第10話 返事の続き

「……話って告白の返事のことよね」


「うん、そう。返事の続きだよ」


「うわぁやっぱりそうなんだ……久々に緊張してきました」


 屋上に続く階段を歩きながら会話をする。

 学校が終わってすぐに呼び出し、今に至る。


 近くには誰もおらず、俺たちしかいない感じだ。

 屋上に行くことなんて天文部がたまに星を観察するくらいだし、それくらいは当然といえば当然か。


「一週間も待ったのだし、ちゃんと答えは用意しているのでしょうね」


「……それはまあ、一応」


「一応ってなに! きちんとしなさいいこのヘタレ野郎!!」


「ちょっといつもより口調強くない!?」


「今のは先輩が悪いですよ。誰だって告白して、返事をもらうときに一応とか言われたら怒りますよ」


「……はい、ごめんなさい」


 この前のこともあったのだし、姫野なりに思うことがあったのだろう。

 ちょっと言い方はあれだけど。

 そんな会話をしながら、屋上の中に入っていく。

 空は紅く染まっていて、夕暮れ時だった。

 

「……じゃあそろそろ初めてもいいかな?」


「……別にいつでも大丈夫だわ」


「大丈夫です……」


 二人はいつもより緊張している様子だった。

 まあ、正直に言ってしまえば俺も緊張しているんだけど。

 多分、告白されたときよりも緊張していると思う。


 だけど、緊張していたとしても俺にはもう、言う事は決まってる。

 たった一言、俺の気持ちを伝えよう。


「俺は――」


 ごくり。


「――二人ともと付き合いたい!!」


「「……!?」」


 大声で叫ぶ。これが俺の気持ち。本音だった。

 シーンとした空気の中、鳥のさえずりだけが響き渡る。


「……俺は付き合うならどちらか一人じゃなくて、二人とも一緒に付き合いたい。ダメだってわかってるけど、これは本当に心から思ってることなんだ!」


「……それは何故?」


 姫野が聞いてくる。


「そんなの決められないからに決まってるだろ!」


「決められない? 私か澤宮さんか。どちらも決められないということなのかしら」


「そういうことじゃないよ。俺にとって二人とも魅力的過ぎなんだよ!!」


「み、魅力的!? 何言ってるんですか先輩!!」


「だってそうじゃん。姫野はいつもはあんなに辛辣なこと言ったりするのに、変なところでいきなり照れたり、大好きって急に言ってきたりさするギャップがよくて……」


「そ、それは今関係ないでしょうが!!」


「え? 姫野先輩って大好きなんて言ってましたっけ? いつ言ったんです!!」


 姫野の顔が赤らめる。

 こういうところが魅力的なのだ。

 不覚にもドキッとしてしまう自分がいる。


「凛音ちゃんはいつもハグしてきたり頭をお腹にこすりつけたりして甘えてくるところが妙に可愛くて、撫でたくなるし……」


「先輩私のことそんな風に思ってたんですか!? 小動物的な!?」


「……だからさ、結局は決めれなかった。姫野も凛音ちゃんも魅力的で俺にはもったいなくくらい好きなんだよ。どちらかに絞れなんて俺にはできなかった。俺は二つの選択肢があったらどちらもとる方を選ぶよ」


 本心をさらけ出す。

 初めてこんなことをいうせいもあってか少し照れくさい。


「……でもよくよく考えたら一人に絞りたくないって告白した方のことなんてほとんど考えていないわよね。だって、私たちからしたらそれは浮気と一緒なようなものだもの……」


「……そうだよ。俺は姫野たちのこと全然配慮出来てないと思う。せっかく告白してくれたのにさ……。でもそれじゃあ意味ないって知ったんだよ。配慮することも大事だけど、自分の気持ちに嘘はついても意味ないってわかったんだよ!!」


「「……」」


 二人とも黙る。

 俺は話した衝撃で疲れ気味になり、過呼吸になる。


「……だから、結論を言うと。俺と付き合ってください……」


「……ふ、ふ、ふはははははは」


 凛音ちゃんが噴き出す。


「な、なんだよ。真面目に話してるっていうのにさ!」


「だって先輩面白すぎ。私たちが告白したのに、なんでか先輩が告白してるし」


「……確かに」


 なんで俺が告白してるんだ?


「私は全然、姫野先輩がもう一人の彼女でもいいですよ。私は最初から言ってましたけど先輩が少しでも振り向いてくれさえすればいいんですから」


「り、凛音ちゃん……」


 素直に言ってもらえると嬉しくなる。

 こんなこと初めてだ。


「姫野先輩はどうなんです?」


「私は……」


 姫野の方は悩んでいるようだった。

 それも当たり前だ。

 元々、日本のカップルってのは一対一のはずなんだ。それを俺の勝手な都合で一対二に変えてるのだ。

 正直、断られてもおかしくない。でも……。


「姫野、俺はお前とも一緒に……」


「ああ、もう!!」


 突如怒り出す。


「え!?」


「なんで、颯ちゃんはいつもこうなのよ! 適当というか荒れっぽいというか!!」


「そ、颯ちゃん!?」


 また、颯ちゃん呼びだ。

 いつものキャラとは違くなる。

 これが姫野の本心なのだろうか。


「……そんなこと言われたら断れないじゃない。ズルいじゃない。本当は……ああ、もう!!」

 

 そして。


「……いいわよ。私も付き合うわよ。これでいいでしょ!」


 認めてくれた。


「……ありがとう」


「よかったです。これで一件落着ですね!」


「うわ!?」


 そう言って凛音ちゃんが抱き着いてくる。

 いつものように顔をこすりつけて来て、可愛い。


「あ、ちょっとズルい!」


「ズルじゃないですよ。もう彼女なので! 姫野先輩こそなんで抱きつかないのです? なんかさっきから怒ってるみたいですけど」


「……ぐぬぬぬぬ……仕方ないわね。なら私も」


「え、ちょっと二人とも!?」


 そう言って、姫野も抱きついてくる。

 二人の温もりが同時に伝わってきて、普段よりもドキドキする。

 心臓がバクバクと跳ねて、体が熱くなってくる。


 これが恋なんだと俺は思った。



 

 

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