ったら、なぜか尚美に引かれてしまった。


「ゴホン。とりあえずうちの高校は部活動強制だから今週末までにはどこかの部活に入部届を出さなければならない。別に深く考えずに好きな部活に入ってくれればそれで良い」


 尚美も私怨で瑞希に文句を言っているのではなく、あくまでも先生としての業務を果たしているのに過ぎない。


 今まで散々わめいていた尚美だが、最後の方になると優しい声音になる。


「そもそも部活動とは生徒の自主性を重んじで入部する活動であって、それが強制になってしまうとその理念に反するのではないんですか」

「そういうルールなんだようちの高校は」


 そもそも部活動は生徒の自主性を重んじて入部し活動するものであり、それが強制となってしまうと本末転倒も良いところである。


 それを指摘すると尚美は面倒くさそうに頭をかきながら、そういうルールだからの一点張りで突っぱねる。


「それが例え間違ったものでもルールだから容認してしまうのですね」

「いや、だからな。大人には大人のルールっていうものがあってな……はぁ~」


 瑞希が鋭いところをツッコむと、尚美は困ったような表情を浮かべながらため息を吐き出す。


 先生も公務員という立場から上にはなかなか言いづらいポジションなのだろう。


 特に若い先生にとっては。


「もし、既存の部活が嫌なら自分たちで部活動を作ると良い。この高校は他の学校よりも部活動創立のハードルが低くてな部員三人と顧問がいればすぐに作ることができる。顧問の名前ぐらいなら私が貸してやる。どうせ柊のことだ、そんなハードな部活なんて作る気はないだろ」

「……そうですね。それで手を打ってあげます。ですので、その約束、反故しないでくださいよ」

「分かってるよ。先生が一度決めたことに二言はない」


 粘ったおかげで、なんとか良い塩梅なところで尚美が折れてくれた。


 今、すでにある部活は内容がハードなものが多く、文化系の少人数の部活ももうすでに人間関係ができている。


 そこに入るのはそれはそれで面倒なものである。


 だから、新しく部活を作った方が楽である。


 そこで重要になってくるのが顧問の存在である。


 いくら部活をしたくないと思っているも熱血の先生が顧問になったら、今までの苦労が水の泡になる。


 でも幸いにも顧問は尚美が引き受けると言ってくれた。

 尚美のあの態度を見る限り、尚美自身も部活にあまりに乗り気ではないらしい。


 ただルールだから渋々、顧問をやっているのだろう。


 そういう観点から見れば、瑞希も尚美も同類である。

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