第3話 更なる謎①
──数分後に警察と救急車がファミレス『ドントレス』に到着して犯人の男は無事逮捕される。警察が周りにいた客から状況を聞くが信じては貰えず、結局日本刀を初めから所持していて、それで脅し、刺したということになった。
そして、つばめはやっと供華町にある自宅へ帰宅した。この町は、住宅が建ち並んでいるのが唯一の特徴で、それ以外に目立つところがほとんどない。
一応は三人暮らしなのだが、同居している父と姉は仕事に追われて暇が取れず、帰ってくることが少ないため、大抵は食事を一人で食べることが多い。そんな食事をインスタントのチャーハンで済ませて、すぐさまベッドに倒れ込む。時計を見たらもう八時。
「あの華って子‥‥‥あんな状況で迷わず犯人に向かって行ってた」
呟くは独り言。
「僕はあの時、逃げることしか考えてなかった。いや、いつでも逃げてばっかり‥‥‥」
脳裏を過るのは華の常軌を逸した身体能力と犯人の使っていた黒いカードの能力。どちらも常人を超えた強大すぎる力。普通なら恐怖を抱いてもおかしくないその力に、つばめは強い憧れを抱く。
「もし、僕にあれだけの力があれば‥‥‥もしかしたら何からも逃げ続ける人生に終止符を打てるかも」
つばめの心境にはこんな弱虫で、いつ如何なる時でも逃げ腰の自分が嫌いで、その理由が過去に起きたある事件がきっかけである為、つばめは思い出す。その過去を。
──つばめの眼前には大人の男性が一人と子供の男の子が一人
だが、、思い出すのはそこまでにして、つばめは首を振り、強引にまとわりつく記憶を振り払う。
「まあ、力なんてそう簡単に手に入れる方法なんてないからな‥‥‥寝よ」
つばめは今日の出来事で疲れ果てていたのだが、不思議と眠ることが出来ない。気持ちが高揚して眠気に襲われない為である。仕方がないので、夜道を歩く事を決めたつばめは家を出る。
「散歩なんていつぶりだろう」
何も考えずに街を歩く。夜なので歩行者と出会うこともなく、つばめにとってはこれ以上ないほど好都合。聞こえてくるのは犬の遠吠えくらいだ。
──もう歩き始めてから数十分。
「そろそろ家に戻ろう」
そう言って踵を返し、帰ろうとしたその時であった。どこからか聞きなれない音。
「何の音だ?」
少し興味が湧いたので音源の元へ向かう。近づくにつれて、音が聞き取れてきた。
「水が流れる音だな‥‥‥だけど水道水とかが流れる音とは違うな」
異常なのは、耳を劈く程の水の音。確実に目の前の裏路地が音源であることが分かったつばめであったが、中々足を前に運ぶことが出来ない。五月蝿すぎる水の音が邪魔をするのだ。
ここまで来たのに引き返そうと思ったが、この異変が気になる気持ちの方が強かったので、路地裏へ向かう。
「一体何が起きて‥‥‥」
やっと着いて、路地裏を頷いた。そこには想像を絶する光景が広がっていた。暗くてよく見えなかったが、二人の人間が確認できた。
「さっさと『オブゼスカード』を出してくれ! お前の負けだろ」
「くそ‥‥‥まさかお前までカードの力を‥‥‥」
片方は息が上がっていて蚊の鳴くような声で聞き取れなかったが、もう片方は怒りのあまり濁声であるが、聞いたことのある声。
「この声は──強希くん!?」
驚きのあまり大声になってしまい、強希ともう一人につばめは注目した。
「つばめくんか?」
「え? 君は【雙上 和真】くん?」
和真は中学生の時、つばめの同級生だった。誰よりも正義感が強く、いじめられ体質のつばめにも仲の良い友達として接してくれたので覚えているのだ。
「逃げろつばめ! こいつ普通じゃない!」
「普通じゃないって強希くんが?」
「ああ‥‥‥俺が足止めするから──がっ!」
気づいた時には遅かった。強希の右腕から発しられた水が和真の両手両足を拘束していた。
「ははは! カードを出さねえならまだまだ甚振る!」
「くそ!ここまでか!」
強希の左手に水の玉が発生する。BB弾くらいの直径しかないその水の玉を拘束されている和真に目掛けて撃ち込む。一発では終わらず、何発も何発も撃ち込む。強希は、動けず何も出来ない惨めな和真を嘲笑い、和真は途中までは悲鳴を上げていたが、無数の水の玉が身体中を抉った為、意識を失ってしまう。
「和真‥‥‥くん?」
和真は両手両足の拘束を解かれ、地面に倒れ込む。和真の体は血まみれで、息をしているかも怪しい。そんな和真を強希は舐め回すように見て、不敵な笑みを浮かべた後、今度はつばめの方を右腕の水で拘束しようとする。
しかし、その水はつばめに届く事なく、途中で塞ぎ止められていた。そこには透明な壁のようなものが存在している。
「まだ戦えたか──和真」
そう言い、強希はもう一度和真に目を遣る。だが、そこには和真は居らず、気付けばつばめの傍に移動していた。しかもただの移動ではなく、つばめの視界から見えた限り、間違いなく和真は瞬間移動をしたのだ。
「和真お前‥‥‥かなりカードを使いこなしているな! 絶対に野放しには出来ん!」
強希はもう一度、つばめの方に水を発射しようとするが、その前に和真がつばめを連れて走り去ってしまう。
「逃すわけにはいかん、『
強希はその一言の後、意識を失った。
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