第47話 港町バースにて
キルシナからテレス第二の都市『バース』への直通列車は無く、一度、テレス王都に戻る必要がある、二人は一度それぞれの店に戻った。
「ただいま~」
「お帰りなさい、早かったですね」
「うん、でも明日からはリーアンに行く予定」
「なるほど、キルシナどうでした?」
「あ~~! 思い出しただけでムカつく~!」
「何かあったんですか?」
ルディが心配そうに聞いた。
「最悪よ! あのじじい、くっそ不味い料理を出したのよ!」
「料理美味しくなかったんですか?」
「わざと不味くなるように作った料理を出したの、ただの嫌がらせよ」
「なんと! それは許せませんね」
「そのくせ、『出店は許可してやる、くれぐれも問題は起こさぬように』とか言っちゃってさ」
「向こうからの出店依頼ですよね?」
「そうよ、終始上から目線でマー君ともバチバチだったのよ」
「宗教国家だから魔族に偏見があるのかもしれないですね」
「マー君もよく我慢してくれてたと思うわ」
「それはまた大変でしたね」
「もう疲れた~、明日早いから寝るね、おやすみ~」
「おやすみなさい」
―――― 2号店にて ――――
バタン!
裏口が大きな音を出して閉まった。
「まったく、あいつは、よくも我を侮辱したな。」
プンスカプンスカ魔王がお怒り。
「りょ、料理長、お帰りなさい」
スタッフが驚きながら出迎えた。
「うむ、今帰ったぞ、とりあえず茶をくれぬか」
魔王はそう言って2階席に上がった
「はい、お茶どうぞ、何かあったんですか?」
「キルシナのクソジジイが我を侮辱しおったのだ」
「はあ」
「カミザだのシモザの訳の分からん事を言いおって、だいたいカミザとはなんだ?」
ブツブツ
「それで、出店の方はどうなりました?」
スタッフは将来自分たちもプリマを任せてもらいたいので、そっちの方が気になる様子だ。
「あぁ、小春シェフも激怒してたから出店はしないと思うぞ」
「そ、そうですか。」
「意図的に食べれない程の不味い料理を出してきおった」
「それは料理人の風上にも置けないですね、冒涜としか」
「ああ、今日は気分が悪い、明日、早いのでな、我は休ませて貰うぞ」
「はい、ごゆっくり」
そう言って魔王も自室に戻った。
――――― 翌日 駅にて ―――――
「あれ? 小春お姉ちゃん?」
「ん? ミラちゃん」
「小春ちゃん、奇遇だなこんな所で」
「ほんとね、お出かけ?」
「あぁ、久しぶりの里帰りだ」
ダンが奥さんとミラを連れていた。
「じゃぁ、今日は噴水亭はお休みなんだ」
「うん、7日間の休暇だよ」
嬉しそうにミラが笑っていた。
「あれ? ミラちゃんまた背が伸びたんじゃない?」
「そうなんだよ、去年の服がもう小さくなってな」
ダンが嬉しそうに困った顔をした。
「私のお古でよければあげるよ?」
「ほんと? 小春お姉ちゃんのお古、欲しい!」
「うん、今度とりにおいで~」
「うんわかった」
「それじゃ、俺たちはそろそろ行くとするか」
「ダンさん親孝行してきてね~」
ダンは背中を向けたまま手をあげた。
「さ、私達も乗りましょうか?」
「シェフよ、あのエキベンってのは何だ?」
汽車が開通してから誰から教わったわけではないのに、駅のホームで駅弁が売られるようになっていた。
「あれは車内で食べるお弁当だよ、私の故郷じゃ、それぞれの駅で地の物を使った駅弁が売られてて旅の楽しみの一つでもあるの。」
「あれもシェフが考案したのか?」
「ん~ん、あれは違うよ、きっと何処かの食いしん坊さんが考えたんだろうね。」
「うむ、ちょっと買ってくる。 シェフも食うか?」
「私は要らない、でも、お茶が欲しいかも」
「うむ、分かった」
そう言って魔王が駅弁を買いに行った。
《そう言えば、駅にお店が出てないなぁ、駅チカ的なの作ればいいのに》
ゴトンゴトンと汽車は走って翌日の夕方に港町『バース』に到着した
「わ~~! 見てマー君」
海面を全て金色に染めている夕日を眺めて小春は感動した。
「これは形容し難い美しさだな」
「ねー、ここでちょっと休憩していかない?」
「うむ、異論はない、我は茶を買ってくる」
「あ、私のもおねが~い」
そう言うと魔王は夕日を見逃すまいと足早に駆けていった。
魔王が走る姿は、うん可愛い。
《あ~、お母さんたちどうしてるかなぁ、もう四年だもんなぁ、あれ? 勇太は高校二年生じゃない? 嘘でしょ、私が居なくなった歳だ、早いなぁ》
小春は綺麗な景色を眺めると日本のことを思い出す。
「ほれ、待たせたな」
「あ、ありがとうマー君」
「うむ」
「ほんと綺麗だね~」
「そうだな」
そうやって二人は日が落ちるまでベンチに座って眺めていた。
「ちょっと寒くなってきたわね、行きましょうか?」
「うむ、そうだな、宿も取らねばなるまい」
二人は坂を降りて繁華街へ向かった。
「賑やかだねぇ~」
王都とは違う、港町独特の
「そこの、お嬢ちゃん! ちょっと見てってくれよ」
日焼けした赤黒い、いかにも「海の男」が店の軒先に魚を並べて呼び込みをしていた。
「へぇ~、新鮮ですね~」
「ったりめぇだ! さっき水揚げしたばかりの物ばかりさ」
日本と違って、昼間漁に出た船が夕方戻ってくるようだ。
「これは?」
色んな魚介類が並ぶ店先に小春は目を輝かせている。
「おい、シェフ、先に夕飯を食べないか?」
「そうだね、オジちゃんまた来るね~」
「おう! いつでも来な」
「港町って良いよね、活気があって元気になる感じがする」
「そうだな、我は初めてだが悪いもんではないな」
二人は繁華街の中心部から少し離れた海が見える所にある宿をとり、荷物を置いて町へ出た。
「こんばんはー」
「いらっしゃい! 空いてる席に座って~」
小春と同じくらいの歳の女が忙しそうに厨房と客席を言ったり来たりしていた。
「いらっしゃい、はいメニューね、飲み物は何にする?」
「冷たい飲み物ってある?」
「冷えたミード(蜂蜜酒)ならあるよ」
「じゃ、それを水割りで頂戴、マー君なんにする?」
「我はエール(ビール)をもらおう」
「あいよ、料理は決まったら呼んでね」
声が大きな女給はミードとエールを作りに行った。
「私この街、好きかも」
「うむ、いい街だな」
「何て言うか、皆んなが明るくて楽しそうな笑顔してるよね」
「同感だ」
「キルシナがあんなだったから、余計にそう感じるのかもしれないけどね」
「言うな、思い出したくもない」
魔王はフンッと鼻を鳴らした。
「はいエールとミードの水割りね、で料理は決まった?」
「日替わり定食って何かしら?」
「今日はリーアン平目の煮付けだよ、評判料理だよ」
「じゃ、それを、マー君は?」
「我もそれを頼む」
「あいよ、日替わり二人前だね」
女給の注文を通す声が聞こえる。
「魚の煮付け料理かぁ、お母さんの煮付け思い出すなぁ」
「シェフの母君は料理が得意なのか?」
「ん~、私達が作る料理とは違うんだけど、ホッとする味って分かるかな、優しくて心が温まるんだよね」
「なに? そのような料理があるのか? シェフに作ってもらう事は叶うか?」
「私じゃまだ無理かなぁ~、あれは愛する人に作るから優しくって心が満たされるんだと思うよ」
「ほう、興味深いな、ノーラたちなら作れるか?」
「どうだろうねぇ~ もっと年を取らないと難しいかもね」
「料理は奥が深いものだな」
「そうだね、私は一生修行だ思ってる」
「我もその言葉肝に銘じておこう」
「って、マー君料理人でやってくつもりなの?」
「ダメか?」
「いや、ダメじゃないけど魔国のこととかあるんじゃない?」
「問題ないだろ」
二人は笑みを浮かべた。
「はい、おまたせ~ リーアン平目の煮付けだよ、それと、ご飯と味噌汁」
「!」
《ちょっとまったー! ご飯に味噌汁! これ! 本物だ!》
「ごごごはん~!」
「ご飯がどうかしたかい?」
「バースってお米が採れるの?」
女給に尋ねた。
「リーアンで採れたのを運んでるのさ、ご飯を出す店はウチとあと2~3軒くらいかな」
「おいシェフ、米とは何だ?」
「ちょっと待ってねマー君」
魔王を制した。
「ねぇ、あとで詳しい話を聞かせて」
そう言って小春は大銀貨を1枚(千円)女給に渡した。
「あぁ、いいよ、さ、冷めないうちに召し上がれ」
「はーい」
ご飯は深めの皿にいてれあり真ん中に黒ごまのようなものがひとつまみ乗っている。
味噌汁の味は日本と全く同じで具は魚のアラ(
「おい! どうした? 小春シェフ!」
「ん? なに? どうかした?」
「泣いているではないか!」
「あ、ほんとだ、懐かしくて泣いちゃったのかな」
知らず
「この定食ね、私の故郷と全く同じ味なの」
「ほう、シェフの故郷の味か」
そう言って魔王は味噌汁をすすった。
「深みのあるスープだな」
次にご飯をほうばった。
「麦飯とはまた違う、少し甘みを感じるな」
そして平目の煮付け。
「ほう、これはまた興味深い味だ」
「ご飯と平目を口に入れて一緒に食べてみて」
「うむ、 なるほど、そう言う事か」
「今度は味噌汁とご飯を一緒に食べてみて」
「ほう、これは面白い、このご飯というのは面白い作用をしているな」
「そうなの、私の故郷はね、ご飯に会う料理が無数にあるの」
「うむ、これは組み合わせが無限に広がるな」
「面白いでしょ? ご飯と一緒に食べるのをオカズって言うんだけどね、オカズが無くてもご飯だけで美味しく食べれる調理法もあるのよ」
「う~む、やはり料理は一生修行すべきだな、ハッハッハッ」
「だね、フフフッ」
その後、女給から米、味噌、醤油などの食材や調味料がリーアンにあることを教えてもらった、久しぶりに故郷の味を堪能した小春はその夜はぐっすりと眠った。
翌朝、港には大きな帆船が3隻停泊していた。
「うわ~ 大きな船だね」
「これがフネというものか」
「そう、楽しみだなぁ~、リーアンまで半日って聞いたから今日の夕方には着くね」
「うむ、楽しみだ」
魔王の口がほころんでいた。
「ね、早く乗りましょ?」
「あぁ」
二人は桟橋から急な勾配のハシゴとも階段とも言えぬものを登り甲板に上がった。
「うわー、結構高いんだね~」
「うむ、旅は良いもんだな」
「マー君も奥さんとか家族と旅行すればいいのに」
「あやつらは情緒が無い、景色を愛でるなど理解できぬ」
そう言いながらも微笑んでいた。
「しかし、あやつらも連れてきてやりたいものだな……」
カランカランカランと大きなハンドベルの音が出港を知らせた。
「お~! 動き出したよマー君」
「あぁ」
「あ、お弁当忘れた、船内に売ってるかな?」
「ん? 駅弁か?」
「そう、そんな感じの」
「昼時になれば分かるだろう」
「それもそうね」
船は港を出て湾から出て
二つの帆は風をはらんで大きく膨らんでいる、船首は勢いよく水を切り
「気持ちいいねぇ~」
「あぁ」
「こんなにスピード出るなんて思わなかったなぁ」
「これは魔力を感じないが、風だけで動いているのか?」
「そうだよ、すごいよね」
「人族もなかなか、賢いではないか」
風に目を細めて魔王が言った。
二人はしばらく甲板で風の音や波しぶきの音を楽しんだ。
「のう、シェフや」
「ん? なに?」
「シェフは好いた男はおらんのか?」
「ブッ! なによ突然」
「もう、年頃ではないか、浮いた話も聞かんようだしな」
「そうね、こっち来てからずっと忙しかったからねぇ~ 彼氏かぁ」
「我の配下を紹介してもいいぞ」
「遠慮しとく」
《人間と魔族のハーフってどんなのが生まれるんだろう》
しばらくすると、カランカランと鐘の音が聞こえてきた
「弁当いらんかねぇ~、バース名物、握り飯だよ~」
「お~! ハイ! ハイ! 買いま~す!」
「まいど、どれにしやすか?」
乗組員だろうか、赤黒い顔の若い男が首から画板のようなものを下げておにぎりを売りに来た。
「何があるの?」
「こっちが鮭、こっちが梅干し、それこっちが佃煮でさぁ」
《やっば~ 4年ぶりのおにぎり様だ》
「全部一個づつ下さい。」
「あいよ、そっちの兄さんは?」
「うむ、我も全部頼む」
「一緒にお茶は如何です?」
「勿論おねがい、私、お茶二つ頂戴」
「我は一つで構わん」
「全部で、小銀貨9枚だよ」
「はい、大銀貨1枚、お釣りは取っといて」
「まいどありッ!」
二人は竹の葉からおにぎりを取り出してかぶりついた。
「お米最高~~~!」
小春は右手にもったおにぎりを高く掲げて叫んだ。
「異論ない!」
魔王は両手におにぎりを持って掲げた。
そして夕刻、船はリーアンの港に着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます