第5話 魔法
(SIDE 5歳のリディ)
私は、これまで魔力を感じた事はないけど、父から魔法や癒しの力について教えてもらっているから、いつかは魔法を使えるって、思っていた。
5歳の夏。日照り続きのせいで水不足が起きて、父が農民たちから救いを求められていた。
水路は整備されていても、その水源の貯水湖の水位が大きく減ってしまい、十分な水が水路に流れなくなっていた。
父が、貯水湖の様子を見に行くのに、私は付いて行った。
「……。なんてことだ……。このまま日照りが続けば、飢饉が起きてしまう……」
父は、枯れた貯水湖を前に項垂れていたけど、そんなことを気にしていない私は、憧れていた魔法詠唱を得意気に唱えた。
「私が何とかするね! ぁアクア クリエイトっっ!」
「わははは、上手だぞリディ。……我々にも魔法が使えたら、容易く解決できただろうな」
…………。
何とも言えない沈黙の後、明らかに貯水湖の水位が上がった。
「まっ、まさか! リディ!? うっ、嘘だ。これは奇跡だ! まさか、魔法を使えるなんて」
「毎日、お父様から使い方を教わっているもの、これくらい簡単です」
笑顔を見せるリディとは裏腹に、現実を理解できない父。
「いや、リディ。人間が使える魔力は、このノマーン王国には無いのだよ。今、使っている魔法は、この時代の奇跡の力だ。いいかい、絶対にこの事を、私以外に言ってはいけないよ。これだけは絶対の約束だ。お前を守るためだから、2人だけの秘密だよ」
「わかりました。お父様と2人だけの秘密ですね」
会話をしているうちに、貯水湖は平時の量の水を蓄えた。それを見た私は、魔法を使う意識をかき消し、水位の上昇を的確に止めることもできた。
****
領地経営や様々な研究に多忙なシェルブール伯爵だが、娘の魔法についての知見も広げていた。
人目のない所へ行っては、リディと使える魔法について確認していた。
危険過ぎて試していない魔法も多くあるが、結果は大半の魔法が使えることが分かった。
シェルブール伯爵かリディのどちらかが、山道で怪我をした時には、リディの癒しの力で瞬時に治すことができた。
人間の仕掛けた罠にかかり、瀕死の状態で弱っていた小鹿を見つけ、丁寧に癒しの力を使うと、元気になった小鹿は飛び跳ねて走り去っていった。
リディは、生まれた時からパールの髪をしていたが、成長するにつれ、より輝きが増し、見る角度によっては、キラキラと輝いて見えた。
ノマーン王国では、リディアンヌのようなパールの髪色は非常に珍しかった。
目立つ髪色は、おとぎ話の聖女様を訪仏させた。
伯爵とはいえ、領民に分け隔てなく接する当主と共にいるため、領民から気軽に声をかけられることも多いリディ。
「リディアンヌ様は、神話に出てくる聖女様みたいだね。今日は、聖女様を見られたから、力が湧いてくるよ」
農夫がリディの姿を見かけ、声をかけてくる。
「今日も、お仕事頑張ってね」
シェルブール領では、領民と貴族の娘とは思えない気安い言葉がかけられている。
領民たちは、この国に伝わる神話の聖女に、リディを見立てて聖女様と呼ぶことも珍しくなかった。
****
(SIDE 7歳のリディ)
私は、1人で王城の庭園散策を楽しんだ後、両親の元へ戻った。
領民と距離感の近い両親も、伯爵としての領地経営は、他の貴族たちからも一目を置かれていて、王族への媚びを売った後に、シェルブール伯爵夫妻へ挨拶に来る貴族たちが列を作っている。
似たような服で着飾っている貴族たちの中で、両親を見つけるのは難しくなかった。
今挨拶しているのは、シェルブール領の西隣の領地を管理している侯爵ね。
爵位的には侯爵の方が上だけど、父は自分の領地だけじゃなく、助けを求められれば、できる限りのことをしている。
リディアンヌが貯水湖に水を蓄えた年は、近隣の領地でも日照りが続き、農作物の不作に陥った。
難を逃れたシェルブール領の豊かな実りを、飢饉に陥っていた近隣の領地へ供給したと、町の人たちが誇らし気に話していたっけ。私も父の事を、とても誇らしく思っている。
私は、この後も両親と領地で伸び伸び暮らして、自然の中で慎ましく暮らしていけると、この時は疑いもしてなかった。
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第5話を読んで、いただきありがとうございます。
魔法が使えるリディが、この後どうなるのか……。
追いかけていただけると嬉しいです(*ᴗˬᴗ)
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