第21話 魔王来店
それはよく晴れた暖かい昼下がりに現れた。
「ハンバーグ」
低い声で直接脳に話しかけられたような感じに店中の誰もが凍りついた。
「ハンバーグだ」
気がつくといつの間にかテーブルに男は座っていた。
赤黒い皮膚に隆々とした筋肉、赤い瞳は溶けた溶岩のように光っている。
上半身は裸で頭には山羊のような黒い角が二本。
「ハンバーグだ」
もう一度、よりはっきりと脳に響いた。
唯一動けたのがノーラだった。
「おじじ、だめ、怖がってる」
そう言ってノーラはその男のあたまを平手で思いっきりはたいた。
「あいた!」
「おまえ! 魔王様に何をする!」
護衛だろうか、いつの間にかその男の脇にグラマラスな女が男をかばうように立っていた。
「おじじ、行儀悪い」
「はっ!
「ここにおったかぁ~、ノーラちゃんや♡」
男はノーラを抱いて高い高いをした。
「おじじ、やめる、ノーラ怒る」
「ごめんねぇノーラちゃん、おじじ寂しかったよ」
「ノーラ、ちょっとイイ?」
「ん」
「あの人知り合い?」
「ノーラのおじじ、魔王」
「まおー? って、あの魔王?」
「ん、その解釈で間違ってない」
「おじじってお爺さんってこと?」
「おじじ」
「おじさん?」
「ん、叔父」
「おじじ、懲らしめてくる」
「ねねノーラちゃん、おじじハンバーグたべに来たの~♪」
厳ついのに言葉遣いのギャップが激しい。
「皆んな迷惑してる、ついてくるがいい」
そう言ってノーラは魔王たちを二階に連れて行った。
ルディはなぜか平然としていた。
「僕に接客させてもらって良いですか?」
「え? 大丈夫? 魔王だよ!」
「はい、大丈夫です」
「私も一緒に行くよ」
そう言って小春とルディも二階へ行った。
「いらっしゃいませ、オーナーシェフの小春と申します」
「うむ、ハンバーグを持って参れ」
腹に響くバリトンボイス。
「本日はコロッケになっておりますのでハンバーグはご用意致しかねます」
ルディは落ちつた声で魔王にそう告げた。
「フンッ、
パチ~ンとノーラが魔王の頭をはたいた。
「おじじ、今日はコロッケ、おとなしく食べる」
「なんだ~ハンバーグ食べたかったのに~」
「小春の料理美味い、コロッケ、食べるとイイ」
「ノーラちゃんがそう言うなら、おじじはコロッケ食べようかなあ~♡、お前もそれでいいな!」
「ハッ魔王様」
「それで、お前がルディか?」
「はい、私がルディです」
「ノーラが何者か知っておるのだな?」
「はい存じ上げております」
「では我とノーラの関係も聞いておるか?」
「育ての親で父親同然と聞いております」
「うむ、それを分かっておりながら手を出したと?」
「まだ、出していません」
「まだ? フンまぁイイ、それで、儂に言いたいことがあるのではないか?」
「はい」
ルディは真剣な面持ちでしばらくうつむき魔王の前に跪いた。
そして顔をあげ魔王の目を真っ直ぐにみて。
「ノーラさんを僕に下さい」
そう言った
「えええええええええ!!!!!!!」
店中が驚愕したその声で窓ガラスが割れそうになった。
《ちょっとまって、養子のノーラとルディが結婚したら私、魔王と親戚なんですけど~~~!》
「覚悟は出来ておるのか? ノーラを嫁に取るということの意味もわかっておるのか? 魔族の女を
「覚悟は出来ております、お嬢様と、いえノーラと結婚できるなら全てを失っても構いません。」
「お前の家族も捨てるというのか?」
「私に家族はおりません」
「ほう、では何を対価として差し出す」
「私の、私の魂を捧げます・・ただし生きている間は、ノーラと過ごしている間だけは勘弁願えないでしょうか? その後ならいつでも魂を捧げます」
「ルディとやら、求婚の言葉は何と言ったのだ? 聞かせてみるがいい」
「え? あの、その、『ノーラ、僕の瞳には君しか見えない、君のその美しい白い髪も、その柔らかい唇も、その美しい蒼い瞳も、全てが愛おしくてたまらない、君のその全てを僕にくれないか? その代わりに僕は君に命を差し出す、僕の全てもって君に害なす者から守る、僕の全てを持って君を愛す、永遠に・・・』と」
「ほう、聞いたか? アラーナ、あぁ言う風に言われるとお前でもグッと来るだろ?」
「はい、私も何故か顔が紅潮しました。」
何故かアラーナが耳まで真っ赤にして頬に両手の掌をあてて上目遣いでルディを見ている。
「ルディよ、今のセリフをアラーナに言ってもらえないだろうか?」
「え?」
バチコ~ン!
ノーラの飛び蹴りが魔王の喉に入った。
「おじじ、死にたいのか?、ノーラ怒る」
「冗談だ、そう怒らないでノーラちゃん」
ノーラもさっきから真っ赤。
「二人の仲は
「ん、問題ない、好き」
「ん~? よく聞こえないなぁ~ ノーラちゃんはなんて答えたのかなぁ~? 教えてくれないと結婚は許せないなぁ」
「・・『こんな私でよければ添い遂げさせて下さい』 おじじ、後で死ぬ」
「かぁいいなぁノーラちゃん」
「あの、僕たちは真剣です茶化さないで下さい」
ルティはキッとし目で魔王を見た。
「分かっておるわ、
「はい」
「膝を着き目を閉じよ」
「~冥界の神のもと、その契に祝福を与えん~」
魔王の眉間から赤い光がゆらゆらと出てルディの眉間へつながった。
「ノーラここへ参れ」
「はい」
ノーラは
「受け入れよ」
向かい合ったルディの額からノーラの胸に向かって金色の光が煙のように入っていった。
その光景に全員がうっとりと見惚れた。
「よし終わったぞ目を開いてよい、これにてお前も我の子になった、お前が命の危機に貧したときは我の力を持って
「有難うございます、お義父さん」
ルディは魔王を抱きしめた、ノーラもルディと魔王を抱きしめた。
《やっば、めっちゃ感動した、どうしよ、手が震えてるし涙とまらないし》
おおおお~~~~!!!
パチパチパチ~~~~!!!
一階からすごい声援とすごい拍手が起こった。
《こういう
「小春殿、婚儀の件よろしいかな?」
「はい、勿論です、二人が幸せになれるよう影からサポートさせてもらいます」
「我に人族の息子と人族の親戚が出来たぞハッハッハッ」
「王子殿下、王女殿下、おめでとう御座います!」
アラーナは、そう言ってルディとノーラに
「小春お義母さん、黙っててゴメンナサイ」
「ん~ん、平気よ、ちょっとビックリしちゃったけどね、私、薄々気づいてたし、あとお義母さんってなんか複雑・・ちょっとまって? ルディが王子殿下ってことは将来は魔王になるの?」
「それは問題ない、おじじ、子ども沢山いる」
「あぁ、アラーナよ我の子は何人おったか覚えておるか?」
「はい、確か今現在で32か33人だったかと」
「そんなにおったかハッハッハッ」
この話はその日のうちに国王の耳に入った。
のちに、このときの出来事で世界が大きな波紋の渦に巻き込まれるのであった。
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