第9話 相談しよう

 あのスイーツ店での事件から6日が経った。

 相変わらず朝は二人と登校し一緒に帰るというおかしな学校生活を送っている。

 そんな中、俺は気づく。

 返事までの時間は後、数時間いや、この授業が終わるまでに迫っているということを。


「どうしよう……返事って言われてもな。何を言ったらいいのかわからない……」


 机の上で頭を抱えながら言った。正直、超絶焦っている。

 なにを言ったらいいのかもわからなく、考えてもいい案が思いつかない。

 のんびりと過ごしていたらいつの間にか一週間が経っていた。

 どうして先延ばしにしていたんだよ。


 ……とりあえず、今までのことを改めて思い出してみよう。

 学園の二大美女である冷徹の姫こと姫野理沙と甘えん坊の澤宮さんこと澤宮凛音に告白された。

 そしてその告白の返事を俺が渋り、一週間の期限をもらうがそのまま6日目を迎えたって感じ。


 ……うん、どうしよう。

 焦りしか出てこない。というか未だに現実が見えてない気がする。

 姫野とは幼馴染だけどあんまり話してこなかったし、凛音ちゃんとはちょっとしたことで知り合ったけど好きになられるようなことをしたってわけじゃないからな。

 ……まあ、それに関しては姫野と凛音ちゃんから否定されたけど。


 俺が困り果てた顔をしていると。


「おい、大丈夫か? 授業中にそんな顔して。保健室行くか?」


「大樹……」


 隣の席にいた大樹から話しかけられる。


「別に具合が悪いって感じではないんだけど……」


「じゃあなんだよ。もしかしてトイレとかか? 頭なんか抱えたりしてるんだから相当漏れそうなんだろう。分かるぜその気持ち!」


「違うわ!」


 全くこいつというやつは。

 なんでちょっと残念なんだ。顔は良くて、モテモテのくせに!

 ……ん、ちょっと待てよ。こいつはそう言えばモテモテなんじゃないか。

 なんでこんなことに気づかなかったんだよ、俺!

 簡単なことだ。大樹に相談すればいいじゃないか。

 本当に友達ってものは大事にするべきだな。


「……なあ、大樹」


「なんだよ、改まった顔して。さっきのやつ本気で怒ってるなら悪かったよ。謝るから許してくれ!」


「その話まだ続けるのかよ! ちょっとだけでも友達は大切なんだとか思ってた数秒前の俺を返せ!!」


「悪い悪い。ホントすいません。ちゃんと聞くから許してください」

 

「棒読みじゃねーか!」


 はぁ。と少しため息をついてから俺は話し出す。


「大樹ってさ、モテるよな」


「まあな。お前のざっと10倍はモテてるな」


 無視だ。これは無視しよう。


「……で、ここからが重要なんだけど」

 

「うん」


「……一応念のために言っておくけど、これは俺の話じゃないからね。友達の話だからね」


「それ、大抵は自分の話だよな。分かりやすい奴だ」


「ちょっと黙っててもらませんかね!!」


 ごほんと咳ばらいをする。


「それでなんだけど、俺の友達が二人から一斉に告白されたらしいんだ」


「一斉に? それは聞いたことない話だな……まあそれはいいとしてどんな人たちなんだ?」


「かわいい。超かわいい。正直、自分には合わないくらいかわいいって言ってた」


 学園二大美女だしな。


「そんなか……それでその友達とやらはどうする気なんだよ。OKするのか?」


「だから、それがわからないんだよ……」


 正直に言う。


「なるほどな……それで困ってるって話か」


「そういう事。なにかアドバイスとかないのか? モテモテのお前なら一つくらいあるだろ」


「……正直に言えばいいのか?」


「うん」


「ないよ」


「え?」


 一瞬、手が止まる。

 今、ないって言ったのか?


「そんなものはないよ。恋にアドバイスなんてものは存在しない。俺が言うんだから間違いないさ」


「い、いやでもなにか一つくらいあるだろ。こうした方がいいとか。こういえばいいとか」


「だからさ、恋ってのは機械じゃない。人間同士でやるものなんだ。その人その人で性格、個性、見た目も、何もかも違う。簡単にアドバイスできるようなものじゃない」


「まあ、確かにそうだけど……」


 こいつがそんなことを言うとは思わなかった。


「つまり一番重要なのは人に頼るんじゃなくて――その人自身の気持ちだよ」


「気持ち……」


「自分がなにを思っているのか。どうしたいのか。それはその人自身が知るものだ。他人がどうこう言う事じゃない」


「……確かに」


「だから、よーく考えて結論を出せ。俺が最大限言えることはこれだけだよ」


 そういうと、授業終わりのチャイムが鳴る。

 そして先生が合図し、その場は解散となった。

 これで今日の授業は全て終わり、後は二人を呼んで返事をするだけとなる。

 

「……まあ、とりあえず頑張れよ。応援してるからさ」


 ぽんぽんと俺の肩を叩いて、どこかに行ってしまう。

 後ろ姿はいつもよりカッコよく見えた。


「……気持ち、ね」


 考えてなかった。自分の気持ちよりも相手のことを考えていた。

 ……よし、決めた。

 俺はこれからどう返事をするか決心した。

 

「後は言うだけだな」 


 俺は二人を最初に告白された屋上に呼び出すことにした。


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