第41話 活版印刷
「アガシさん居る~?」
小春が元気よくアガシの工房にやってきた。
アガシの工房は蒸気機関の功績で以前の6倍の規模になっていた。
「今度はなんだい? また面白いもん思いついたんだろ?」
「どうして分かるの?」
「お前さんの笑顔と声でだいたい分かるようになったぜ、ハッハッハッ」
「仕事はどう? 立て込んでる?」
「いんや、今は落ち着いてる」
「よかった、アガシさんに作ってもらいたいものがあるの?」
「ほう、話を聞こうか」
そう言って新設した事務所に案内した。
「すごい大きくなったね~」
「これもお前さんのおかげさ、で、話ってのはなんだ?」
「うん、本を大量生産しようと思うの」
「本かい? なんで鍛冶屋に本の話しを持ってくるんだ?」
「今ってさ、筆者師の人が一つづつ手で書いてるでしょ?」
「まぁ、そうだな」
「それを機械にやってもらうの」
「どういうこった?」
「活版印刷って言ってね、私の故郷じゃ結構古くから使われてる技術なの」
「詳しく聞かせてくれ」
ニヤニヤ顔のアガシの目が輝きだした。
「一文字一文字、全ての文字の押し型を作って、それを並べて墨をぬって紙を押し付けるって感じ」
「ほぇ~、そりゃ凄いな!」
「活版印刷のいいところは筆写師みたいな特別な技術が必要ないの」
「そうだな、これなら誰でも本が作れるな、しかし筆写師泣かせだなぁ」
「だからね、活版印刷は筆写師さんにやってもらおうと思ってる。高級な本は今まで通り手で書き写してもらって豪華な装丁で、安い本は印刷機でガッチャンガッチャンってね」
「おう、それなら筆者師も儲かるな」
「どうかな? できそう?」
「あぁ、技術的には何の問題もねぇ、その印刷機ってヤツに小型の蒸気機関を付けりゃ自動印刷も出来そうだな」
「さすが、我らのアガシさん、分かってるね」
「おうよ」
「でね、急ぎでお願いしたいだけど、どれくらいで出来そう?」
「急ぐのかい?」
「料理学校で使う本が必要なの」
「なるほどな、本は高級品だから誰でも買えるもんじゃねぇもんな、分かった急ぎで仕上げよう、今は俺んとこも人数増やしたから半月もあれば出来るだろう、図面宜しくな」
「うんわかった、ヒルダさんとこ行ってくる」
そう言って工房を後にしヒルダのとこへ向かった。
――― ヒルダの工房にて ―――
「かっぱんいんさつ? また面白いもん考えたねぇ」
ヒルダの工房も少し広くなって弟子を雇っていた。
「仕組みを詳しく教えてくれ」
ヒルダのニヤニヤが止まらない。
《前から思ってたけど、職人さんて、ちょっとヲタってるよねww》
「ココがこうなって、ココはこんな感じで……」
「なるほどな、で、こりゃ蒸気機関でも動くようにするんだろ?」
「ヒルダさんすごい! どうして分かったの? アガシのおっちゃんも『蒸気機関付けるんだろ?』って言ったの」
《ヲタさんの考えることは同じなんだ》
「小春の考えることもすこ~し分かるようになったぜ」
「さっすが~」
「図面は2日ありゃ出来る、出来たらアガシのオヤジに持ってきゃ良いんだよな?」
「うん、お願いします」
――― 半月後 ―――
ガッチャンガッチャン
印刷機が動き出した、蒸気機関はまだ取り付けていないので手で回した。
「すごい! 思ってた以上にいい出来だよ!」
小春はサンプルを見て驚いてた。
「だろ? 我ながらいい出来だ」
アガシはフンと鼻を鳴らして自慢気に答えた。
「あんた又腕が上がったんじゃないかい?」
ヒルダも来ていた。
「まぁな、いろいろと良い道具も揃えたからな」
「まったく、小春さまさまだなぁ」
「あぁ、違ぇねぇ」
「これ、一つの文字を100個づつ作れる?」
「そんなに何に使うんだ?」
「本てさ、1ページに同じ文字が何回も出てくるでしょ?」
「お~、確かにそうだな、そこには気が付かなんだ、分かったすぐ作らせる」
「うん、有難う、あとは王宮に行って筆写師に話を通せば大丈夫だね、じゃ、あとお願いしま~す」
そう言って工房を後にした。
「まったく、あの娘は何者なんだろうね」
「まったくだ」
二人は腕を組んで小春の後ろ姿を見ながら言った。
――― 王宮にて ―――
「こんにちは~ 陛下、居ますか?」
最近ではこんな感じで王宮に来ている。
「おう、小春、今日は何じゃ?」
王が自室から出てきた。
「お庭に行きましょ?」
「おーい、茶を持て」
二人は庭で話をした。
「活版印刷とな? どのようなものじゃ?」
「カクカクシカジカでカクカクシカジカなんです」
「ほう、それはまた画期的な技術じゃな、して、これをどうしてもらいたいのじゃ?」
「筆写師さんにお話しを通して頂きたいんです、勝手に始めちゃうと
「ふむふむ、お前も要領がよくなったの、フォッフォッフォッ」
「試作品は出来ておりますので、筆写師の方に実物を見ていただけると話しが早いかも」
「そうじゃな、あとで向かわせるとしよう」
「はい、お願いします」
「のぉ、小春や」
陛下がおねだりするような顔で小春に話した。
「はい? お土産ですか?」
「いいや、お前に頼みがあるんじゃよ」
「陛下が私にですか?」
「うむ」
「な、なんでしょう?」
怪訝な顔して言った。
「そんなに難しいことじゃ無いんじゃがの」
「なんでしょう?」
「儂の事を『陛下』ではなく『おじいちゃん』と呼んでくれんかの?」
「はぁ~?」
小春は目を見開いた。
「息子たちはまだ子がおらんじゃて、儂も孫の顔がはよう見たいんじゃ」
「それで私に孫の代わりになれと」
「そこまで言わん、ただ『おじいちゃん』と呼んでくれるだけでよい」
「しかし、周りの人達はどう思うでしょう?」
「構わん構わん、儂から言い聞かせるよって」
「は、はぁ」
「ほれ呼んでみよ『おじいちゃん』じゃ」
「じゃ、じゃぁ『お祖父様』」
「違う違う、『おじいちゃん』じゃ」
「お、おじいちゃん」
「そうじゃそうじゃ、フォッフォッフォッ」
「本当に良いんですか? 知りませんよ」
「敬語も要らん、気楽に話せ、なんせ儂は『おじいちゃん』じゃからな、フォッフォッフォッ」
「わかったわ、おじいちゃん」
「して、今日は土産はどうした?」
「今日は忙しかったの、今度持ってくるよ、おじいちゃん♪」
「フォッフォッフォッ、『おじいちゃん』はいいもんじゃなぁ、今後は『おじいちゃん』じゃぞ、王命じゃからな、フォッフォッフォッ」
「はいはい、じゃ、又来るねおじいちゃん」
そう言って王宮を後にした。
筆写師に話が通り、順調に印刷が進んでいった。そして教科書の第1号が完成した。
「小春様、こちらを」
筆写師の一人が完成品を差し出した。
「すごいすごい!」
表紙には
「Prima Cooking Academy」
と書いあり、裏表紙に『初版』と書いてある。
《まさか私が書籍出版するなんて夢にも思ってなかったよ~》
「喜んで頂きなによりです」
「そんなに
「いえ、陛下の隠し…… いえお孫さまに気安く話しかけることは出来ません」
「言っときますけど、隠し子じゃありませんからね!」
「失礼しました、内密にという事ですね」
「だから違うって!」
「はっ、この事は墓場まで持っていく所存です」
「もう、隠し子でも何でも良いです! まったくあの爺さんったら」
いつの間にか小春は陛下の隠し子だと言う噂が広まっていた。
それから一ヶ月半ほどして、依頼しておいた本が完成した。
読み書きの基礎、計算、から料理に関する本などなど。
教材は一人あたり8冊になった。
その後、活版印刷は世界に広まり、政治経済へ大きく貢献するのであった。
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