第20話 貴賓室
貴賓室を設けてから2週間が過ぎた。
予約で向こう2ヶ月が満室状態だった。
しかし小春は困っていた。
「はぁ~~ 困ったなぁ~」
「どうしましたシェフ」
「お貴族様よ、あの人達バカなの?」
「あ~料金の件ですね」
「なんなのよ、みんな『遠慮も過ぎれば・・』とか言って陛下のマネしてカッコつけて、バカみないたおカネ置いていくし」
「お貴族様はメンツで生きてますからねぇ」
「『〇〇男爵は幾ら払って行った?』とか、『○○子爵より大きな魚料を出せ』 とか下世話な事聞いてくるし、ルディ知ってる? 今の貴賓室の客単価」
「いえ、そこまでは把握してません」
「大金貨10枚よ!!1人当たり大金貨10枚払っていくのよ!!」(日本円で100万円)
「ちょっと異常ですね」
「1部屋8席で2部屋で16席でしょ、2階だけで大金貨160枚(1600万円)なのよ1日で!」
「ん、
「それに、最近じゃ『プリマは高い』って噂が出てるらしいの」
「それは深刻な問題ですね」
「それから、金庫よ! 金庫! 今3階の私に金庫が一つあるでしょ? 2階にお店の金庫が一つあるでしょ?」
「はぁ」
金庫がどうしたの? って顔でルディとノーラが見ている。
「もうお店の金庫に入らなくなってきてるの! タタキさんも『そんな重いのは耐えられんぞ』って言って匙を投げ出す始末なのよ」
「困りましたね、どうしましょう」
「料理以外のことで悩みたくな~~~い! 誰か助けて~!」
「あの、メリア様に相談されてはいかがでしょう? カルミア家も大金持ちなのでその辺の問題も解決できるのでは無いでしょうか?」
「このところ、何でも男爵様に頼りっきりだからねぇ~~、と言っても他に頼れる人いないしなぁ」
「ん、メリアがイイと思う」
「そうね、それしか思いつかないもんね、明日にでも行ってくるよ」
―――――カルミア邸―――――
「ごめんねメリア」
「いいのよ、小春のお願いだもんね」
この頃にはメリアもすっかり馴染んでタメ口で話すようになっていた。
「またせたね、今日はどんな相談だい」
男爵がやってきてソファに座った。
「はぁ、それがカクカクシカジカなんです」
「ハッハッハッ、凄いな小春ちゃんは」
「笑い事じゃないんですよ、切実なんです」
「そうだな、失敬した」
出された豆煎り茶を飲みながら男爵は話した。
「今ではそうでもないが、私が爵位を頂く前は同じような苦労をしたことがあったな」
「どう解決されたのですけ?」
「カネはどうして貯まるか分かるか? 小春ちゃん」
「どうしてって、どんどん入ってくるから貯まるんじゃないですか?」
「それは間違いだな、いや正解ではないというところかな」
「カネが貯まるのは、言い換えれば『カネが残ってる』という事だ、使わずに残っている状態なんだ」
「はぁ」
「これは商人の話だが、カネは家族が生活出来る分だけあれば問題ないだろ? 余ったカネは投資するか寄付するか賃金を上げるか物を買うか、それくらいしか使いみちがないだろ? いや、むしろそれ以外に使い道は無いはずだ」
《ん~、そう言われてみればその通りだなぁ》
「つまりは何でも良いから使えばいいんだよ、カネがあるなら使う、なくなったらまた貯める、簡単じゃないか、ハッハッハッ」
《さすが豪商の言うことは豪快だ、でもおカネは使わないと経済が回らないのは事実だもんね》
「有難うございました、何かスッキリしました」
「そうかそうか、お役に立てて何よりだ」
「帰って何に使うかじっくり考えます」
「うむ」
「久しぶりにお父様がかっこよく見えましたわ」
メリアのお世辞に男爵は嬉しそうに笑った。
「ハハハ」
そうして小春は家に戻った。
部屋でお茶を飲みながら一人で思案していたが良いアイデアが浮かばずルディの部屋へ行った。
「ルディいる? 開けるよ~」
「あ! あの! ちょっ!」
ガチャ!
「あ! ごめん! 失礼しました!」
小春は慌ててドアを閉めて自室へ戻った。
《今のってノーラだよね? 見間違えてないよね? チューしてなかった? なんか気まずい! 顔合わせる時、何て言おう》
コンコン
「シェフ、よろしいでしょうか?」
「ひゃい!」
「失礼します、シェフさっきのですが」
「ごごめんね! 私つい!」
「見ましたよね? シェフ、見ましたよね?」
「はい、見ました、ゴメンナサイ、でもでも、その恋愛は自由だし自分たちの部屋だから別に何してもいいわけだから」
「やっぱり」
ルディがため息をついた。
「ん、小春、想像がハレンチ」
「ん? チューしてなかった?」
「ノーラが目にゴミが入ったみたいだから見て欲しいって来てたんです」
「なるほど、勘違いしちゃったよ~」
《ほんとかなぁ~~、その割には焦った声出してたにゃん♡》
「あ、それで何か用があったんですよね?」
「そうそう男爵様の所に相談に行ったんだけどね、カクカクシカジカって言われて、二人に使いみちを相談しようと思ったの」
「うむ、さすが豪商男爵さまスケールが大きいですね」
「ん、守銭奴コワイ、小春も守銭奴」
「何がいいかなぁ、とりあえずお給料をアップしようと思ってるの、それでも思いっきり余るの」
「僕から提案があるのですがよろしいですか?」
「うん遠慮なく言って」
「この際ですね、お貴族様向けの高級店をオープンするのはどうでしょう? そしたら、プリマが高いという噂も無くなるでしょうし金庫の重量問題も解決します」
「お~! ルディ素敵すぎ!」
「ん、ルディ、かっこいい」
「よし、それで行こう! そうと決まれば『タタ・ヒル』コンビに相談しなくちゃね、バンバンおカネ使いましょう!」
《成金みたいなセリフ言っちゃったよ》
―――――ヒルダの工房にて―――――
「はぁ? もう一軒だぁ?」
タタキとヒルダは声を揃えて言った。
「うん、もう一軒だよ」
「小春、そんなに金持ってるの?」
驚くヒルダ。
「あぁ、お前には言ってなかったけど、コイツのところな床が抜けそうなくらいカネがあるんだよ、例えじゃなく言葉の通り床が抜けそうなんだよ」
「床が抜けるほどの金貨って聞いたことないし見たこと無いわ! あとで見せてね小春ちゃん♪」
「で、今度はどんな店作るんだ?」
「今度はお貴族様専用の高級店を作ろうと思うの、今は平民とお貴族様と同じ店を使ってるでしょ? それでなんか『プリマは高い』って噂になってるらしいの?」
「あぁ、その噂は俺も耳にしたよ『高くないぞ』って言ってやったけどな」
「場所はもう決めたのかい?」
「まだこれから」
「じゃぁ、今から三人で商業ギルド行こうか」
「二人とも仕事は大丈夫なの?」
「あぁ、問題ねぇ」
―――――――商業ギルドにて―――――――
「そうですかぁ、この二つですか」
商業ギルドから提案されたのは王宮入り口の土地と、街外れの丘の上の教会跡地、敷地は教会跡地のほうが圧倒的に広いが交通が不便、王宮近くは治安はいいけど土地が狭い。
「開いてる土地は二つですが、土地を『借地』という形式なら借りられるかもしれません」
「というと?」
「こういう事だ『土地だけ借りて建物は自分で作れ』家賃は払わなきゃならないが、立地はそこそこ選べるぞ」
《さすがタタキさん、仕事デキる男ってカッコいいよね》
「なるほど~」
「この場合は先方と話し合って家賃や建物、業務形態などを取り決めする必要がございますが小春さまでしたら、まず問題ないと思います。」
「小春、こういう事はチャッチャと決めるのが一番だぜ、お前の腕なら何処に建てても繁盛するさ」
「私もそう思います」
受付の女性もそう言った。
「では、この地図のこの辺りか、市場に近いこの辺りでお願いできますか?」
「はいかしこまりました、早速地主さんに話をしてみますね」
「あれ? 王都って国王直轄領だよね? 個人で土地とか持てるの?」
「あぁ、正確には地主と言っても王家から土地を借りてるんだ、国家事業とかで道路が通ったり区画整理が無い限り半永久的に使えるってわけだ、だから小春は地主にカネを払い地主は王家にカネを払うって寸法だな」
「ちなみに、私が王家から直接土地を借りることって出来るの?」
「いくら小春でもそれは無理ね、古くから王国に貢献したりしてないと貸し出されないよ、カネがあるから借りれるってもんじゃない」
「なるほど~勉強になるわ」
「じゃ、もどるか? 戻って建物の詳しいこと話そうや」
「は~い」
三人は途中市場経由でヒルダの工房へ戻った。
「内装はプリマの二階と似たような感じでいいのかい?」
「そうねぇ~どうしようかなぁ~今回はガラッとイメージを変えるのも面白いかなぁって」
「どういうふうに?」
「例えばテレスっぽくない雰囲気? 異国風? かなぁ」
「なるほどなぁ」
「ねぇタタキさん、大理石って知ってる? 白くて目が詰まってて綺麗な石」
「大理石? あー、マーブルのことだな、ありゃ高いぞ」
「そうなんだぁ・・客席数はそんなに大きくしないつもりなんだぁ」
「マーブルは王宮以外で使ってるのは見たこと無いなぁ、法王国の教会はマーブル使ってるらしいがな」
「そう言えば拝謁の間って大理石だったような」
「小春おめぇ王様と会ったことあるのか?」
「え? うん、呼ばれてね、帰りに何かメダルもらった」
「もはや飛ぶ鳥を落とす勢いだな」
「私、家でじっくり内装とかイメージ考えとくね」
「おうゆっくり考えな」
「うん、じゃぁまた来るね~」
「は~い」
そう言って店に戻った。
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