第46話 キルシナにて

セントラルキッチンの稼働も軌道に乗り出した頃、キルシナ法王国とリーアン帝国から出店の依頼が来た。この頃はプリマ・グループのスタッフもスキルが高くなっており、他国からのアカデミー卒業生もいたため出店を快諾した。


出店にあたり、小春はキルシナ法王国とリーアン帝国に挨拶に向かった。


鉄道はキルシナ法王国の国境まで、リーアン帝国へは船便がある港街まで伸びていた。



「キルシナまで3日だっけ? 寝台も作って欲しかったなぁ」


小春は魔王と一緒に居た、魔王は両国と親交が無いため同行すると申し出たのだった。


「うむ、我は小屋で生活していた時期があるからの、まったく苦にはならんぞ」


「マー君は男だからね、女性はイロイロと大変なの」


「そういうものなのか?」


「そういうものなの」


小春は車窓から辺り一面に広がる麦畑を眺めた。


「ねぇマー君、魔王国って農作物は何が採れるの?」


「知らん」


「知らんって、たまに帰ってるんでしょ? その辺りとか見ないの?」


「うむ、そのあたりはアラーナがうまくやっているようだ」


「アラちゃん元気にしてるかなぁ、2年? いや3年くらい会ってないのか」


「アイツは相変わらずだ」


「そっか、ハハッ」


「いろいろ思い出すね、包丁の握り方とか」


「アイツは魔国の恥晒しもんだ」


「そんな言い方は良くないよ、アラちゃんのお陰でマー君も好きなことできてるんでしょ?」


「まぁな」




しばらくして列車はキルシナ国境に到着した、王都までは馬車で移動だ。


「ふ~、やっと着いた~、あー腰が痛い。」


小春はトントンと腰を叩いて伸びをした。


「さてと法王様に挨拶に行きましょう」


キルシナにはまだ、蒸気馬車は走っていなかった。


「あのぉ、大聖堂はどちらでしょう?」


通りを歩いている人に道を尋ねた。


「あぁ、この大通りをまっすぐ歩けば見えてくるよ」


「ありがとう」


小春達は礼を言った。


「道が広いな」


「だねぇ~、テレスより建物が綺麗だね」


「だな、清掃も行き届いている」


「教会の教え的なものかもね」


路地裏にも目をやるが綺麗に清掃されている。



「我は、キルシナの法王とはどうも馬が合わん」


「なんで?」


「小難しいことばかり言うではないか」


「会ったことあるの?」


「通商会議の時にな」


「あ、そうか、マー君も出席したんだったね」


「あやつは、やれ教義だ神だ教えだなどと屁理屈ばかり言いおる」


「ちょっと~、喧嘩しないでよね~」


「それくらい心得ておるわ」


「それなら良いけど」


そうしているうちに大聖堂が見えてきた。




「止まれ! 見慣れぬ顔だな、何者だ?」


大聖堂の入り口で門番に止められた。


「テレスより参りました、小春と申します、猊下げいかにお取次ぎをお願いします」


「なに? 猊下にだと? おい、聞いているか?」


門番はもうひとりの門番に尋ねた。


「いや、聞いておらん」


「怪しいな、ちょっと来い」


そう言って二人は詰め所へ連れて行かれた。


「武器を持ってないか、あらためさせてもらう」


そう言って、小春の身体や荷物を調べた。


「おい、これ」


小春のカバンから何かを取り出した門番の一人が小さな声でもうひとりの門番に見せた。



「た、大変失礼致しました! どうぞご案内致します。」


門番は額に汗をかいて青ざめた顔で態度が急変した。


「何かありましたか?」


「いえ、その、テレス王族の方とは知らず大変な無礼を致しました、お許しください。」


「頭をお上げ下さい、門番さんたちも仕事でやったことですから、全然、気にしてないですよ」


門番たちは額の汗を拭った。


「なにがあったのだ? 小春よ」


「多分だけど、おじいちゃんにもらったメダルを見たんだと思う」


「ほう、それはどのようなものだ」


「私もよくわかんないんだけど、コレをもってるとかなり優待されるらしいわ」


「便利だな、我も欲しいぞ」




猊下げいかに伝えてまいります、こちらで少々お待ち下さい。」


そう言って足早に去っていった、通された部屋で待っていると飲み物が運ばれた。


「キルシナ特産のクーファに御座います」


「この香り!」


小春そう言ってひと口飲んだ。


「間違いないわ、コーヒーだ!」


だされたクーファという飲み物は日本のコーヒーと瓜二つだった。


「うわ~、まさかコーヒーが飲めるなんて思ってもみなかった~、これだけでも来た甲斐があったよ、嬉しい~」


「それほどか? ん? 何だこれは苦いだけではないか、コレが美味いのか? お前の味覚は大丈夫か?」


「大丈夫、コーヒーって飲み慣れないと苦いけど、慣れると美味しいのよね、お替りほしいなぁ」


「我のをやろう」


「嫌よ、親戚と間接キスなんて」


「ハッハッハッ」




「お待たせいたしました、猊下の準備が整いました。」


「はい、マー君行きましょう」


「うむ」


「テレス王国より小春様御一行のおなり~」


ぎぃ~っと音をたて真っ白で大きなアーチ型の扉が開いた、


パンパンパ~~ン♪


ファンファーレが鳴った


「お! びっくりした」


小春は予想してない歓迎に戸惑った。


「うむ、悪い気分ではないな」



「猊下、テレス王国より参りました、コハル・ヒナタと申します、本日は貴重なお時間を頂き誠に有難うございます。」


「我は魔王国の魔王と申す、よきに計らえ」


「ちょっとマー君、敬意を示しなさいよ」


「我はこれで構わん」



「これはこれは、遠いところから遥々と来なさったな、ん? そなたは先だっての通商会議のときの」


「はい、料理長をしておりました小春です、お見知りおき頂き光栄です」


「あの料理は美味かった、また食べたいものだ、さて挨拶はこれくらいで良かろう、長旅で疲れておるだろうから昼餐ちゅうさんにいたそう」


《やった! キルシナの王宮料理が食べられる》


「うむ、腹が減っておる、丁度よい」


「キルシナのお料理楽しみです、猊下」


「そなたの国ほどではないが、最近はキルシナの食文化も向上してきてな、嬉しい限りだ」


「それはよかった」


「さ、こちらへ」


「有難うございます」



二人は豪華なダイニングへ案内された


「どのような献立だ?」


法王は給仕長に尋ねた。


「はい、本日の昼餐は……」


聞いたことのない料理ばかりだった。


「では、再会を祝して乾杯いたそう」


「はい、猊下のご健康を祈って」


「乾杯!」



「美味しいワインですね!」


「そうであろう、キルシナはワインの名産地だからの」


「へぇ~、輸出とかされないんですか?」


「うむ、生産量が輸出するほど多くないのだよ」


「ん~、残念ですね、これほどいいワインなら料理に使うと美味しいソースが出来そうです」


「ハッハッハッ、噂に違わぬ料理娘だな」


「ヘヘッ、よく言われます」


「して、魔王殿は何故一緒に?」


「そなたの顔を見に来てやったのだ、元気そうで何よりだ」


「ハッハッハッ、あの魔王に心配されるとはハッハッハッ」


「まぁ、通商会議の席でしか会っておらんからな、親交を深めてやろうと挨拶に来てやったのだ」


「なんと! 我が国と魔王国が親交とな? ハッハッハッ! これは異な事を申される、魔王と聖職者が仲良くとは、なんと滑稽な、ハッハッハッ」


給仕の者たちもクスクスと笑った、


「我が国は魔国など相手にしておらんよ、通商会議ではたまた同じ席だっただけだ、そもそも私の方が上座かみざにおったではないか、ハッハッハッ」


魔王の顔が曇った。


「我は来客のはず、その言動は失礼ではないか?」


法王の顔も曇った。


「そう、目くじらを立てるな、昔からの因縁だろうて、本気にするでない、これだから蛮族は困るハッハッハッ」


法王は嘲笑う。



そして、料理が運ばれてきた。


「さぁ、遠慮なく堪能してくれ。」


そう言いながら法王はワインばかり飲んでいた。


《うっ! なにこれ? キルシナの人ってこんなの食べてるの?》


「シェフよこれは酷いな」


魔王が小声で言った。


「本当にコレってキルシナ料理なの?」


小春が魔王に言った。



法王はニヤニヤしている。


《こいつ! わざとだ! わざと食べれないような料理をだしたな》


小春の顔が曇る。


猊下げいかは召し上がらないのですが?」


「私は先に済ませたのでな、ワインだけで十分だ」


そう言いならニヤニヤしている。


「せっかく料理番が作られたのです、召し上がられては?」


「いらんと言うておる!」


法王はフンッと鼻をならした。


「キルシナの料理は口に合わぬか?」


食が進まない小春と魔王をニヤニヤしながら法王が言った


「いえ、大変美味しゅうございます」


社交辞令を言いながら食べた。


「そうじゃろう、そうじゃろう」


食事が終わりコーヒーが運ばれてきた。



「ふぅ、コーヒーは落ち着きますね」


「そなた、クーファを知っておるのか?」


「はい、私の故郷にもございました」


法王はフンッと鼻を鳴らした。



「して、今日は何の用向きで参ったのかな?」


《上から目線がムカつく~》


「はい、猊下の要請で支店を出して欲しいと伺いましたので」


「そうであったかの? まぁよい、許可しよう、くれぐれも問題を起こさぬよう頼むぞ」


《なに? こいつ》


「食事も終わったようだな、下がって良いぞ」


小春たちにそう言うと法王は部屋を出た。


「なんだあの態度は」


「だよね、下手にでてりゃ調子に乗って、誰が店を出すかっての、行こマー君」


「うむ」


二人は皇宮こうぐうを後にした。




キルシナ駅にて


「なんか、気分悪いからさ、地元の料理でも食べにいかない? さっきの料理は料理への冒涜だよ」


「まったくだな、同意する」


そう言って二人は街を散策した。


「あのお店良さそうじゃない? お客さんも並んでるし」


「そうだな、試してみるか」


二人は通りの角にある料理店に入った。


「いらっしゃい、二人かい?」


「はい、二人です」


生憎あいにく、見ての通り満席でね、相席で良いならすぐ案内できるけどどうする?」


「はい、相席で構いません、いいよね? マー君」


「うむ、かまわん」


「ちょっと待ってな」


そう言って女将は奥のテーブルを案内した。


「おーい、お二人さん、こっちおいで」


案内された席には中年夫婦が座っていた、二人は軽く会釈して席に座った。



「何にしようか?」


「はい、おまち」


「え? まだ注文してないですよ」


「うちはコレだけだよ、コレしか出してないよ」


「他の料理は?」


「めんどくさい客だね、食べるのかい? 食べないのかい? 食べないんだったら出ていってくれ」


小春と魔王は顔を見合わせた。


「じゃ、じゃぁ頂きます」


「ほらよ、席が混んでるんだ食べたらさっさと帰っておくれ」


ガチャンと料理をテーブルに落とすように置いて女給は去った。


「すごいな! なんと言うか、よく客商売が成り立っているな」


「だね、びっくりだよ」


「これで料理が不味かったら怒るよ」


そう言って二人は料理を口に運んだ


「うぇ~! しょっぱ! なにこれ?」


思わず大きな声が出てしまった。


「なんだい? 文句があるのかい?」


「女給よ、問題というより、これは料理と言っていいレベルではないぞ」


魔王が文句を言った。


「文句があるなら出ていきな!」


「なんで、こんなにしょっぱいの?」


小春は率直な疑問をぶつけた。


「あんた達、レシピを盗みに来たね、どこの店のもんだい?」


「なにを言っている、こんな不味い料理のレシピなど見たくもないわ」


「うるさいね! 出てお行き! カネは置いていきな!」



「分かった、分かりましたから押さないで下さい。」


そう言って二人は追い出された。


「最悪~! あんな料理に並ぶの?」


「うむ、我もプリマで働く前なら並んだかもしれぬな」


「いくら何でもあれは人が食べれる代物じゃないよ、塩水に油が浮いてるだけだもん」


「そう言ってやるな、キルシナ人は舌がバカなだけだ」


「なんだか、いろいろとガッカリしたね」


「うむ」



モヤモヤしながら二人は馬車の待合所に向かった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る