第36話 王宮晩餐会
「お待たせして申し訳ありません」
小春は少し息を切らしながら王宮の庭園にある大きなガゼボにやってきた。
「なーに、構わんよ、まぁ座りなさい」
王はそういって席を指した。
「ほれ、茶を飲んで一息いれなさい」
「有難うございます」
執事が小春にお茶を出した。
「あれ? 陛下、このお茶は?」
日本の緑茶によく似た味のする茶だった。
「うむ、リーアンの
「美味しいですね、何という名前ですか?」
「おぃ、名前は何と言ったかの?」
執事に問いかけた。
「はい、『
「素敵な名前ですね、私の国にも似たお茶がございました」
「ほう、小春の国の茶か、飲んでみたいものじゃ」
「そうですね、出来ることなら」
小春は目を細め遠くを見た。
「いやいや、すまん、ちと
「大丈夫ですよ、あ、そうだ今日はどんなお話しでしょうか?」
「おう、そうじゃったな、今日は晩餐の依頼じゃ」
「晩餐ですか」
「何じゃ、不満か?」
「いえ、国賓のパーティーって気を使うんですよ。胃が痛くなります。宮廷料理人さんたちじゃダメなんですか?」
「つれない事を申すな。みな小春の料理を食べたいと申しておるのじゃて」
「それは嬉しいんですけどねぇ……」
「それで、料理の相談なんじゃが、今まではコース料理と申したかの? 順番に料理が出てくるヤツじゃ」
「はい、コース料理です」
「今回はアレではなく、何か他に変わったものは無いかの?」
「と、申されますと?」
「今回は晩餐会と言っても、殆どが身内じゃ。舞踏も少しやる予定じゃ。簡単に食べれて、腹にたまる、
「陛下、最近、無理難題が多いですよ」
「良いではないか、歳を取ると食べるのが楽しみじゃて」
「で、人数はどれくらいですか?」
「まぁ多くても30人くらいじゃろ」
「なるほど、殆どが王家の親族ということですよね?」
《ホームパーティーみたいなのが良さそうね》
「うむ、何か思いついたか?」
「まぁ、いくつかありますが」
「ほう、申してみよ」
「一つ目は部屋の壁に沿って料理を並べ、各々が手にとって食べる立食形式。料理の内容は私の国の料理をご用意します」
「他には?」
「もう一つは、部屋の中に屋台を作ります。庶民が屋台で食べてる料理を、室内に小さな屋台を5~6軒出して、目の前で調理するのはどうでしょう? 料理は私の国の料理を出しますので市場の料理とは異なります」
「それは楽しそうじゃなぁ」
「晩餐会はいつの予定ですか?」
「日取りは特に決めておらん、久しぶりに親族で集まっての顔見せじゃ」
「なるほど、それならば形式に
「うむ、屋台はどれ位で出来るのじゃ?」
「そうですね~、5~6軒なら半月くらいだと思います」
「そうか、ならば準備が出来たら、連絡してくれ」
「分かりました」
「して、土産は何処じゃ?」
「今日はありませんよ、陛下はおカネ払わないから持ってきてません」
「手土産でカネを取るヤツがおるか、フォッフォッフォッ」
「冗談ですよ、今日はちょとバタバタしてたから、また今度持ってきますね♪」
そう言って小春は王宮を後にした。
――――――プリマ1号店にて――――――
「皆さん注目~ こっち集まって~」
1号店と2号店のスタッフを集めた
「え~、この度、陛下より晩餐会の依頼がありました」
オォォォオオ~
とスタッフから声が漏れる。
「そこで、私と一緒に王宮に行ってもらう人居ませんか~?」
「ハイハイハイハイ!」
「ハ~~~イ!」
「私!私! ハーイ!」
《小学二年生かよ》
「人員枠は12名です、今回は残念ながら調理スタッフのみです」
「ハイハイハイハイ!」
「ハ~~~イ!」
「はい、静かにしてね、公平を期すためにジャンケンで決めようと思います」
「シェフ、じゃんけんって何ですか?」
「え? ジャンケン知らないの? ルディも?」
ルディも頷く。
「便利で楽しいから覚えておいてね」
小春がルールを説明する。
「ほ~~! さすがシェフだ」
「私が考えたんじゃないからね。では皆さん二人一組になってジャンケンして下さい」
「じゃ~んけ~んポン!」
喜びと失意の声があちこちで上がる。
「はーい、じゃ、勝った人同士でジャンケンして、12人になるまでやってね~」
「やった! 勝った~~!」
喜ぶ者。
「うゎ~~、負けた~~」
悲しむ者。
「勝った人、おめでとう! 負けた人はまた次の機会にね、では料理を説明しますね」
―――――― 晩餐会の屋台メニュー ――――――
一軒目 焼きそば、お好み焼き、たこ焼き
二軒目 フライドチキン、フライドポテト、アメリカンドッグ
三件目 ハンバーガー、ホットドッグ、焼きトウモロコシ
四件目 かき氷、ソフトクリーム
五件目 綿あめ、りんご飴
六軒目 ラーメン、うどん
ドリンクスタンド
「以上です、後ほど料理を作って説明しますが、専用の器具が必要なものもありますので、それらは器具が完成してからにします」
「おぉぉ~?」
歓声が疑問形に変化した、無理もない、全てが初めて聞く料理ばかりだ。
小春は一通り料理を作ってからタタキとアガシのもとへ向かった。
「アガシさん居る~? あら、ノーラも居たのね」
「おぅ小春ちゃんいらっしゃい、今日はどうした?」
「お仕事頼みに来たの」
「小春ちゃんの仕事は何でも受けるぞぃ、また面白い注文だろ?」
「そうなの、アガシさんしか出来ない仕事だよ」
「ほう、聞かせてくれ」
「ノーラも一緒に聞いてくれる? ノーラの力も必要になると思う」
「ん、手伝う」
小春は、たこ焼き器や綿あめの機械など、必要なものを注文した。
「こいつらは一つづつでいいんだろ?」
「ん~、とりあえず一つづつおねがい、出来たら連絡おねがいね」
「おう! 任せとけ」
「じゃ、わたしタタキさんとこ行ってくるね」
小春は鍛冶屋を後にしてスキップしながらタタキの工房に向かった。
「タタキさん居る~?」
「おう、どうした?」
「お仕事持ってきたよ~」
小春は屋台の説明をした。
「ほうほう、そりゃ面白そうだな」
「どれくらいでできそう?」
「まぁ2~3日ってところだな」
「うん、わかった、また連絡おねがい~」
「あいよ~」
―――― 半月後、宮廷にて ――――
会場には、すでに香ばしい匂いが漂っている。
換気はノーラの風魔法。
お皿は王宮に用意してもらった。
チンチンチン
王がグラスを鳴らした。
「皆のもの、今日集まってもらったことに感謝する、今日は堅苦しいのは抜きじゃ。小春が珍しい料理を用意してくれてるので楽しんでくれ」
陛下の挨拶が終わるやいなや、全員が屋台に詰め寄った。
「これは何ですの?」
「これはどうやって頂くのかしら?」
全員、物珍しそうに質問している。
「私はこの綿あめを頂こうかしら」
「私は、たこ焼きというのをお願いしますわ」
会場の中央は踊るスペースがあり、その周りに椅子が並べてある。
椅子の横には小さな丸いテーブルが置かれている。
「父上はどれになさいますか? どれも見たことない料理ばかりですね」
王子らしき人物が陛下をつれて小春のもとへやってきた。
「う~む、小春には毎回、驚かされるの~ 儂はこの、アメリカ~ンドッグを一つ貰おうかの」
小春が『アメリカ~~ン』に吹き出しそうになる。
「はい分かりました、ドッグ一つお願いしま~す」
「小春は初めてじゃったな、儂の次男坊じゃ」
「テレス王国、第二王子のファーラン・フォン・テレスです」
きめが細かい白い肌で細身、身長は180cmくらいだろうか、目元が陛下によく似ていた。
王子の上品な貴族の挨拶だった。
「えっと、小春ですコハル・ヒナタと申します、プリマのオーナーシェフです」
「本日の趣向は素晴らしいですね! このような晩餐は初めてです」
「気に入って頂けたようで嬉しいです」
「小春殿はいつもはどちらに?」
「基本的にはグラン・プリマに居ますが、あちこち走り回っています」
「それは大変ですね、お邪魔でなければ今度伺っても?」
「勿論です、殿下に来て頂けたら皆んな喜ぶと思います。特に女性スタッフが」
2人はしばらく歓談した。
スタッフは古参新人がそれぞれの屋台に二人一組で調理している。
ジューススタンドは勿論、あの子ども達で服も新調した。
「陛下、それは?」
王族の一人が陛下の料理に興味をもった。
「あめりか~んどっぐじゃ、美味いぞ、お前も食べてみるがよい」
「陛下、このフラ~イドチ~キンも美味しいですぞ」
《ちょ、アクセントww》
「プハハハッ」
小春は我慢できず吹き出した。
来賓のみんながニコニコと頬張っている。
《平民も貴族も王族も悪党も善人も皆んな美味しい料理の前では平等だよね》
「ねぇ、このラーメンというのはどのように食べるのかしら?」
今回のラーメンは醤油や豚骨、味噌が無いので塩ラーメンを用意した。
うどんは濃いめのチキンブイヨンスープ
「ホフホフホフ、ほのはほやひはあふいでふね」
「たこ焼きは熱いので注意してくださいね」
「陛下! それはご自分のヒゲでは? アッハッハッ」
綿あめを食べている陛下のヒゲはベトベトで綿あめとヒゲが一緒になっていた。
「この、頭にキーンと来るのは何でしょう?」
かき氷とソフトクリームを食べているご婦人二人。
「えっと、それは急いで食べると妖精が
「あら、わたくしったら、はしたなかったかしら ホホホ」
《あ~ 嬉しいなぁ~ 料理で笑顔になってもらえるのって最高だよ》
一通り食事が終わると、来賓たちは踊りだした。
ジューススタンドの子たちも隅で踊っている。
陛下が小春を手招きしている。
《え? 私に踊れってこと? 無理無理踊ったことなんてないし!》
しつこく手招きする陛下。
《しかたない、諦めよう》
小春がホールに出ようとするとファーラン王子が小春のもとへやってきた。
「一曲、踊って頂けませんか?」
「えっと、あの、よ、喜んで」
王子のリードで身体を揺らす小春。
腰に回した腕が触れ一瞬ドキっとする小春。
《ヤバイ!緊張する~》
「大丈夫ですよ、私に合わせて」
王子がそう言ってクルっと回った。
慌ててそれに合わせる小春。
そして曲が終わった。
「あ、あ、有難うざいました」
《男の人とあんなにくっついたの初めてだよ》
「シェフ、素敵でしたよ」
「もう、からかわないでよ」
そう言った小春の頬が赤くなっていた。
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