第4話 秘密(SIDEリディ)
王子は私の手を取って歩き出そうとしている。もう、一方的な方ね……。
「殿下! 探しましたよ! こんなところで何をしておられるのですか?」
王子を探しに来た騎士から呼び止められている。お願い! その王子を連れて帰って。
「リディアンヌ嬢と、庭園の散策をするところだが、お前など呼んでない」
「主役が、挨拶もせずにいなくなるから、広間は困惑しています。早くお戻りになってください」
騎士様は丁寧な言葉だけど、口調はきつい。王子は気にしてないみたいだけど、私は慣れない雰囲気が怖くて、体が固まってしまう。
「レイル! 僕は、取り繕った挨拶などする必要はない。今日という特別な時間を、自分にとって、有意義に使いたいのだ。指図はするな!」
王子が、私の手を引き突然歩き出す。
固まった体と、混乱した頭では、上手く足を前に出せなくて――――、一歩目の足を出し損ねて転んでしまった。
転んだ拍子に、膝を擦りむいたじゃない……、身勝手な王子の行動に不快感が募る。
「あっ、ぼっ僕が慌てて手を引いたから、申し訳ない……」
王子が慌てて謝っているけど、私になんて構ってないで広間に戻って欲しい……。
王族貴族の言葉の掛け合いなんて、田舎の野原育ちにはもうわからないんだから。
「大丈夫だよ、リディアンヌ嬢。僕が、傷を治してあげるから」
「……えっ?」
驚く私のことを置き去りにして、王子は私の膝に勝手に手をかざす。
「……」
王子が何かを、ぶつぶつと言っているけど、たぶん自分自身に言っているようね。
膝に、じんわりとした温かさを感じ、――――傷が消えていく。
少しの間、手をかざし続け、膝の擦りむきは完全に消えていた。
「……! ……?」
「僕は、癒しの力が使えるんだっ。上手に使えるようになったのは、最近だけどね。リディアンヌ嬢は、500年前の聖女様と同じ、パールの髪に青い瞳だから、練習したら、きっと、使えるようになるよ」
「――でっ、殿下っ! 貴重な力をむやみに使ってはなりません! 何を考えているんですか! リディアンヌ嬢、今のことは、口外なさらぬようお願いします」
騎士様のきつい口調に再び、体を固くした私は静かに頷く。
「殿下、もうこれ以上の自由は認めません。義務ですので、広間にお戻りください」
「わかったよ、レイル。……リディアンヌ嬢、今日は無理みたいだけど、次の機会に、ゆっくり話をしようね。必ずだからね! 約束だよ!」
「……っは、はい……」
田舎の領地に帰ってしまえば、もう会うことはないから大丈夫。
ふふっ、残念でした。私は、貴族の心得の初歩として、社交辞令と言うのは知ってるんです。
王子は、騎士様に連れられ、貴族たちの元へ向かってくれたから、1人でゆっくり王族専用の庭園を満喫した。
****
私は王子の使った癒しの力を目の当りにして、複雑な気持ちになってしまった。
膝の擦り傷なんか、私は……一瞬で治すことができる。
あれだけの時間をかけたら、瀕死の人間を完全回復させられるんだけどなぁ。
シェルブール家には代々引き継がれている知識があって、聖女様が使うことが出来た魔法の使い方や、魔物の弱点や倒し方など、聖女様の全ての知識を、聖女の父や兄が書き残していた。
その知識が、風化しないように、歴代の当主たちが、書き写し続けていて、現当主である父も、その知識を全て書物に残している。
シェルブール家は、家族が同じ部屋で一緒に過ごしているから、父から口伝いで知識を得ている。だから、魔力や精霊の力の使い方をよく分かっている。
やっぱり、普通はあれ位の効果なのかしら……。
****
本来、知識だけでは魔法も精霊の力も使うことはできない。
現シェルブール当主も先々代の当主も、カールディン王子程度の癒しの力を使うことはできても、リディほど、自由自在に癒しの力を使うことはできない。
ましてや、魔力を必要とする魔法は、500年前に魔王が倒されて以降は、魔物しか使えない。
魔法を使える人間は、もういない。
ただ、リディが特別なだけで。
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第4話を最後までお読み頂きありがとうございます。
規格外の力を持つリディと、一方的なカールディン王子。
2人の関係を引き続き、追っていただけると嬉しいです。
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