第38話 蒸気機関
アガシの工房に王家の紋章が入った馬車が止まっていた。
「アガシさま、お迎えに上がりました」
王家から御者が迎えに来た。
「お、おう、待たせたな、しかし、こんな汚いなりで乗って良いのかい?」
「問題ございません」
綺麗にコテ(昔のアイロン)があてられた服を着た
「お前さんが良いなら構わんが」
そう言ってアガシは馬車に乗り込んだ。
王宮の車寄せに馬車が止まり、王宮内に通された。
王宮の一番奥に連れて行かれ鉄の扉を開くと地下への階段が続いていた。
螺旋階段をしばらく降りていくと鉄の扉がもう一つ、扉を開けると更に下へ階段が続いていた。また暫くして今度が大きな扉が見えてきた。
「随分深い所に作ったもんだな」
アガシは階段を降りながら石壁をペタペタと叩きながら言った。
「わたくしは、国家機密とだけ伺っております」
そう言って、大きな扉を開けた。
「お~! こりゃスゴイな」
広さはアガシの工房の4倍ほどあり、天井は10メートルほどの高さがある。丁度ビルの1階と2階を吹き抜けにした高さだ。
「こちらに簡単な寝室が御座います。食事は扉の外のテーブルまでお運び致します」
「至れり尽くせりだな」
「奥に手洗いと湯殿が御座います」
「風呂まであるのかぃ? こりゃスゴイ! 陛下に礼を言わなきゃだな」
「はい、案内が終わったら陛下のもとへ案内するよう言われておりますので、ただいま着替えをお持ちいたします」
「何から何まですまんね」
そう言って、アガシ付きの執事が下がっていった。
「あとは、ノーラちゃんを呼んで窯に火を入れるだけだな、しかし、蒸気機関がココから生まれると思うと武者震いがするってもんだ」
しばらくして執事が着替えを持ってきた。
アガシが着替え終わると
「では、謁見の間へ向かいましょう」
「緊張するなぁ」
着慣れない服を擦りながら歩いていった。
「失礼します、アガシ様をお連れいたしました」
「うむ、入れ」
陛下の前に跪き
「この度は大変素晴らしい工房を用意して頂き誠に恐悦至極に御座います」
「うむ、儂の部屋で話そうかの」
そう言って王の部屋に向かった。
「どうじゃ、工房は気に入ったか?」
「はい、大陸中探してもここを超える工房はないでしょう」
「ホッホッ、そうかそうか、アレは国家規模の発明になるからのぉ」
「はい、それから、後日ノーラを呼びたいのですが」
「うむ、問題ない、その時に結界も頼むとしよう」
「有難うございます」
「して、小春がまた何やら面白いものを作ろうとしているようじゃな」
陛下はニコニコと微笑んでいる、小春の話を聞きたいのだろう。
「はい、私も聞いた時は耳を疑いましたよ、8階建ての建物を建てると言っております」
「フォッフォッフォッ、小春らしいのぉ~、アヤツは見ていて全く飽きん」
「仰る通りです、なんでも料理学校とその寮を建てると言っておりましたな」
「ようやくやる気になってくれたか、フォッフォッフォッ、儂の方もいろいろと支援してやろうかのぉ」
「陛下の秘蔵っ子ですもんね」
二人の老人が目を細め恵比寿様のような笑顔をした。
「して、アガシよ蒸気機関はどれほどで出来そうじゃ?」
「構造は難しくないので、週に3日、ここに来て作るとして、そうですな~、小型の試作品なら10日前後くらい頂けりゃイケます、それから強度やら大きさやら、色々と試行錯誤することになると思います。」
「ふむ、ここに寝泊まりして専念することは難しいかの?」
「そうしたいのですが、弟子たちの仕事も見てやらんといかんのです、小春の注文も受けてますし」
「なるほど、それならしかたあるまい、無理を言っては小春に叱られてしまうわ、フォッフォッフォッ」
それから10日後、蒸気機関の小型模型が完成した、
さすがアガシだ、一発で可動品を作り上げた。
「ほぉ~~~ コレはまた凄いのぉ~~ ここが湯気で押し出されて動いておるのか?」
「はい、実用化するには室外で実験する必要があるでしょう、作る段階で気がついたのですが、失敗すると大爆発を起こしますので、流石に室内じゃ厳しいですな」
「そんなにか?」
「はい、もう少し大きな模型を作ってみてから実際の試作品を作ってみようとおもいます」
「うむ、たのんだぞ」
「はい」
ひと月後、宮廷の裏庭に15mほどの高い壁が作られ、その周りを近衛兵に厳重に警備させた秘密の実験施設があった。
シュッシュッシュッシュ!
ドラム缶を3つ程つなげた大きさの蒸気機関が動いていた。
「これが、第1号機かの?」
「はい、今、半日ほど連続稼働させております」
「ふむ、他にはどのような試験をするのじゃ?」
「耐久試験の次は負荷を掛けてみます、重いものを持ち上げたり、鉄の塊を引いてみたりですね」
「ふむふむ、利用価値は無限じゃのぉ」
「小春が言ってた通り、こりゃ産業革命が起きますな。なんでも、馬の代わりにしたり、鉄の
「フォッフォッフォッ、楽しみじゃ、して最初の蒸気機関は何に使うつもりかの?」
「やはり、馬車に付けてみたいですな」
「うむ、よかろう、お主が思うように作ってみるがよい」
「有難うございます」
陛下は暫く色んな角度から眺めアガシに細かに説明させていた。
その顔は、まるで少年のようだった。
――― グラン・プリマにて ―――
「おーい! 小春ちゃん居るかい?」
「あ、アガシさん、どうしたの?」
「丁度良かった、お前さんに相談があるんじゃ『蒸気機関』についてだ」
アガシは小声で言った。
「じゃ、私の部屋に行きましょ」
二人は小春の部屋に行った
「お茶持ってきますね」
「ああ、すまねぇ」
お茶を飲みながら
「相談というのはな、蒸気の圧が上がると圧が逃げる、と言うか
「なるほど~」
小春はしばらく考えて
「バルフは何で作ったの?」
「鉄じゃ、少し厚めにして鉄で作った」
「多分だけど、鉄って熱で膨張したり縮んだりするじゃない?」
「あぁ、そうだな」
「その関係で歪みが出てるんじゃないかな?」
「続けてくれ」
テーブルに肘を付いて前に乗り出した。
「なので、熱で伸縮しにくいものにしたら良いじゃないかなぁ、
「ああ、調度品の飾りとかに使ってる磨けば光る金色のヤツじゃろ?」
「そうそれ、たしか真鍮って伸縮しにくかったと思うからバルブを真鍮製にしたらどうだろ?」
「真鍮か、試したことなかったな、あとで試してみるとしよう」
「いきなりバルブにするんじゃなくて、炉とかで伸縮の度合いとか調べてからのほうがいいと思うよ」
「そうだな、そうしてみる、しかしお前さん物知りだなぁ、俺んとこで働いてくれや、ハッハッハッハッ」
そう言ってアガシは帰っていった。
それから2ヶ月後、『蒸気馬車』第1号が完成した、耐久テストも負荷テストも終わり、ノーラの封印もしてある。
王都の街を王家の紋様が入った蒸気馬車がシュッシュッシュッシュと音をたてて走った。
「アガシよ、
陛下はご満悦だ。
「陛下、小春から書状を預かっております」
「ん? 小春からじゃと?」
「はい、こちらです」
「なになに、『陛下、蒸気機関ができたら王都を巡回する乗り合い馬車を作ってみたらどうでしょう? 馬は使わないのに『馬車』と呼ぶのも変な気がきがしますが、蒸気機関は非常に力が強いので2~30人ほど乗せても十分に動きます。王都を乗り合い馬車が走ると、民の生活も豊かになるし、他国へ技術力の高さを顕示できるのでは無いでしょうか? ご一考下さい』
ふむふむ、さすがは小春じゃな、蒸気機関一つで国内外の事も考えておったか、フォッフォッフォッ」
「小春ちゃんらしいですな、ハッハッハッ」
「というわけじゃ、アガシや頼んだぞ」
「はい、承りました」
アガシは右腕の力こぶを陛下に見せた。
暫くして王都には無料の巡回蒸気馬車が走るようになり市民の足となった。馬と違って雨の日も暑い日も走るので市民達は非常に喜んだ。
蒸気機関には内と外に対魔法対物結界が施してあり事故による外部からの衝撃、蒸気の暴走による内部からの爆発が起きても危害が出ない。車内は一定温度に保たれており快適な仕組みになっていた。
こうしてこの世界に『第一次産業革命』が起こった。
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