第33話 2号店

2号店の建設の話しはスムーズに進んだ。

土地もすぐに見つかり厨房設備や内装も1号店と同じような配置と内装デザインなので滞りなくすすんだ。


そして開店前日。


「スタッフの皆さん集まって下さい」


ガヤガヤしていた店内スタッフが小春のところに集合した。


「明日は、いよいよ2号店のオープンです。1号店とグラン・プリマからヘルプにスタッフも来ます。今回は新しくスタッフも採用しました。1号店からこちらに配属になったスタッフは新人のサポートを全力で行って下さい。ヘルプで来たスタッフはあくまでもサポートです、メインに動くのは2号店の新スタッフですので皆さん勘違いしないようにお願いしますね。

では、料理長から挨拶を。」


「コホン、シェフより2号店の料理長の任を授かったマー君だ。我の部下も新人として入っておる。不束者だがよろしくしてやってくれ。それから、シェフより次の言葉を頂いた。皆のもの心して聞くがよい『マー君、2号店は非常に重要なお店なの、これから3号店、4号店と展開していくと思うから、2号店はそのお手本になってほしいと思ってるの、マー君の両肩にはスタッフとその家族の生活がかかってることを忘れないでね。大好きだよ、マー君♡』以上だ」


「ウォ~~!」


と歓声が上がった、主に魔族スタッフからの歓声が凄かった。



「マー君!最後の『大好きだよ、マー君♡』って何よ! 見習いからやり直したいのかな?」


ハハハッ


と笑い声が上がる。


「これから、真面目な話をする」


そう言って、魔王は真剣な顔をした


「我が任された2号店において、争いは禁じる。争う者には容赦は一切せん、本気で制裁を加える、ゆめゆめ忘れるな」


張り詰めた空気に一同、生唾を飲んだ。


「マー君! 怖がらせてどうするの!」


「あぁ、すまぬ、皆のもの、我が言いたいことは、魔族も人族も同じ目的で働くから仲良くしようぞ、という事だ」


ハハハハッ


と笑いに包まれた。


「しかし、我が料理長とはな、魔王城に居るときには考えもしなかったぞ」


「マー君が頑張ったからだよ。でもこれからだよ、オープンで完了じゃないからね、オープンがスタートだからね」


「うむ、じゅうぶん心得ておる。2号店は我の命に代えても守る」


「いいえ、命より大切なものはないの」


「シェフ、お前は優しいな、我の嫁にならぬか?」


パシッっと魔王の頭をはたいた。


「でも、ほんとにお願いね、2号店の成功には色んな意味があるからね」


「うむ、それは我も分かっておる、任せておれ」



そして、2号店がオープンした。

小春もヘルプと来客への挨拶でしばらく2号店にいた。


「小春ちゃん、2号店おめでとう!」


「いらっしゃいませ、みんな、ゆっくりしていってね」


職人街や市場のみんながやってきた。


「マー君さん、おめでとう♡」


どこぞのマダムたちが花束をもってお祝いにきた。


「だれ?あの人達」


小春がルディにたずねる。


「あれマー君のファンクラブですよ」


「へぇ~、喋らなきゃナイスなダンディだもんね。」


アガシは厨房で機器類の使い勝手をノーラと一緒に見ている。

タタキとヒルダは内装や調度品を眺め自画自賛している。

服屋の女将も制服姿のスタッフを眺めている。


「小春、開店おめでとう~」


メリアを始め、カルミア家一行が来店。


「金庫はどうだい?」


男爵は金庫の心配をしている。


「ハハッ、まだ空っぽですよww」


「あなたったら、もう」



「小春お姉ちゃん、来たよ~」


「へぇ~2号店もいい作りだ、今日も勉強させてもらうよ」


ミラとダンと噴水亭のスタッフ。



「国王陛下の御成ぃ~~」


「やめんか!」


陛下がやってきた。


「ようこそ陛下、いらっしゃいませ」


「うむ、息災そうじゃな小春」


「はい、お陰様で」


「お~、ジル爺ではないか、よく来たな待っておったぞ」


「まさかマー君が料理長になるとは思いもせんじゃったな、フォッフォッフォッ」


「あ、陛下、あとでお話しよろしいですか?」


小春が小声で伝えた。


「うむ、構わん」



2号店のメニューは1号店と同じだが曜日によって出す品目は違う、例えば1号店がハンバーグの日は2号店ではコロッケというふうにずらしている。そうすることによって週に2回ハンバーグが食べれるようになる。

王都でのハンバーグ人気は異常なほどで、ハンバーグの日の行列は凄まじいものだった。


陛下の食事が終わる頃、小春は煎り豆茶を持っていった。


「お口に合いましたでしょうか?」


「うむ、美味かったぞ」


「それはよかった、食後のお茶をどうぞ」


「うむ、話しがあると申しておったの」


「はい」


そう言って、陛下の付き人を見た。


「おぃ、しばし下がっておれ」


人払いをしてもらった。


「お前が、人目を気にするとは、よほどのものか?」


「はい、陛下、今から話すことは大変な内容で御座います。」


「うむ、わかった申してみよ」


「陛下、『蒸気機関』という言葉は聞いたことございますか?」


「『じょうきんきんかん』とな? 聞いたこと無いな」


「蒸気機関とは火と水で動力を作り出す装置で御座います」


「ふむ、それのどこが大変なのじゃ?」


小春は大まかな仕組みを説明した。


「ほう、これはすごい発明じゃな。お前の故郷では既にこれが実用化されておるのじゃな?」


「はい、私がいた国では蒸気機関は廃れ、次の動力が使われております」


「ふむ、して問題とは?」


「蒸気機関は戦争を大きく変えてしまいます」


「!」


「はい、物資や兵の輸送が今の10倍いえ、もしかしたら100倍も容易になるでしょう、それの意味することは陛下ならお解り頂けるかと……」


「うむ、もはや戦争ではなく『大量虐殺』と言うことじゃな」


「はい、そのとおりです、正しく使えば王国はものすごい発展をします、恐らく文明が一気に100年分進むでしょう。」


「して、この話を知るものは?」


「私と陛下、二人だけです、懇意している鍛冶師にも店のスタッフにも話しておりません」


「それは、よかった、しかしこの件は誰に相談すべきとおもう?」


「なにぶん、こちらでは未知の技術ですので、職人などと相談するのがよいかと思いますが、宮廷お抱えの鍛冶師などはいらっしゃいますか?」


「いや、宮廷仕えの鍛冶師は逆に信用できん。先のステンレスの件などで間諜の動きが活発になっておるようじゃ。ステンレスを作った鍛冶屋はどうじゃ?」


「はい、信用に関しては問題ないと思いますが、弟子たちの中に他国のものがいないかどうかは分かりかねます。只今、こちらに来ておりますがお呼びいたしますか?」


「うむ、そうしてくれ」


そう言って、アガシとノーラを呼んだ。


「陛下、こちらが鍛冶職人のアガシです」


「へ、陛下、はじめましてアガシの鍛冶屋でずる~す、あ、鍛冶屋のアガシです」


《ずる~す、ってw》


「こちらは私のもとで働いておりますノーラです。彼女はステンレスの発明に大きく関わっております」


「ん、ノーラ、です」


「うむ、二人とも楽にせい、して、小春、先程の件を話してくれ」


「はい」



そう言って、小春は蒸気機関の説明を始めた。アガシの顔がみるみる紅潮していった。


「小春ちゃん! これはとんでもない代物だぞ!」


「小春、すごすぎる」


「うむ、もう、二人とも気づいたとは思うが、蒸気機関の発明はこの世界にとてつもない衝撃を与える。産業はもとより、武器、兵器、いや戦争そのものが大きく変わる。問題は、コレをどうするかじゃが、なにか良い案はないか?」


「他国に技術が漏れないか? ですね、しかし……」


アガシはそう言ってしかめた。


「これが出来るとみんな幸せになれる、使い方間違えなければイイ」


「そうなんだけどね、王国がそれを守ったとしても他国が兵器に転用しないとは限らないでしょ?」


小春はノーラをさとした。


「魔法で秘密出来る」


「ん? どういう事ノーラ」


「分解できないように結界貼れば大丈夫」


「結界、とな?」


「ノーラが言う結界ってどんなの?」


「結界ないと分解されて技術が盗まれる、結界貼ってるのを無理に分解すると粉になる魔法ある」


「ほぉ~、それは初めて聞く結界じゃな、そなた魔族じゃったな」


「はい、魔王の姪ですね」


「その結界はお主だけが使えるのか?」


「ノーラと、おじじの二人だけ」


「あ、おじじってのは魔王の事です」


「ふむ」


「あの、陛下、試作品を作って結界をテストするのはどうでしょう?」


アガシは早く作りたくてたまらない様子。


「うむ、試作はまだ待て、そなたの工房では情報が漏れる恐れがあるじゃて、王宮内にそなたの専用鍛冶工房をつくるゆえ、蒸気機関の研究はそこでしてもらう事になるじゃろう」


「なんと! 勿体ない」


「国家機密じゃ、それくらいは当たり前じゃ」


「ねぇ、ノーラ、その工房に限られた人しか出入りできないようにすること出来る?」


「ん、問題ない」


「アガシと言ったかの、いつから動けそうじゃ?」


「え~、今抱えてる仕事を下のモンに引き継ぎ次第ですので、3日、いや2日で大丈夫です」


「うむ、ではそなたら立ち会いで工房を作らせよう。この事はくれぐれも他言せぬよう。また、人に聞かれても怪しまれぬよう話を合わせておくがよい」


「はい、陛下」


しばらく陛下を含む4人は茶を飲みながら蒸気機関の使いみちや発展する産業などを話した。


「先の件、宜しく頼んだぞ」


そう念を押すと陛下は帰っていった。




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