第19話 金属革命
鍛冶屋のアガシがステンレスで武器や防具を作りたいと言ってきたが
王宮に確認させてほしいと保留にした。
王宮から賜ったメダルを左胸のコンクールのメダルの横にしっかりと縫い付けた。
さすがに穴を開けるのは躊躇われたので服屋の女将に頼んで工夫してもらった。
2つとも500円玉くらいの大きさでイイ感じに仕上がっていた。
「今日から暫くの間プリマを休業します、皆さん知っての通りお貴族様向けの個室を2つ作ります、期間はひと月ほど見ています、準備が整ったら連絡しますのでそれまで休暇にしますが、給金は払いますので安心して下さい。何か質問がある方はいますか?」
「今日は営業はしないのですか?」
「あ、良い忘れていました、今日は大掃除をお願いします、特に厨房の冷蔵庫、冷凍庫は入念にお願いします、掃除が終わったらお給料を渡しますので忘れずに受け取ってくださいね」
「はい、シェフ」
そうして片付けがおわり二階の家具類も一階に下ろした。
今回の改装は大金が動いた、タタキとヒルダを連れてカルミア男爵家へ赴き調度品のアドバイスを受けた。
タタキもヒルダも楽しそうに嬉しそうにしっかり聞いていた。
内装と調度品、銀食器などで大金貨100枚(1千万円)つぎ込んだ。
そのせいで、一階は食堂、二階は王宮くらいの差が出てしまった。
「何度見ても圧巻だなぁ~ 自分で言うのも何だが、いい仕事してるねぇ」
タタキが出来上がった内装を見てため息をついていた。
「そうだねぇ、兄貴が生きてりゃ自慢できたんだけどなぁ」
ヒルダの兄はタタキの同僚だった。
「あいつの性格じゃまだ工事は終わってねぇよ、ハッハッ」
「兄貴はこだわりすぎて納期飛ばしてたもんな」
「ヒルダさんとタタキさんてそう言う関係だったんですね」
「言って無かったか? コイツの兄貴と俺は仕事仲間でな仕事終わりにゃ、朝まで飲んだもんだ、あいつは良い仕事するやつでなぁ、現場の事故で死んじまったんだ」
「人って突然死ぬんだよなぁ~、前の晩一緒に酒飲んでたのが次の日は帰ってこないから、人間どうなるか分からんもんだねぇ」
そういってヒルダは窓の外の遠くを見ていた。
テレス王宮はもとより、世界中を見てもかなり豪華であるだろう貴賓室が出来上がった。
1部屋、8席で長テーブルが1つ、広さは16畳ほど、1階から階段を上がると扉があり、扉を開くと通路、その両側に部屋が1つづつで、2つの部屋は完全に仕切られている。
貴賓室で使うナイフ・フォークは純銀製で、小さい桜の刻印がしてある。
皿は
料理を食べ終わると桜が顔をだすギミックだ。
貴賓室で出す料理は要望がない限り、基本フルコース仕立てになっている。
担当するスタッフの制服も新しく作った、カルミア家御用達の仕立て屋を紹介してもらい素晴らしい仕上がりになった。
「お~い、嬢ちゃんいるかぃ?」
鍛冶屋のアガシがやってきた。
「は~い」
「頼まれてたもん持ってきたぞ~」
アガシに頼んでおいた調理器具の第一陣が届いた。
見事な出来栄えで、現代日本のものと比べても遜色がないほどだ。
「大きいやつはどうするね?」
「今日、運べそうですか?」
「あぁ問題ない」
「じゃぁ、お願いしようかな」
そう言って小春は厨房の奥のスペースに案内した。
「ここにお願いします」
「組み立てがあるから、終わったら知らせにくるよ」
鍛冶屋はそう言って大きなステンレスの板を弟子たちを運び込んだ。
「皆さん、今日は冷蔵庫などの工事があるので邪魔にならないようにして、帰宅して下さい、お給金受け取りに来てくださいね~」
「は~い」
「明日からひと月も休暇だぞ、お前予定あるのか?」
「俺は、リーアンに行こうと思ってる、魚を食べにな」
「お~、それイイなあ、俺も一緒に行っていいか?」
「あぁ、勿論だ」
従業員たちは各々の予定を聞きながら休暇に入った。
「お~い、嬢ちゃん、一応組み付けは終わった、確認してくれ」
アガシが一階から声をかけた。
「は~い、すぐ行きます」
小走りに厨房へ降りていった。
「お~、すごいですね、サイズもピッタリじゃないですか!」
ステンレス製冷蔵庫をさすりながら小春は満足げに言った。
「うむ、初めて作ったが我ながらいい出来だよ、そしてこの奥が冷凍庫だ、これで間違いないかい?」
冷蔵庫の広さは六畳ほど、奥の扉を開けると同じ広さの冷凍庫になっている。
「うんうん、すごいすごい」
あとはナイフとフォークとスプーンだ。
小春は検品した、一階で使うナイフとかフォークは大きさは一種類で
それ以外はデザートフォーク、ティースプーン、スープスプーンだ。
「完璧ですね! さすがアガシさん! 今度招待しますね」
「楽しみに待ってるよ、じゃぁ俺は帰るぞ」
「あ、アガシさん二階改築したの見ていきません? スゴイ仕上がりですよ!」
「ほう、ちょいと見物させてもらおうかの」
そう言って、小春とアガシが二階に上がってきた。
「どひゃ~! なんじゃこれは! 」
「おう、お前さんも来たのか?」
タタキがアガシに挨拶した。ヒルダもペコリと頭を下げた。
「まさか、お前がやったわけじゃねぇだろ?」
「バカ言え! 俺以外にこんな仕事、誰が出来るってんだ」
「ん?たしかあんた」
そう言ってヒルダを見た。
「はい、今は設計士をやってます」
「そうかいそうかい、兄さんは気の毒だったなぁ、いい職人だった」
「ん? それじゃぁ、お前さんが設計したのか?」
「はい」
「なるほどな、設計が一級品だからコイツでも作れたわけだな、ハッハッハッ」
「何言ってやがる」
しばらく世間話をしてから
「まぁ、今度、3人で酒でも飲もうや」
「そうだな、久しぶりに朝まで行くか」
「そうだね、あたしゃドワーフにも負けないよ」
「言ってろ」
そう言ってアガシは帰っていった。
ステンレスのナイフ・フォークを手に取り眺めるノーラとルディ
「銀食器みたいですね」
「ん、銀食器より実用的」
「そうなのよノーラ、銀食器って綺麗なんだけどすぐ黒くなるからねぇ」
「シェフの国では一般的なんですか?」
「そうなの、故郷のナイフとか眺めてる時にね銀にとても感じが似てるのがあったんだけど」
「それがステンレスなんですね」
「うん、ステンレスでも配合で高級感が変わるの、その時にステンレスについて調べたことがあったから、もしかしたら同じ鉱石があるかも? って思ったの」
「なるほど~、シェフは博識ですね」
「そうかなぁ」
「ん、小春、博識」
「アリガト」
それからしばらくしてアガシの所に『ステンレス武器、防具の製造は王宮の許可制』との知らせが来たそうだ、それ以外は許可がでたとの知らせがあった。
それからと言うもの、アガシの工房には連日、沢山の職人が詰めかけ弟子入りを志願していた、勿論、世界中からである。
しかし、ノーラの窯を再現するのが難しかったようで成功したのは魔法が盛んなキルシナ法王国だけだった。
ステンレス用の窯はテッコ炉と名前を変え世界へ輸出された。
そして、この世界での金属革命が産声を上げた。
あらゆる所にステンレスが使われるようになった。馬車、井戸、扉の留め具、他国でステンレス製の武器や防具が作られるようになったため、テレスでも製造が許可された。
ノーラの窯はキルシナ法王国のよりもさらに温度が安定しておりムラがないらしく法王国でもそのレベルには至ってない。ノーラの窯は後に『ノラ窯』と呼ばれるようになった。
そして金属革命により鍛冶職人の地位が大きく上がった。
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