第32話 相談

日曜日の昼頃ルディが小春のもとへ来た。


「こんにちは~」


「あら、ルディ、上がって」


「はい、ゾーイとシルフィは?」


「二人は出かけたわよ、市場に材料見に行くって」


「そうですか」


「今日はどうしたの?」


「はい、いろいろと小春シェフに相談があって来ました」


「ふむふむ、ちょっとまってお茶とノート持ってくる」


「あ、お茶は僕が入れます」




「で、相談ってなに? 深刻なヤツ?」


「至急ではないんですが、いくつかありまして」


「きかせて」


「1つ目はプリマの現状なんですが」


「うん」


「現在、というよりオープン当初からなんですが、ずっと満席が続いていることは小春シェフもご存知だと思います」


「うんうん、有り難いよね」


「そうなんですが、現在、ランチのお客様の殆どが優先券客なんです。優先券を持っていても入れないことも多々あります」


「ん~、それはマズイわね、何のための優先券なのかわかんないよね」


「そうなんです」


「いつ頃からなの?」


「ここ三ヶ月ほどでしょうか?」


「三ヶ月も? もっと早く連絡してほしかったな。いえ、私の責任だね、ルディに任せっきりにしてプリマに行く回数へってたもんね、ゴメンナサイ」


「いえ、私にも責任があります。そこで相談なんですが、現在のプリマのスタッフのスキルですが、かなり高いものになっています。そこで2号店はどうかと思いまして……」


「うん、私も考えてたんだけど、プリマがそんな現状になってるなんて知らなかったよ、早急に手を打たないとだね。お店も一日二日で出来るもんじゃないもんね」


「そうですね、それで今度、シェフにプリマのスタッフのスキルを確認して頂きたいんです。シェフに来て頂くだけでも皆んなテンション上がりますから」


「うん、わかった、明日にでも行くね」


「有難うございます」


「他には?」


「はい、マー君についてですが」


「あいつ何かやらかしたの?」


「いえ、その逆なんです、先日マー君の側近がきてマー君を連れて帰るべく説得したんです」


「うんうん」


「それで、魔王国の国民を説得できたら継続して働いていいといったら、あっさり説得して帰ってきたんです」


「なるほど、それのどこが問題なの?」


「あ、コレ自体は問題じゃないんですが、マー君ですね、今、教会の裏の小屋に住んでるんです」


「小屋? てか教会?」


「はい、『寝られればイイ』とかいって」


「教会には迷惑かけてないんだよね?」


「はい、毎週の日曜礼拝で料理を振る舞ってるそうです」


「すごいね! ノーラの時もそうだったけど、マー君が慈善活動してるなんて驚きだわ」


「なんか『一日でも包丁を握らないと腕が鈍る』とか言ってました。それでマー君を寮に入れられないかと思いまして……」


「うん、問題ないんじゃない? いままでの働きで皆んなの信用もあるだろうしね」


「小春シェフならそう言って頂けると思いました」


「では、2号店の件ですが検討おねがいします」


「うん、わかった、あれ? 今日はノーラは一緒じゃなかったんだね」


「アイツ、最近、アガシさんの所に入り浸りなんですよ、なんでも新しい『何か』を作りたいそうです。」


「新しい『何か』って、なんか哲学的な響きね。何作ってんのかしら、楽しみね」


「そうなんです、アイツ夢中になるとそれしか見えませんからね」


「それって、『ルディに夢中だからルディしか見えてない』的なこと?」


「もう、なに言ってるんですか」


ルディが照れて耳まで赤い。


「あとで、アガシさんとこ行ってみる、ノーラの顔も見たいしね」


「そうしてやって下さい、アイツも喜びます」


それから二人はメニューのことや食材の話をしてルディは帰っていった。





――――――アガシの工房にて――――――


「こんにちは~」


「おう、小春ちゃん、ノーラが来てるぞ」


「うん、ルディに聞いたから来てみたの」


「小春、久しぶり」


「久しぶりだねノーラ」


ノーラの額から汗が吹き出ていた。


「どうしたの? そんなに汗かいて」


「ん、『何か』作ってる、難しい」


「何かって何?」


「いやぁ、ここんとこ仕事が忙しくてな、まぁステンレス関係なんだがな、忙しいのは有り難いんだが、肩をやっちまってな」


「怪我したの?」


「怪我ってわけじゃねぇんだが、ステンレスは硬いんだよ、で、肩が上がらなくなっちまった。そこでノーラちゃんに『何か良い案ないか?』って相談してたとこだ」


「なるほどねぇ、でノーラは何か思いついたの?」


「まだ、軽いトンカチは力が弱い、風魔法だと鉄が冷える、難しい」


《つまり、自動でトンカチが動けば良いわけか、方法はあるけどアレやっちゃうと本当の産業革命起きちゃうからなぁ》


「方法はあるんだけど、それやっちゃうと、この世界が大変なことになるんだよね」


「なんだ? 何か知ってるのか?」


「小春、知ってるなら教える、今すぐ教える」


「いや、コレは本当にヤバイやつだから、いろいろと陛下とかと相談しなきゃいけないレベルなの」


「なんだそりゃ、恐ろしいな」


「うん、恐ろしいのよ、それくらい世界に衝撃を与えるの、今度、相談に行ってみるからそれまで待っててね」


「小春、ずるい、ノーラも行く」


「あ、そうだね、アガシさんも一緒に行きましょう」


「はぁ? 陛下に会うってことだろ?」


「そうだよ、いいじゃん、お弟子さんに土産話もできるし工房にも箔が付くよ」


「お前さんがそう言うなら仕方ないな」


アガシは嬉しそうに痛くない方の肩を回した。

ステンレスの件以降、「錆知らずのアガシ」という二つ名がついたアガシ、意外とミーハーだった。




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