Chapter6-6 激戦

 おれは神火の光となり、距離を一瞬で詰めて影森に殴りかかる。だが初撃は腕に塞がれ、カウンターの蹴りが飛んでくる。ここは敢えて受ける。

 倒れるほどの威力では無い。あくまで様子見、堅実に相手の能力を推し量りにきている。だが、おれはそんなことはしない。技量も戦略も経験も、はるかに劣っている。ならば、短期決戦しかない。


 身体からエネルギーを放出する。スカーレットの魔法術みたいに周辺が燃え、おれは全身から曙色の光線を発射した。

 命中、しかし当たりが弱い。すぐに影森は空に飛んだ。逃がすものか、おれも足元に魔力を集中させて宙を行く。


 不思議な感覚だ。まるで深いプールの底からまっすぐと、どこまでも浮上していく感じだ。全身には水圧の代わりに、風を感じる。そして何より、重力から解き放たれ何よりも自由になった気分だ。人が、大空に憧れを抱く理由がわかった気がする。


 影森が距離をとっている。逃げるのか。おれが腕を振るって光線を何度か発射すると、避けずに、しっかりと撃ち落としてくる。やはりまだまだ戦う気でいる。おれを完全に殺すために必ず仕掛けてくるはずだ。

 だが、手応えがまるでない。なぜだ、何か仕掛けてくるためにおびき出しているというのか。


 殺気を感じる。上だ。上を向くと満月の中に影が見える。影森だ。クソっ、おれが必死に追っていたのはヤツがエネルギーで作ったコピーなのか。

 おれ目掛けて光の雨が降り注ぐ。避けようと斜め下に逸れるが右肩と左足に痛みが走る。当たったか。しかし痛みに気をとられている暇はない。そのまま急降下する、一気に海面スレスレまで来た。おれの出すエネルギーで水しぶきが上がってくる。


 おれは恵やスカーレットのようにオリジンウェポンが浮かび上がらない。腕を動かして光線を発射するのは予備動作が多くて無駄になりがちだ。そうだ、人差し指を伸ばしてピストルの形を作る。

 影森はおれを追って急降下してくる。いけるか。指先に魔力を集中させる。


「バン!」

 すると、指先から人差し指と同じ太さの光線が夜闇の中を走る。だが、すぐに回避される。両手を同じようにして、何度も光線を放つ。どうやら、おれと同じく目もいいらしい。全てが背景に消えていった。


 影森は迫る。おれは逃げない。さっきみたいに距離を取ると互いの攻撃を避け合い、決定打がないまま時間が過ぎてしまう。そうなればジリ貧でおれの負けは目に見えている。

 おれと影森が身体をぶつけ合い、まるで犬の喧嘩のような距離で高エネルギーの応酬が始まる。


 おれは影森の首元を掴み、海中に引きずり込んだ。海の中は光が一気に届かず、何も見えない。手のひらから、曙色の光を放つ。その瞬間、影森も同じように茜色の光を放ち、海中で拮抗した。直後、爆発が起きて、はっきりとその破裂音は聞こえた。


 まずい、もう息が持たない。おれは海上に躍り出て、とにかく光弾をばらまいた。海面では爆発と光で溢れ、波があるのかどうかも知ることはできない。

 だが、乱れ打ちはかすりもしなかった、海面から光を伴って影森が飛び出てくる。おれは正面から受け止めようとしたが、嫌な予感がする。おれは直感を信じるタイプだ。


 おれは少し、横にそれた。影森の腕はおれと同じように光っている。だが、少し違うように見える。先端が尖っている、まるで剣の切っ先のようだ。

 拳よりリーチは長い。おれは指先から光線を放つが剣で受け止められ、一気に間合いに迫られる。振り下ろされたその光の剣を、おれはそのまま受けた。左腕に刺さり、激痛が走る。漏れるのは血ではなかった。光だ。おれの腕と同じ、曙色の光の粒子が漏れ出していた。


 おれは、ただやれれるわけにはいかなかった。右手で光の剣を掴んだ。

「何っ」

 全身のエネルギーを右手に集中させる。ケンカの時はいつもそうだ。自分の怪我を嫌って相手は殴れねえ。肉を切らせて骨を断つ。おれは、波よりも、風よりも、宙をいく弾丸よりも速く、拳を振るった。重い一撃だ。


 光が炸裂する。闇夜を燦然と照らし、まるで流星のように尾を描き、下の海面に向かって落ちていく。この機を逃すものか。次は体に光を集中させる。そして、背中にブースターのように魔力を放出させて、勢いよく下に向かう。

 そして重力に従い自由落下する影森の胴体を蹴りながら加速する。海面に触れた瞬間、縮まったバネが伸びる時の要領で、力を一気に放出させた。影森の体は海中深くに一瞬で沈んだ。閃光が上がると、ワンテンポ遅れて水中で爆ぜた音と、水柱が高く上がる。月明かりに照らされた海面は、海水が一気に蒸発したようで白く見える。


 手応えはあった。さっき生み出したコピー体ではない。しっかりと命の息吹を感じた。

 しかし、何かおかしい気がする。おれの拳は、本当は防げたのではないか。正確無比な撃墜能力を見せた黄昏が、あの程度で沈むのか。


 突如、滞空していたおれの体が下に引っ張られる。左足だ。鎖で掴まれ、海の底に伸びている。海に入る瞬間、おれは息を止めた。

 クソっ、ヤツは自分自身の魔法術も並行して使えるというのか。鎖を千切ろうと足でエネルギーを爆発させるが、ビクともしない、それどころかよりキツく締まり、こちらが切断されそうだ。


 息が苦しい。このままでは死ぬのか。いやまだだ、鎖だけなら切れるはずだ。剣のイメージだ。全てを一刀両断する力だ。

 おれのイメージに呼応するように、右腕から曙色の刃が伸びる。そして、足元から伸びる鎖めがけてて、剣を振るった。だが、思うようにいかない。水の存在が勢いを殺す。ただ、軽く叩いているだけだった。


 鎖の空いた隙間に剣先を当てて、そこから曙色の光を解き放つ。また、爆発を起こすが、やはりビクともしない。

 背中が何かにぶつかる、海底なのか。そして、茜色の光が迫る。水に勢いを殺されたおれとは違う、地上のように、機敏に動いている。なぜ、抵抗がないように動ける。


 おれが思考を回そうとした瞬間、茜色の巨大な腕が迫る。そして、それはおれの胴体を殴りつけた。

 酸素が漏れる。空いた口に海水が押し寄せてくる。苦しい、もがきたくてそれすらできない。


 視界に迸る茜色の光とスパークが見えた。まずい、大技をかけるつもりか。直後、暗闇だった海底は光が支配した。その瞬間、体内のエネルギーを全身から放出する。受け止めきれない、ならば同じように力をぶつけるしかない。

 海中で衝突する神火と黄昏。おれの限界が見えてくる。魔力の前に酸素が尽き果てる。思いっきり、下に向かってエネルギーを再放出した。まるでスペースシャトルの離陸のように、おれは勢いよく海中を脱した。


 だが、空中に出ようとした瞬間にエネルギーの噴出は途絶えた。クソ、うまく制御ができない。おれはそのまま黄昏の余波に吹き飛ばされて、感性によって放物線を描きながらよって宙を舞った。

 そして、強く地面に叩きつけられた。全身の痛みより先に口や気管に入り込んだ海水を吐き出した。まるで酔いつぶれたサラリーマンだ。声をあげて、地面に海水をぶちまけた。


 繰り返し、嗚咽まじりの声をあげながら海水を出そうとした。もう出てこないが、喉のあたりに嫌な感じが残る。

 やっと体に力が入る、海の方を見ると、影森が姿を見せている。山の方には恵とスカーレット、対峙する楯山たちがいた。



 ***

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