第22話 アルバイト


「アラーナさん、そこは違います」


魔王側近のアラーナが苦戦している。


「申し訳ありません、すぐにやり直します」


「いえ、そこではありません」


「申し訳ありません」


「えっと、アラーナさん洗い物お願いできますか」


「本当に申し訳ありません」



今日で魔王とアラーナの来店は4日連続。


コロッケが気に入った魔王は魔王国でも食べたいとアラーナをプリマで働かせていた。


「私って何をやってもダメね~ 魔王様もきっと呆れてらっしゃるわ」


洗い物をしながらアラーナは肩を落としていた。


「気にしないでアラーナさん、すぐに慣れますよ」


小春はアラーナの肩をポンと叩いて微笑んだ。


「私には敬語はやめて下さい、魔王様に殺されます」


「そう言われても・・」


「お願いです、ホントに殺されますから、あの人ああ見えてもそういうけじめ的なところだけは厳しいんです」


「分かりました、いえ、分かった、そうさせてもらうねアラーナちゃん」


「アラーナって言いにくかったら短くしてもらって構いません」


「アラーちゃん、ラーナちゃん、ん~、『アラちゃん』にします」


「はい♪」


アラーナは嬉しそうに笑った。



「ところで魔王さんは?」


「そのへんに居ると思いますが」


シャクッシャクッっと包丁のリズミカルな音が聞こえている。


「ほ~ コレは楽しいな、この音が小気味よい」


そう言って魔王はハンバーグの仕込みで使うアニオラ(玉ねぎ)を見事なみじん切りにしていた。


「さすがですね、お義父さん」


「だろ?我は料理の才能があるかもしれんな、ハッハッハッ」


「本当に初めてなんですよね? お義父さん」


「包丁というものも初めてみたからな」


「才能ありますよ、お義父さん」


「ハッハッハッもっと褒めるが良い♪」


「おじじ、調子乗りすぎ」


「いい婿を貰ったのノーラ、子はまだか?」


「おじじ、変態」


「まだなのか?息子よ」


「お義父さん、変態」


二人共、赤面




「洗い物終わりました、次は何を」


洗い場からルディのもとへ、アラーナが来た。


「はい、ではお義父さんと一緒にみじん切りをお願いできますか? 手を切らないよに気をつけて下さい」


「わかりました」


真剣な面持ちで包丁を握るアラーナ。


「あ~~っと、持ち方違います、刃の方握ってますそれ」


「お前バカなの? 初めて包丁もつ我でも分かったぞ」


「大丈夫ですよアラさん、誰でも初めてがあるものですから」


「はい」




「お義父さんは魔王城に戻らなくていいんですか?」


「あぁ、あそこにおっても何もすること無いからな、仕事は全部下の者に任せておる」


「部下の人は優秀なんですね~」


「そうでも無いぞ、魔王国はそもそもすることがないからな、メシはそのへんの魔物を適当に食うし、そもそもカネの概念がないからな」


「おカネないんですか? 貿易とかされてないんですか?」


「カネは有るには有るが使う場所がない、商店とかないからな、貿易も必要ない、全部、地産地消だ」


「なるほど~、今度お邪魔させて下さい」


「いつでも来るといいぞ、ノーラも連れてな」


「はい、楽しみです」


魔王とルディはすっかり溶け込んで本当の親子みたいになっていた。



「シェフ様、ウッウッ、涙が止まりません、悲しくないのに・・ジュル」


「あー、なるほどなるほど、アラさん、ここは結構ですのでホールを手伝ってもらえますか?」


「アヤツは使い物になりそうか?」


「ん~、なんと言うか、不器用と言うか天然というか」


小春は苦笑い。


「よし分かった、おい、アラーナ、お前は城に帰れ」


「え?」


「我が働くから、お前帰っていいよ」


「嫌です! 嫌でございます! 陛下!」


「だってお前、下手なんだもん、お前に出来ることをやりなさい『適所適材』って知ってるか?」


「私は何をすれば?」


「魔王しなさい、我の代わりに今日からお前が魔王ね」


「そんな、ありえません」


「いいじゃん別に誰が魔王でも、どーせすること無いんだからさ~」


「分かりました、戻ります、そのかわり戦争起きても知りませんからね」


「その時はもう帰らないから ハッハッハッ」


「もう知りません!」


アラーナはそう言って走って出ていった。




「あれ? アラちゃんは?」


「ん? 帰したぞ、なにか用か?」


「いえ、仕事頼もうかと思ったんだけど・・」


「我がやるぞ、今日から我がアルバイトで入るからな。」


「え? そうなの? 別に構わないけど、寝るとこどうするの?」


「お前の部屋に泊まろうと思っておるが、ダメか?」


「魔王ちゃんね、そういうこと言うと嫌われちゃうよ、特に女性からね、オヤジギャグとかセクハラ言わなきゃ、渋くてイケオジなんだけどなぁ~」


ウンウンと女性スタッフ一同うなずく。


「ふむ、それはいかんな、シブくいくか」


「うん、そうして」




―――――――ある日のランチタイム―――――――


「おい、ランチ4つ上がったぞ、持っていくがよい」


「はーい、すぐ取りにいきま~す」


「小春よ、フォカッチャが心もとない、追加を頼む、ルディよ、付け合せをあと3つ作りなさい」


「はいお義父さん」


「魔王ちゃん、要領いいね、まるでバイトリーダーだよ」


「まだ本気は出しておらんぞ」


「おじじの本気、マジすごい、本気と書いてマジ」


最近、ノーラがよく話すようになった。



「おい見習い、明日のランチの材料を用意しておけ」


「はい魔王様」


「あのさ前から思ってたんだけどね『魔王様』って呼ぶのやめようよ、なんか支配下に置かれてるようでヤダ。それにお客さんがチラチラ見るからさぁ」


「我は構わんがな、なんと呼びたいのだ?」


「お客様が聞いても驚かない名前がいいよね」


「そうですよね」


とルディ。


「『マー君』、おじじは今から『マー君』」


「プッハ、いいねそれ、魔王ちゃんは今から『マー君』です、全員に周知おねがいね」


「マー君は、カワイイ」


「ノーラがそう言うなら仕方ないな、カワイイか?」


「ん、カワイイ」




――――数日後――――


「やっぱりそうだ」


「どうしたんだ? 小春」


「あそこ見て、マー君」


小春と魔王は窓の外を覗き見た。



「衛兵か?」


「あそこも、ほら、あそこも」


「衛兵がどうかしたのか?」


「私、思ってたんだけどさ、マー君が来てから衛兵さんがウロウロするようになったんだよね、衛兵さん以外にもフードを被ってる人も居るでしょ」


「ふむ、おるな」


「『おるな』じゃないよ、あれ全部マー君を警戒してるんだよ」


「マー君をマーク」


久々のノーラのオヤジギャク。


「何故だ? 何も悪いことはしておらんぞ、この国の王は我が毎日楽しく料理を作っておるのが気に食わんのか?」


「そう言う訳じゃないんだろうけど、マー君とこって昔、人族と戦争してたんでしょ? そういうアレがあるんじゃないの?」


「戦争ってお前、600年も前だぞ! 根に持ちすぎだろ!」


「おじじ、魔力ダダ漏れ、魔力感じる人近寄れない」


「そうなの? 私、全然気づかなかった」


「小春は魔力ないからわからない」


「マー君魔力消して、今すぐ!」


「分かった・・・・コレでよいか?」


シュ~~シュシュシュ



「ん、大丈夫」


「って、つのは? 角どこ行ったの?」


「収納した、どうせならこの方がいいだろ」


「出来るならもっと早く言ってよね、も~」




そうして、見た目は『人間』の魔王が働くプリマになった





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