第4話 更なる謎②

──「はあはあ、ここまで来れば大丈夫だ、つばめ」


 二人は裏路地から遠く離れ、舞町まで来ていた。ここまで辿り着くのに三十分かかったため、当然だが相当な距離なのでつばめは息が上がってしばらく話すことが出来ない。そんなつばめを見て、和真は申し訳ない気持ちになっていた。


「巻き込んで悪かったな」


「──ぜえぜえ、僕が勝手に巻き込まれただけだから‥‥‥和真くんが謝る事ないよ」


「そうか、何にせよ早く帰宅した方がいい」


「何がどうなっているの? あんな超能力みたいなの‥‥‥二回目だよ──」


「つばめ!」


 超能力について、聞こうとするつばめの発言を阻止するように名前を呼んだ。


「知ったら巻き込まれる! 今この新葉市はとても危険だ!」


 巻き込まれるのは、嬉しくはないつばめはそこで質問をやめて、直ぐに逃走することだけを潜心したが、自ら本能的に逃げの思考であることに落胆した。


「そういえば僕は狙われてないの?」


「お前は全く関係ないから、このまま何も見なかったことにしていれば大丈夫なはずだ。だから早く帰宅するんだ」


「でも、僕も攻撃されそうだったけど」


「それはただの気まぐれよ」


 二人の背後に忍び寄る影があり、その一言で気づく。


「私のから逃げられると思って? 和真」


「やはり貴様の仕業だったか! 雛罌粟ひなげしのラミア!」


 背後に存在していたのは童女。格好は白のゴスロリで、髪は赤く、紅蓮という言葉が合いそうである。薄らと浮かべている表情は、背後を取られた二人を嘲るような目つきで、それでいて無邪気さを感じさせている。


 それが、あまりにも不気味で、二人は浮かぬ顔をして、一瞬だが硬直してしまう。


「和真くんの知り合い? ぼ、僕はもう帰っていいかな‥‥‥お二人の邪魔だろうし」


 抜足差し足で撤退しようとするが、ラミアが「待ちなさい」と言い、撤退を静止する。


「恐れ入りますが、どのようなご用件でしょうか、僕なんかに」


 ラミアのお嬢様じみた風貌と格好のせいで、童女だと理解していても敬語になってしまう。


「つばめ、あなたにはここに居て貰うわ」


「わかりました」


 否定すれば唯では済まないと思い、つばめはその場に留まる。心の中では「何で僕もいなきゃいけないんだろう」という疑問と「何で僕の名前を」という疑問が脳裏に浮かんだが、言葉にしなかった。


「つばめ任せてくれ、ラミアを何とかして見せるから安心して欲しい」


「和真くん‥‥‥」


 不安すぎて、そして急激な日常と非日常の変化についていけなかったつばめは、その言葉を聞いて安堵する。


「ようやく開戦かしら?」


「ラミア! 俺は強くなったぜ! あんたと組んでいた時よりも数段と!」


 吠える和真を見て涼しい顔でいるラミア。


「よろしい、始めましょう、能力戦を」


 ラミアの言葉を起点として、戦いの幕が上がる。先手は和真。ラミア目掛けて猪突猛進。だが、ラミアは現在地から一歩も動かない上にピクリとも動かない。内心の動揺を抑えている様子もないので、かなり余裕を見せているようだ。


 そんな事は関係ないと言わんばかりに突進をやめない。


「本当に勇敢ね、和真」


「俺の取り柄はこれだけだからな」


 和真の突撃に対し、全く挙動を見せないラミア。二人の距離は次第に近づく。


 しかし、距離が五十メートルになったところで、和真の肩が何の前触れもなく切り傷がつく。それでもと前に出ようとしたが、全身を切り刻まれてしまい後退りした。それでも必死の形相でラミアに迫る。勿論同じことの繰り返しである。


 それを見て呆れた顔になったラミアは、


「浅はかね‥‥‥能力せんで敵対する者に、ただ突進するだけだなんて」


 と残念そうに言う。その後、一旦突進をやめる。


「やっぱり思った通りだ」


 和真はまた接近を開始する。そしてラミアの攻撃範囲である五十メートルのところで、


「行くぞ! 『インビシブルエリア』発動」


 先刻見せた瞬間移動を試みようと能力を発動する。前方に発生した謎の空間にラミアの攻撃が成功してしまった瞬間、和真はラミアの目の前にいた。


「浅はかなのはお前だ、ラミア! お前の能力は謎が多いが、懐に潜り込めばこっちのものだ!」


 和真の考えは、ラミアの攻撃スピードを二回切り刻まれたことで確認し、自分の殴るスピードと比較して、殴る方が早いのがわかったため、懐に潜り込んだのだ。


「一発で気絶させてやる」


 発言してからすかさず殴ろうとするが、ラミアの顔面に入るはずの拳が当たっていない。不思議そうに振り切った右腕を見ると。肘のあたりで切断されている。


「え‥‥‥あ、が」


 困惑する和真。それでも思考を巡らせて、切断された理由を探る為周囲を見渡す。


「なん‥‥‥で」


「拍子抜けしたわ、もう少し頑張るかと思ったけど」


「俺は‥‥‥お前に勝つために‥‥‥」


「これが力の差よ」


 そこで和真の意識は無くなる。何故なら、腕の次は首を切られたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る