ー珈琲たいむー ノーラの休日 ①

今日は日曜日、朝から雲ひとつ無いいい天気。


「フンフフンフ~ン♪」


ノーラはご機嫌な鼻歌さんである。


「今日は旦那様のお誕生日、プレゼントは何にしようかなぁ~♡」


ノーラはルディの誕生日プレゼントを探しに職人街を散歩している。


「お嬢ちゃん、どうだぃ? 可愛い服があるよ~」


「嬢ちゃん、違う、ノーラ」


一人の時は普通に喋るが、人と話す時はノーラ節。


「あれ? あんなお店あったかなぁ?」


店と店の間に細い路地があり、その突き当りに見たことのない店が開店していた。

店の入口には『日曜日限定オープン』と看板が出ている。


「何屋さんかなぁ? ちょっと覗いてみようかな」


カランカラン~♪


ドアベルが心地よい音をたてて鳴った。

店の広さはコインパーキング2台分ほどの小さな店である。


「いらっしゃいませ~♪」


身体のラインを強調するような白い服を着た女の店主が出てきた。


「本日はどのようなものをお探しですかぁ~ン♡」


よく見るとその女の頭にはクルリと巻いた黒い角がある。


「ん、この店、初めて」


「あらぁ~ン、そうなのですねぇ~ ゆっくり見ていって下さいねぇ~ン♡」


強い香水の匂いで頭がクラクラする。


「コレ、何?」


よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに女がノーラに駆け寄った。


「コチラはあの、偉大なる御方おんかたを型どったフィギュアに御座います。」


「偉大なる御方おんかた?」


「はい、ご存知ありませんのぉ?」


「これ、骸骨がいこつ


「いいぇ、ただの骸骨ではありませんのよぉ、偉大なる御方おんかたは、わたくし達、守護者の創造主であり慈悲深きお方で御座います。」


「こっちは何?」


「チッ、それはニセ乳のヤツメウナギ女の汚いフィギュアです、処分し忘れたものが残っておりました。ペッペッ」


「お、おじゃました」


帰ろうとすると女が


「お待ちを~、コレは開店記念グッズですぅ~」


と言って、何かをカバンにねじ込んだ。

女の不気味な笑顔が気持ち悪いので走って店を出た。


通りへ出ると大きなジャンガリアンハムスターが居た。上に乗っていた骸骨が羨ましかったので、後ろに乗せて欲しいと頼んだが『子どもの乗り物では無いでヤンスよ~』とハムスターに拒否られた。


ノーラは変な夢でも見たのかと首を傾げながら職人街を歩いた。

職人街を抜け市場に来ると、ジュース売りの子供たちに呼び止められた。


「あ! ノーラのお姉ちゃ~ん!」


一生懸命に手を振る子供たちの笑顔を見て気持ち悪いのが治った。


「お姉ちゃん、今日はお休みなの?」


「ん、休み」


「何してるの?」


「買い物、ルディ、誕生日」


「ルディ兄ちゃん誕生日なんだぁ~、ちょっと待ってね」


そう言って、ミックスジュースを二つ持ってきた。


「これ、ルディ兄ちゃんにプレゼント」


「ん、お前たち、良い子」


ノーラは子供たちの頭を撫でた。


「お~い、アプレジュースをくれ~」


客がジュースを買いに来たので、ノーラは子供たちに挨拶をして去った。


《あの子達頑張ってるなぁ、でも良かった。これも小春のお陰だね》


「あ、プレゼント買わなきゃ」


ノーラは職人街に戻った。

アガシの工房が見えてきたので立ち寄ることにした。


「アガシ、遊びに来た」


「おぅ、ノーラじゃねぇか、どうした? 今日は休みか?」


「ん、ルディ、誕生日」


「なるほど、プレゼントを買いに来たんだな」


「ん」


ノーラはつちを振り下ろすアガシを眺めた。


トンチントンチンと金属の心地良い音と、綺麗な火花が飛ぶ。


「アガシ、楽しい?」


「なんだぁ? 藪から棒に」


トンチンカントンチンカン♪


「アガシ、見てる、楽しそう」


「まぁ、仕事は楽しくやらねぇと、長続きしねぇわな」


ノーラは暫く眺めていた。


「よっしゃ、休憩とするか」


「アガシ、汗スゴイ」


「まぁな、コマメに水分補給しないとぶっ倒れちまう」


ノーラは両手に持ったジュースを見た。


「ん、水分」


「いいのかい? 有り難てぇ」


そう言ってアガシはジュースを一気に飲み干した。


「ん? コレお前さんの飲みかけじゃねぇか」


「ん、アガシ、ノーラ、間接チッス」


「大人をからかうもんじゃねぇ!」


「アガシ、顔、赤い」


「う、うるせぇ! 窯の熱だ!」


ひとしきりからかい終えると、工房を追い出された。


外に出ると工房で火照った身体を冷ます心地よい風が吹いていた。


「ルディ何時頃帰ってくるかなぁ~、先にお昼ごはん食べても大丈夫だよね」


独り言を言いながら市場へ向かった。

今日はルディは小春についてアカデミーの打ち合わせに出かけていた。


「ん? あれなんだろう?」


市場の隅に並ぶ数件の屋台が気になった。


「あ、ラーメンだ」


「らっしゃい! 嬢ちゃん食べてくかい?」


「嬢ちゃん、違う、ノーラ」


「どうだい? 熱くて美味いぞ?」


「ん、やめとく」


「そうかい、また来なよ」



ノーラは隣の屋台が目に入った。


そこには『パスタ』と書かれた箱が山のように積み上げられていた。


「少佐! アフリカから持ち帰った、パスタ積み終わりました!」


軍服を着た屈強な男たちが幼女の前に整列した。


「ふざけるな!これのどこが安全な後方勤務だ~! 存在エックスめぇ~!」


幼女が突然キレだした。


「どうした? エビのようにピクピク痙攣して 豚の餌にでもなりたいのか?」


3段重ねにしたパスタの箱の上から、幼女がさげすんだ目でノーラを見下ろした。


「ちょ、何言ってるの、コワイ」


ノーラは後ずさりした。


「ごきげんよう そして ごきげんよう!」


そう言うと、幼女を先頭に男たちは大量のパスタを抱え、飛び立っていった。


一瞬の出来事にノーラは驚き、その場から逃げるように立ち去った。


「おそと、コワイ」


そう言いながらノーラはジュースをチューチュー飲みながら家に帰った。



ノーラが帰って直ぐにルディも帰ってきた。


「ただいま、ノーラ♡」


「お帰り、ルディ♡」


二人はお帰りとただいまのキスをした。

ルディが欲情してノーラの胸に手を伸ばしたがノーラに拒否られて、シュンとなった。


「お誕生日おめでとう! ルディ!」


「覚えていてくれたんだね、ノーラ」


と、ここでノーラはプレゼントを買ってくるのを忘れていたことに気づいた。



「ルディ、その、プレゼント……」


「休日なのに、わざわざ買ってきてくれたの? 有難うノーラ♡」


ノーラが、あることを思い出した。


「あ! これプレゼント!」


ノーラはカバンから包を取り出してルディに渡した。


「有難うノーラ! 僕はとても幸せ者だよ♡ 開けてイイ?」


「うん、大したものじゃないけど」


「ノーラがくれるものは、何でも素敵だよ、愛がこもってるからね♡」



ガサガサとルディが紙袋を開けると、中からヤツメウナギ女が出てきた。



「あ、うん、その、アリガトウ……」


ノーラは無表情で


「テヘペロ」


こうして、ある日のノーラの休日が終わった。






(※大好きな作家さん、アニメへのオマージュです。)

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