第28話 災難
グラン・プリマの営業もひと月が過ぎ、スタッフも慣れてきて落ち着いてきた、
スタッフも追加で採用し、寮には現在ゾーイ、シルフィの他に八人が住んでいる、寮生たちはモチベーションが高く、朝食は自分たちで材料をもちより、創作料理を研究している。
小春の睡眠時間も以前より少し長く取れるようになった。
そんなある日の夜、事件が起きた。
それは小春が夜中に喉が渇きキッチンの冷たい水を飲むために一階へ降りていくときだった。
ガチャガチャ、ガチャン
《あの子達、こんな時間まで研究してるのからしら》
「あなたたち、勉強もいい加減にして早く寝なさい」
返事がない
「まったく、どれだけ集中してるのよ」
「早く寝なさ・・・」
「動くな!」
小春は後ろから羽交い締めにされ、口を押さえられた。
血の気が引いた、日本では普通に生きていたらこんな目に会うことはまず無い。
こわばった顔で、小春はゆっくりと両手を上げた。震えが止まらない。
「カネは何処にある、案内しろ!」
男たちは小春の脇腹にナイフを当てて歩かせた。
《こんな時にマー君がいてくれたら・・》
小春は真っ暗な通路を涙を浮かべガクガク震える足で自室の金庫へ歩いた、かすかに漏れる部屋の明かりが見えてきた。
小春の金庫はクローゼットの中、それとは別に手提げ金庫が机の引き出しに入っている、部屋のドアを開ける時にドアが軋む音がした。
「おぃ、静かに開けろ!」
男はナイフを刺した、激しい痛みが走った
《あぁ、私殺されるかも・・ まだやりたいことあったのになぁ・・》
男たちは小春の部屋へ入ってゆっくりドアを閉めると小春の口から手を離した。
「声をあげるなよ、殺すからな」
小春の脇腹から血がボタボタと落ちていた。
「はい、わかってます、おカネはあげますから早く出ていって下さい。」
そう言って、手提げ金庫を指差した、中には800万Gほど入っていたはずだ。
「重いな、ほかにもあるだろ! 早く出せ!」
小春はクローゼットを開けた、棚にしまっておいた花瓶が落ちた。
パリーン!
大きな音がした。
寮の部屋のドアが開く音がした。
《だめ! 今ここに来たらだめ!》
「シェフ大丈夫ですか? 大きな音がしましたけど」
ゾーイだ。
「今の音なにッスか?」
シルフィも起きてきた。
《お願いだから来ないで!》
「う、うん、大丈夫よ、ちょっと花瓶落としちゃっただけ、ごめんね大きな音をたてて、部屋に戻って。」
「じゃ、私ほうきと塵取り持って来るッス」
ふぁ~ とあくびしながらシルフィが一階に降りていった。
「あ! 本当に大丈夫だから、安心して、もう部屋にもどって、わかった?」
「あ、はい」
下からシルフィが階段を上がる音がしている。
「シルフィ! ほんとうに大丈夫だから、もう寝なさい」
強い口調で言った。
「そうッスか? 分かったッス」
ドカドカ、バタン、ドカン!
それは一瞬の出来事だった、ドアからゾーイとシルフィが飛び込むと同時に、盗賊3人を倒した。
「シェフ! 大丈夫ですか! 怪我はありませんか?」
そう言ってゾーイが小春を抱き上げた。
「血が! シェフ血が!」
ゾーイは小春の脇腹が真っ赤になっているのに気がついた。
「大丈夫、大丈夫、ちょっと刺さっただけだと思う」
「見せて下さい!」
そういって小春のパジャマをたくし上げた。
《ちょっ、今ブラしてない》
ブルブル震えながらそんな事を考えていた。
「あぁ、よかったです、血が出てるからびっくりしました」
シルフィは手際よく縄で3人を縛り上げた
「衛兵、呼んでくるッス、ゾーイはコイツら見張ってて」
そう言ってシルフィは走っていった。
「でも、なんで分かったの?」
「シルフィが青ざめた顔で厨房から戻ってきたんです。そして『シェフが危ない』って」
「なんで気づいたんだろう」
「厨房が荒らされていたそうです」
男の一人が「チッ」と舌打ちした
「厨房が荒らされていたのと、シェフが必死に『戻れ』って言ってたので泥棒に間違いないと思ったそうです」
「シルフィ、洞察力すごいね」
「はい、私も驚きました」
「でも、二人ともめちゃ強いね、なんかやってたの?」
「私は故郷で自警団に入ってました、シルフィは兄が格闘スキルがあるとかで練習台にされてたそうです」
「なるほど、それであんな動きが」
「はやく治療したいんですが、コイツらがいるのでシルフィが戻ってからにします、辛抱して下さい」
しばらくして玄関からドカドカと衛兵とシルフィが入ってきた
「小春様、大丈夫ですか?」
「はい、かすり傷です」
「申し訳ありません!」
「どうして衛兵さんが謝るんです?」
「陛下より『小春は命に代えても守るように』と厳命されておりました」
「そんな、大袈裟な」
「いえ、本当です」
「シルフィ、シェフの手当を頼む!」
「ホイさ!」
シルフィは薬箱を取りにいった。
「お前達、覚悟しておけ! 陛下と親しくされているお方を襲うなど、死罪は免れないぞ!」
「そこまでしなくてもいいです」
「いえ、ここから先は我々の仕事です、いくら小春様でも法は変えられません」
「わかりました・・」
そうして衛兵たちは乱暴に三人を引きずって行った
「はい、治療おわったッスよ」
「ありがとう」
「でも、命に別状なくて安心しました」
「そうね、私、死を覚悟したもん、ほらまだ震えてる」
シルフィが手を握ってくれた。
「おカネを渡せば済むことだから、二人とも危ないことしないでね」
「いえ、カネを渡したら恐らく殺されてます」
「うん、殺されたッスね、口封じッスよ、シェフは顔見たっしょ?」
「う、うん」
小春は改めて背筋が凍るほどぞっとした。
「二人は命の恩人だ、本当にありがとう」
「問題ありません、シェフが居なくなったらグラン・プリマもプリマも存続できません」
「そうッスよ、私ももっと稼がせてもらわなきゃッスから」
小春は涙を流しながら二人の手をとった
この事はすぐに街中に広がり国王の耳にも入った。
「小春の警備に精鋭を選びなさい、本日から警護にあたるように」
陛下が騎士団長を呼びつけ王命を出した。
すぐさまに護衛隊が組まれ24時間グラン・プリマ周辺の警護にあたった。
「小春ちゃんとこ強盗にあったらしいよ」
「刺されたらしいね」
「本当かい? 小春ちゃん大丈夫なのかねぇ、心配だ」
グラン・プリマの前を通る人々が小春を心配している。
一週間ほどして傷も完全に癒えた頃
「ねぇ、あれちょっと大袈裟すぎない? 鎧とか着なくても」
「多分、威圧効果だと思いますよ、『ここには王家が後ろにいるぞ』って意味合いもあるのかと」
「でも、物々しすぎないかなぁ、警護は有り難いけど私服でとかお願いできないかなぁ」
「多分無理だと思います近衛騎士は鎧と剣にプライド持ってますからね、それを『脱げ』というのは私達に『コック服を脱いでパジャマで寝ろ』と言ってるようなものかと」
ルディはよくわからない事を言った。
「なにか、いいアイデアないかぁ、お客様もあれじゃゆっくりくつろげないよね」
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