第2話 返事
「え、えーーーーーー!!」
まさか、ありえない。
そんな馬鹿な……。
あの、学園二大美女だぞ。それも二人とも。
「いや、ちょっと待って。おかしい、なにかがおかしい。これは夢か? 夢なのか!?」
ほっぺたをつねりにつねり、目をこすり、顔をぶん殴ってみるがなにも変化はない。
というか痛い。頬が腫れた。
「……現実、なのか……?」
「現実ですよ~」
「……マジかよ」
唖然とする。
これがモテ期ってやつなのだろうか。
すると姫野が。
「……そんなに驚くことでもないでしょう。これまで私とあなたは幼馴染として約18年も一緒にいたのよ。そう思うのも当たり前といえば当たり前じゃない……」
恥ずかしそうにそうつぶやく。
「私はそんなに長くは一緒ではないですけど、先輩のことは結構前から好きですよ~」
凛音ちゃんも好きだということをもう一度確認させて来る。
始めは実感がもてなかったから何ともなかったけど、改めて聞くと恥ずかしいな、これ。
「……凛音ちゃんならまだ100歩ゆずってわかるけど。なんで姫野が? 好きどころか俺たち最近は話しなんてしていなかったじゃないか?」
何を言ったらいいのか分からず、とりあえず出た言葉がこれだった。
凛音ちゃんとはちょっとした縁で一年のことから話とかはするけれど、姫野は違う。
話なんてろくにしていなかったのに。どうして……。
「それはあなたが! ……まあいいわよ。それはおいおい話すとして、まずはこれからどうするのか、よ」
「どうするって?」
すると、凛音ちゃんが少しふてくされるように。
「返事ですよ、返事。私たちが必死になって告白したっていうのに先輩はなにも言わないんですか?」
そう言った。
「確かに……」
告白されたのだ。
なにか返事をするのが普通だろう。
でも、なにを言ったらいいのかわからない。
だって初めてのことだし! 仕方ないだろ!
「……ホントに言ってるのか? よくある嘘告とかじゃなくて。ホントに?」
「本当の本当よ。私は嘘はつかない主義だし。あなたもそれは知っているでしょう」
「まあ、言われてみればそうだけど……」
「私たち二人で話し合ったんですよ。初めは先輩をかけて争うって方針だったんですけど、お互いよくないってことに気が付いて、そして出た結論が二人で一斉に告白することだったんですよ」
ニヤニヤとしながらことの経緯を説明してくる。
どうやら、二人が好きだってことは事実らしい。
だけど、そんなこと言われたって納得ができるわけがない。理解はしても納得はできない。
一度もモテたことのないこの陰キャの俺がいきなりこんなことになって納得なんかできるものか。いいや、出来ない。
「どうして俺なんか好きなんだよ。別にあんたらみたいに取り柄なんてないじゃないか……」
「ねぇ、颯太君。さっきから自分のことを卑下しているみたいだけど……人を好きになるのに理由はいるのかしら?」
「そうですよ。私たちはなにか特別だから好きなのではなく相川颯太という人間だから好きなんですよ!」
……なんだよ、それ。
そんな真剣なまなざしで言われたら、納得するしかないだろ。
「……それで返事はどうするの? 私を選ぶの? それとも彼女を選ぶの? もしくは、どちらとも振って付き合う気はないの?」
黙っていると少し照れくさそうに言ってくる。
久々に姫野のこんな表情を見たのかもしれない。
少し懐かしい気がする。
……まあ、それはいい。
それよりもどう返事するのが正解か考えないといけない。
ここまで言われておいて、なにも言わないなんてそれは恥だ。
正直、彼女は欲しい。ずっと前から思っていたことだし、きっと、いたら楽しいだろう。
でも、ここで一人を振るっていうのは流石に……キツイ。
ちきしょ。こんなことになるならもう少しネットとかで勉強すればよかった!
「……時間をください」
最終的に出した結論はこれだった。
……俺って最低だな。
「保留ってことね……。確かにいきなりこんなことを迫られても結論が出せないこともあるわよね……。どうしようかしら、澤宮さん」
凛音ちゃんに場をゆだねる。
「私は方は全然、大丈夫です。先輩さえ私に振り向いてもらえれば、いつでも!」
おおー!
胸が苦しい。そういうストレートな言葉はびくってするから止めて欲しい。
「……そうね、わかったわ。なら……」
指を俺の顔面に向けながらこう言った。
「一週間! これで返事をきちんと決めなさい」
この一言から地獄とも天国ともいえる一週間が始まった。
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