第42話 開校
1000名を超える面接もようやく終わり、今日が入学初日である。
「みなさん、おはようございます」
「おはようございます!」
一同元気よく挨拶
「私が校長でプリマグループのオーナーシェフでもあるコハル・ヒナタです。今後、主に皆さんの調理実習の講師を担当します、よろしくお願いします。」
「あの小春シェフから教えてもらえるんだ」
「おぉぉ~!」
と感嘆の声が上がる。
「私の他にも、交代で助手の講師が参りますので宜しくお願いしますね」
「はい!」
まるで訓練された兵士のように直立不動である。
「はい、それでは先程から皆さんが気になってしょうがないものを配ります」
「やった! あれだぞ、ついに!」
「では一番の人、ここへ来て下さい」
「はい!」
「教科書です、失くさないようにして下さいね。教科書は支給品ですのでメモなど書き込んで貰って結構です。次にコック服とズボン、それと前掛けに靴です。」
「おぉ~! いいなぁ!」
教室から声が上がる。
「コック服一式についてはまた後日説明しますが、常に清潔に心がけて下さい」
「おぃ、左胸見せてみろよ、入ってるか?」
「あぁ! 入ってるよ!」
コック服の左胸のマークを確認した。
「はい、皆さん行き渡りましたか?」
「はい!」
「それではコック服を着て下さい。」
小春がそう言うと
「やったぞ! 念願の!」
生徒達はニコニコしながら袖を通した。
「はい、では皆さん向き合って下さい、左胸に花の印、これは私の故郷で春のほんの短い間だけ咲く花で『桜』と言います、私の名前が小春なのでこの花を本校のシンボルにしました、それから桜の下に『Prima Cooking Academy』と書いてあります、プリマは私達のお店ですね。クッキング・アカデミーとは『料理の大学』という意味です。これから皆さんに二年間学んで頂くのはこれまでに無かった料理を色々な角度から研究し学び、その技術を身に着けて頂きます。なので『大学』に致しました。私の故郷で大学は非常に高等教育で優秀な人だけが通う学校です。皆さんはこの国における料理の高等教育を受けます。この技術は美味しい料理を作り、人に食べさせ、幸せにします、ここで思い浮かべて下さい。美味しい料理を食べたくない人ってどんな人でしょう? だれか分かる人答えて下さい」
「おぃ、そんなヤツだれかいるか?」
生徒たちはヒソヒソと話している。
「いないようですね、正解は『そんな人は居ないのです』病床に臥せっている人も食欲がなくても美味しい料理なら食べられます、美味しい料理は貴族も平民も善人も悪人も関係なく幸せにします。その事を覚えておいて下さい。『美味しい料理は人を幸せにする』そう覚えていて下さい。ではその逆はどうでしょう?
不味い料理を食べたい人なんていませんよね?
不味い料理は食欲を無くします、食欲が出ないと病気になります。つまり『不味い料理は人を不幸にする』この二つは決して忘れないで下さい。そしてこの学校を卒業した後、皆さんは色々なところで活躍されるでしょう。そうしたら卒業生の数だけ幸せを提供する人が増えます。この数が増え続けると世界は少しだけ幸せになると思いませんか? 皆さんには期待していますよ、宜しくおねがいします。」
「ウォ~~!」
教室から割れんばかりの歓声が上がった、拳を振り上げるものもいた、涙を流しているものも居た。
「やっぱすげぇな、小春シェフ!」
「あぁ、聞いた話通りの
「俺たち、入学出来ただけでも幸せなのにな!」
「故郷に帰ったら俺も幸せを配るぞ!」
生徒の目がキラキラと輝いている。
生徒たちは、教室へ行きそれぞれの机で嬉しそうに教科書をめくっていた。
「おぃ! これ! あの魚料理じゃないか?」
「魚料理? 魚料理も勉強できるのか?」
「こっちにはデザートも書いてあるぞ!」
料理のレシピが書いてある教科書に夢中である。
「この公衆衛生学ってのは何だ?」
「あ、それは料理を作る以前の話しさ」
プリマの見習いが答えた。
「おまえ、よく知ってるな」
「あぁ、店で最初に叩き込まれたからな」
「店ってまさか、プリマの?」
「一応な」
「すげぇ! プリマのヤツがいるぞ! 友達になってくれ!」
「俺も、俺も頼む!」
「この人もプリマからだ」
「こんにちは」
そう言ってカワイイ女性が挨拶した。
「え? プリマって女も厨房にいるのか?」
「あぁ、この人は俺の先輩で1号店でパティシエをやってる」
「ぱしちえ、って何だい?」
「デザートの職人って意味だよ」
「へぇ~! すげぇ人たちが入ってきたんだな」
「ほんとだな、既に幸せを配ってる人たちだもんな、わからないことがあったら質問してもいいですか? 先輩!」
「先輩なんてやめてよ、同じ一年生じゃない」
照れくさそうに女の子は言った。
開校日翌日から授業が始まった。
授業料は年間大30万Gとなっている。
貴族と他国の生徒は全額負担。
平民は半額負担で成績が優秀な上位10名は翌年の授業料が免除される。
これらの奨学金も材料費も王宮からの援助が出ている。
授業料は全額、小春のもとへ入るようになっている。
王曰く『技術は小春が持っているものを教えるのだから当然じゃ』だそうだ。
生徒の数は当初の予定の30名を大きく超え70名になった。
授業が二年目に入った頃、現場実習を実施した。王宮やカルミア男爵家他、通商会議に出席した国、はたまたプリマ・グループから噴水亭、市場の屋台に至るまで、生徒たちの希望に答えるべく小春は手を尽くした。
授業一年目では公衆衛生学や調理理論などの基礎的なことを学んでいるのでメニューが違っても応用が効く。現場では即戦力とまではいかなくとも皆んな頑張りを見せた。
授業も残り半年となったころ、模擬店の実習が行われた。
販売価格を全て500Gに設定し料理を調理販売し売上を競うものだ。
授業というより、イベント的な位置づけである。
自分たちで立地条件を調べ、適したメニューを考え、原価計算も行わせた。
これは、かなり評判が良かった、毎日、寮に帰ってきては売上を報告しあい、改善点を出し合っていた。
そして、卒業式を三日後に控えた日、卒業料理の発表会が行われた。
生徒たちが二年間、学んだ技術や知識を生かして生徒一人ひとりが自分でメニューから調理まで全て行い、発表する。
これは、特に点数などなく、来賓の父母や兄弟が参観しにくるものだ。遠方からの来校には学校から交通費を援助した。
保護者らは涙し、自分の子どもの成長を喜んだ。子どもたちは誇らしげに色々と料理の自慢をしていた。
そして、卒業式を迎えた。
保護者たちはそのまま滞在し、卒業式も参観した。
小春は桜色のドレスで壇上に上がった。
「皆さん、ご卒業おめでとう御座います、それから保護者の皆様、大事なご子息様、ご息女様をわたくしども預けて頂き有難うございました。二年間さぞ心配だったと思います。先日、卒業料理発表会でご子息さまの成長を見られたと思います、また生徒の皆さんも二年間、誰ひとり欠けることなく卒業出来たことを大変うれしく思います。これから皆さんが旅立ち、各々の場所で活躍されることを切に願っております。皆さんは『プリマ・クッキング・アカデミー』の映えある第一期生です、私も感慨深いものがあります。これ以上話すと涙が流れそうなので私の挨拶はこれにて失礼させて頂きます。皆さん、おめでとう! そして、本当にありがとう!」
小春は泣きながら壇上から降りた。
「つづいて国王陛下から祝辞の挨拶です」
「コホン、皆のものおめでとう! 小春が申した通り儂もそなたらを誇りにおもうぞ、遠い他国からの生徒もおると聞いた。国に帰ったらアカデミーの料理を広めてくれ、みなのもの大儀であった。」
「つづいて卒業生代表の挨拶」
「校長先生、講師の皆様、そして学び舎をともにしたみんな。本当に有難う御座います! 皆んなのお陰でこうして卒業の日を迎えることが出来ました。思い起こせば二年前の入学の日、プリマのコック服を頂き、教科書に胸をときめかせたことを思い出します。勉強することがこんなにも楽しいものだと思いませんでした。生徒の皆んなと離れ離れになるのは辛いけど、お互い連絡をとりながら近況報告でアカデミーの同窓会をしようじゃないか! 」
「おぉぉ~!」
卒業生一同歓声と拍手。
小春が再び壇上に上がった
「これより卒業証明書を授与します。順番に壇上に上がってきて下さい。なお、卒業証明書とは別に、アカデミーのマーク、桜の刻印が入った包丁を卒業記念品としてプレゼントします。」
「マジか!」
「包丁もらえるなんて聞いてないぞ!」
「校長…… どこまですごいんだよ泣きそうだよ」
卒業証明書と記念品を貰った生徒たちは早速ケースの蓋を開けて眺めていた。
「記念品の包丁ですが、ステンレス製です、また、成績上位3名には特別製黄金のステンレス製になってます。使う時は学校で学んだこと、友の事を思って大切にしてください。」
「黄金だってよ!」
「あとで見せてもらおうぜ」
「このあとは、プリマ・グループのスタッフが屋台を用意してくれています。式はこれで解散になりますが、屋台も楽しんでいって下さい。 では、皆さん御卒業本当におめでとう御座います!」
「有難うございました! 小春校長!」
そう言って、生徒たちは泣きながら小春に駆け寄り抱きついた。
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