三章 その①
じじい達一行は帝都を離れ、西へ約百キロほど離れた町に居ました。
帝都から列車で行ける、最も超獣アリエスに近い町です。
元は超獣関連のクエストをこなす冒険者や、アリエスの監視に当たる帝国職員達の為に作られた小さな町というか集落でしたが、今では人口一万を超すしっかりとした町にまで発展していました。
列車を降り、駅のホームで一番に目に飛び込んで来るのは、
「歓迎! 超獣アリエス最接近の町
と、でかでかと書かれた横断幕でした。
完全に観光名所と化していました。
超獣アリエスが生で見られる展望台! と紹介されているポスターも貼り出され、多くの観光客が興味深くそのポスターを眺めています。
観光パンフレットの表紙は勿論超獣アリエスをモチーフにした絵が描かれており、次のページにはやはり展望台が紹介されています。
アリエスタペストリーにアリエスキーホルダー。アリエスのぬいぐるみにアリエス饅頭まで選り取り見取り。木刀にアリエスと彫られた物まで売っているとあっては、もう何が何やら分かりません。
超獣アリエスの異常を調査しに来た一行は、明らかに異様で、完全に浮いていました。
家族連れの観光客で賑わう駅のホームに、動き易さ重視の戦闘服の男女が一人ずつ、見る人が見れば一目で分かる魔法増幅用の魔導杖を持った男女も一人ずつ、最後の一人は刀をぶら下げています。
「ねーママあれ、冒険者さんー?」
「しっ。あんまりジロジロ見ないの!」
一行に興味津々な子供たちが小声で注意されていたりします。
アメリとケインは顔を赤くしながら
「そんなに気にする程の事でもあるまい。それにホレ。場違いなのは儂らだけという訳でもないみたいじゃぞ」
一応場違いな事は、じじいも気付いてはいるようです。
じじいの視線の先には、身体よりも大きなリュックを背負った背中……いえ、背中は見えません。リュックから足が生えている様にしか見えません。そのリュックも旅行用のものではなく、軍などで採用されているタイプの実用一点張りのものを、そのまま大きくした様な感じの代物です。それも随分使い込まれているのが、随所にある傷や汚れからも分かります。
その足つきリュックがヨタヨタ、フラフラしながら歩く様は、見ていてこっちが心配になります。と思ったら早速隣の観光客にぶつかってペコペコと謝っています。
「うむ。そうだな」
とりあえずいつまでも駅に居ても仕方がないので、外に出ます。
「それで、これからどうしますか師匠」
「どうするのじゃリーダー」
黄泉に尋ねられた
「ふぇっ!?」
突然リーダーなんて呼ばれたケインは驚きました。
「これはお主に任された仕事なのじゃから、お主がリーダーじゃろ。儂らは勝手に付いて来ておるだけじゃしのう」
この儂らとはじじい、アメリ、黄泉の三人です。
「
仮にも帝国の四天王の一人。ピースメイカー王家所属の元宮廷魔導師長でもあるケインです。人の上に立って、人を動かす事には慣れている筈です。
「え……えぇっと……どうしましょうか? アメリ様」
ぶん投げました。
「先生はいつまで経っても人に指示を出すのが苦手だな」
研究一辺倒の研究馬鹿だったケインに、人を使うなどというテクニックはありませんでした。そんな社交性もありません。研究所では副所長が実質的なリーダーを務めざるを得ませんでした。アメリがケインに師事し、研究所にも通う様になってからは、アメリが半分所長みたいなものでした。
「宿を探して一泊する。直ぐにも超獣を探しに出発する。大きく分ければこのどちらかではないか?」
「あ、はい。そうですね」
「で、どちらにするのだ」
「あーえー……それにつきましては……判断するに情報不足な感が否めなく……」
「ふむ。なら、展望台の方へ行ってみるというのは
「超獣の現在地を確認しておくのは悪くないな」
ラミナの提案にアメリも同意します。
「あ、では、そういう事にしましょう」
一行はとりあえず展望台に行ってみる事にしました。それにしても何とも頼りないリーダーです。
この展望台があるのは高さ約二百メートルの電波塔です。展望台は一五〇メートルの場所に位置します。元々はアリエスの監視塔として造られたものを改造、整備して、今の形に為りました。周りに高い建物などないのに、無駄に高い電波塔になっているのは、四十キロ以上も先のアリエスが見える高さにする必要があったからです。
その展望台に上がる為のエレベーターは、観光客で長蛇の列です。
係員が二時間待ちのプラカードを持って立っていました。
「待ちますか?」
黄泉がげんなりした顔で尋ねます。
「階段から、という手もありますが……」
ラミナの提案にケインがブンブンと勢い良く首を横に振っています。
「サクヤさんの勅命なのですから、申し訳ないですが割り込ませて貰うというのはどうでしょう」
「あまり気は進まんが、な」
黄泉の提案にアメリも渋々同意しています。二時間も待つのは流石に遠慮したいのはアメリも同じでした。
電波塔職員の事務所へ足を運び、事情を説明します。
何だか怪しげな風体の五人組に、対応した職員は胡散臭げな視線を向けていました。
しかし、サクヤの
「直ぐにご案内いたします」
と汗を拭き拭き、平身低頭の所長さんに付いて行った先は、職員専用のエレベーターでした。
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