第40話 完成


「本日はお忙しい中、お集まり頂きまして大変有難うございます……」


落成式で小春が挨拶をはじめた。


「それでは、校舎および寮の設計をいたしましたヒルダさんからご挨拶お願いします」


予定に聞かされていなかったヒルダが右往左往している。


「え、え~、なんだ、小春から話しを貰った時は正直びっくりしたよ。とうとうイカれちまった。ってな、しかし見てくれ! この堂々たるたたずまい、これは間違いなくテレス王国の建築歴史に残ると思う!」


会場から拍手が起こった。


「では、続きまして……」


タタキがブンブンと首を振っているが小春は無視して


「この大きな建物を実際にその手で作り上げた大工職人のタタキさん、ご挨拶お願いします。」


タタキの足がプルプルと緊張で震えている。


「ひゃらいま、ご紹介にあじゅかりまひた」


ガッハッハッハッと会場が爆笑


「おーい! タタキ、何言ってるかわからんぞ~!」


会場からヤジが飛ぶ。


「うるせ~! 黙って聞きやがれ!」


ワッハッハッハッ


「え~、これを作ったタタキってもんだ。結構苦労したところもあるが、こりゃ間違いなく俺の、一世一代の代物だ、鉄骨って新しい建築技術も出来た。アガシの野郎のステンレスってのもふんだんに使ってるからな。まぁ、これからもタタキ工務店をよろしく頼むぞ」


「最後は自分の店の宣伝じゃねぇか、ワッハッハッハッ」


通商会議に参加していた諸外国の来賓たちも高層建築物見たさに来ていた。

諸外国の来賓の挨拶が一通り終わると。


「続きまして、今回の建築計画に多大なる支援を下さいました国王陛下よりご挨拶が御座います」


陛下が壇上に上がるとファンファーレが鳴る。


「あ~、コホン、本日はこのような目出度めでたい日を迎えることが出来て儂は非常に満足しておる。みなも知っての通り、ステンレスも蒸気機関も考えたのは小春じゃ。そして今日、王都、いや世界一の高層建築物が出来上がった。これを始めとし王都にも学校を建設していこうと考えておる。今回は料理学校じゃったが、鍛冶、大工、錬金、医術、などこれからのテレス王国を担う職人の育成に王国は力を注ぐことにした。これは平民も貴族も関係なくこの学舎まなびやから逸材が生まれることを期待しておる。挨拶はこの辺にしておこうかの。小春の料理が冷めるよってな、フォッフォッフォッ」


ワッハッハッハッ、会場から笑い声が上がった。



式典には結構な人数が集まった。王家を始め工事に携わった関係者とその家族、はたまた陛下と顔を繋ぎたいお貴族様まで、総勢200人はいただろう。


今日のパーティー料理は前回の王家の晩餐会で提供した出店屋台にした。お祭りにふさわしいからだ。


みんな初めての料理を楽しんでいた。



「シェフよ、完成したな」


「うん、そうだね」


魔王が建物を見上げ感慨深げに言った。


「ここからまた何かが始まりそうな予感がするのは僕だけでしょうか?」


ルディがそう言うと


「始まるに決まってる」


ノーラが答えた。


「そうですね~、まさか学校まで作ってしまうとは」


ゾーイも校舎を眺めている。


「本当ッスよ、シェフは一体何者なんッスか」


シルフィが焼きトウモロコシをバリバリとかじりながら言った。


「普通のの料理人だよ」


「絶対違う!」


一同が声を揃えて否定した。


ワッハッハッハッ、スタッフからも笑い声。



そうして式典は無事に終了した。


この度の建築費用の殆どは王宮が出してくれた。

国家事業扱いにするそうだ。

その代わりに学校運営のノウハウを提供することになった。



――― 料理アカデミーの執務室にて ―――



「はぁ……」


小春が大きくため息をついた。


「心中お察しします」


小春の机に山積みにされた志願書がゆうに1000枚を超えていた。


「採用基準を決めてなかったのは大失敗だったわ」


「そうですねぇ、1000人も面接って大丈夫ですか?」


メリアが心配そうに言った。


「でも、面接は必要だからねぇ、技術はこれから学ぶから関係ないし、家柄とかも重視したくないんだけど、諸外国からの入校は外交上受け入れなきゃだし、山積みだよ~」


「そうですよねぇ、最低限、読み書きは出来て欲しいですもんね」


「そうなんだけどさ、それを言っちゃうと、お貴族様ばかりになってしまうしねぇ」


「読み書きは別に校長が教える必要ないんじゃないですか?」


学校に居る時は小春は校長と呼ばれている。


「むむ~、なにか良い案ないかなぁ~、ねぇメリアはどうやって字を覚えたの?」


「私は、家庭教師が来てくれましたわ、それから家にある本を読んで学びました」


「本かぁ、本って高いんだよね?」


「そうですね、平民の方には高価だと思います」


「じゃ、本を作っちゃおうか?」


「本をですか? 相当お金かかると思いますよ、それにそれを買うだけの財力が無いと学校に入れなくなりますよね?」


「うん、そこはいい考えがあるの」


そう言って小春はニッコリ笑ってみせた。




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