第18話 招聘

王様騒動から十日ほどたったある定休日、小春とノーラとルディがテーブルに座って何やら会議を開いていた。


「ねぇ、ふたりともどう思う?」


「そうですねぇ、必要か否かで言えば必要だと思います」


「ん、ノーラも同じ、ルディ正しい」


「正直言うと、私はお貴族様相手はあまりしたくないんだよね~、気を使うからね」


「ですが、こう、何度も断っていてはそのうち嫌がらせとかされますよ、それこそ面倒なことになりかねません」



議題はこうだ、


陛下が来店して以降、お貴族様の数が軒並み増えだしたのだが、

『すぐに案内しろ』だとか『陛下と同じものを用意しろ』などの無茶を言ってくる貴族が増えたのだ。


「気持ちは分かるんだよねぇ、『敬愛する王様と同じものを食べたい』ってのはね、でもねぇ~」


「それに、こう度々お貴族様が押しかけると、街のみんなたちが来れなくなります」


「だよねぇ~~、明日、皆んなで話し合おう」


「はい、それがいいかと」


「ん、ノーラも同意見」



翌日の開店前の朝礼でみんなと話し合った結果、お貴族様は予約制にするということ落ち着いた。

ホールの女の子たちも、お貴族様相手は苦手だそうだ。


「では、今後はそういう事で対応して下さい、何かあったらすぐに私に報告してね」


「分かりました」


「では今日も一日頑張りましょう!」


「はいシェフ!」




「誰かおらぬか~」


「いらっしゃいませ、申し訳ありません開店にはもうしばらく・・」


「うむ、食事に来たのではない書状を預かってきた、そなたが小春殿か?」


「はい、私が小春です」


「では、書状を受け取りなさい」


「は、はい」


「かならず目を通すように」


「分かりました」


そう言って男は帰っていった。


「誰です?」


「さぁ? 手紙を貰った」


「恋文ですか?」


「そんなわけないよ、ってコレ王家の紋章じゃない?」


「え? そうですね二羽の鷹につるぎの紋章、王家のものですね、はやく読んだほうが良いですよ」


「なになに、『きたる日曜日に王宮に参るように、国王陛下直々の呼び立てにて拒否することは相成らぬ』だそうです」


「なんの用事ですかね?」


「まさかこの前の宝金貨事件? 私、捕まるの? 首チョンパされたりはりつけされたり、馬で引き回されたりするのかな?」


「いや、それならば、その時に斬り捨てられてるはずですから」


《さらっとコワイこと言うわねアナタ》


「じゃ、何の用事なんだろ? どっちにしろ『拒否できない』んだから行くことは決定だもんね、って王宮には何着ていこう! 上品なドレスとか持ってないよ~! 日曜って三日後じゃん! 作っても間に合わない!」


「メリア様にお願いしてみては?」


「お! ナイスなアイデア! 後で行ってくるね」


「今から行って下さい、お店は任せて下さい」


《やだイケメン、ルディが日に日に頼もしくなるわね、『ノーラだけは俺が絶対守ってやる!』とか言ってるのかしら?》


「じゃぁ、お願いね急いで行ってくるね」


そう言って小春は小走りでカルミア男爵邸へ向かった。




「こんにちは~」


「これは小春殿、今日はメリア様ですか?」


「はい、お願いできますか?」


「少々お待ち下さい」


いつもの応接室。


《お貴族様の家って、今度作る貴賓室の参考になるかも。いろいろと高そうな調度品が沢山あるなぁ、カルミア家は豪商だったのもあるかも・・》


「あら小春ちゃん、おまたせしましたわ、お部屋にいらして」


「ごめんねぇ、メリア」


「いいえ、友人の訪問ですよ嬉しいに決まってるじゃないの」


「でね、メリア、相談なんだけど、カクカクシカジカなの」


「あら、それはたいへんね、私のでよければどれでも持っていかれて結構ですよ」


そう言って別にあるメリアの衣装部屋へ行った。


ウォークインクローゼットなんてものではなくファミレスの駐車場くらいの広さの部屋全部が衣装部屋だった。


「うひゃ~! さすが豪商の娘だねぇ~! ここだけでお洋服屋さんが2~3軒出せそうじゃない」


「お父様が次から次に買って来るの、必要ないと言ってるのに」


「これ全部メリアのなの?」


「そうよ、好きなのを持って行ってね」


「『どうぞ』って言われても、どんなのを着ていったら良いのやら、いろいろと決まりがありそうじゃない? 何色はダメとかないの?」


「そうね、女性が白い服を着ていくのは好まれないと思う、白いドレスは王妃か王女殿下が召されるものだからね」


「なるほどねぇ~~」


「これなんかどう? プリマの色って確か淡いピンクだよね」


「お! さすがメリア、ナイスなチョイスだ、着てみていい?」


「もちろん、一人で大丈夫?」


「着方がわからない・・・ 手伝って」


「ここをこうやって、先に袖を通して、それからここをギュッとしぼる、はい出来上がり」


「ふぅ~結構苦しいのね」


「そう? そんなに?」


「あ、私のほうが太ってるって言いたいんでしょ!」


「そんなことないよ、小春を見てるとついつい悪戯いたずらしたくなるのよ、フフフッ」


「もうデザート作らないからね! プリマには出入り禁止!」


「冗談、冗談、勘弁してください~ そんな事言うなら服は貸しませんが」


「わたしが悪うございました~~~」


小春は楽しそうに服を選んで持ち帰った。




そして日曜日の朝、

店の前にピカピカの馬車が迎えにきた。

ドレスを着て降りてきた小春をみたノーラとルディは言葉を失った。


「小春、お貴族様みたい」


「シェフ、凄いです! とても綺麗です!」


ルディの目線が小春の開いたドレスの胸元に釘付けになっていた。

ドスンとノーラが肘でルディの脇腹を突いた。


「お迎えに上がりました、小春様、お荷物はございませんか?」


「あ! 忘れるところだった! あっぶな~!」


ドレスの裾をまくし上げパタパタと厨房に入っていった。


「おまたせしました、よろしくおねがいします。では行ってきますね~」


「いってらっしゃい」


「ん、行くとイイ」


小春は馬車の中から手を振った。


「シェフがまるでお貴族様に見えたね」


「ルディ、見過ぎ、ノーラ怒る」


「ごめんごめん、ノーラが一番だよ♡」


「ん、それは決定事項」




――――王宮にて――――



「陛下、お連れしました」


「うむ、入れ」


ギィ~~っと大きな扉が開き、3段ほど高い場所の玉座に王は座っていた。


「この度、陛下の招聘しょうへいにあずかり・・」


「よいよい、堅苦しいのは無しじゃ、近う寄れ」


陛下はニコニコしながら手招きした。


「はい」


小春は二歩だけ進んだ。


「もっと近う寄れ、声が遠いではないか」


「はい」


「ふむ、会話するにはいささか苦しいな、わしの部屋へ参ろう」


「陛下、それは」


「よいよい、みな下がれ」


《え? 王様と二人きり? 何かされたらどうしよう? 絶対断れないよね? 王命とか言われたらどうしよう、断ったら死刑じゃん、やだやだやだ》


「入りなさい」


「は、はい」


「そう固くなりなさんな、心配せんでも何もせん、そこまで腐っておらんよ、フォッフォッフォッ。 おい、茶を持て」


「あ、そうだ! 陛下、本日は手土産をお持ちしました」


「ほう、手土産とな?」


「はい、わたくしどもプリマで提供しておりますデザートで御座います。少し多めにお持ちしましたので王妃殿下や王女殿下さまにも如何いかがかと」


「ほう、それはなんとも嬉しい手土産じゃ」



「お茶をお持ちいたしました」


「それで、本日はどのような要件で」


「そう、急かすでない、若いものは性急すぎてかなわん、年寄のことも考えぃ」


「失礼致しました。」


「してからに小春よ、 お主はじゃ?」


カッっと目を見開いた王の顔が一気に締まった、ものすごいオーラが王を包んでいた。


「あ、あ、あの、それは、どういう」


王の威圧で小春の顔がこわばり額から汗が吹き出た。まるで蛇に睨まれたカエルのように、


「うむ、お前は我が国に害を成す者か?」


「申せ! 我が国にあだなすものか?」



小春は深呼吸して震える声で答えた。


「質問の意図が分かりかねるのですが、決して国に害をなそうなどと考えておりません」


「ならば、話してくれるか? そなたの出自を」


《そうか、全部見破られていたんだ、陛下がお店に来たときから、陛下は全部わかっていたんだ、そしてステンレスや冷蔵庫のことも全部》


「はい陛下」


そう言って小春は全てを話した。

理由はわからないが自分が別の世界から来たこと、地球という世界の話し、

日本という国の文化や風習、政治体制、宗教、テクノロジーに至るまで自分が知っていること全てを話した。

日本にいる家族のことを話し終えた小春は涙が止まらなくなってしまった。


「ふむ、奇異な話しがあるものよのう・・ さぞ、辛かったであろう、不安であったであろうな」


「ウッウッ」


嗚咽おえつしながら号泣した。

陛下は小春を優しく包むように抱きしめた。


「あなた? こちらですか?」


ノックもなしに王妃がドアを開けた。


「あなた! 何を!」


「ち、違うぞ! これは誤解だ! やましいことはしておらん!」


「こんな小さな子が泣いてるではありませんか? 一体どう責任を取るおつもりですか? 万が一にも子が出来ていたら大変なことになりますよ!」


「ウッウッ、違うんです王妃殿下」


「あら、違うのですか?」


「はい、私の故郷のお話をしていたら、残してきた家族を思い出して泣いてしまったのです、それで陛下が優しくしてくださったので更に号泣してしまって」


「まぁ、わたくしの早とちりでしたのね」


「まったくお前は、わしはもうこの歳じゃ色事から遠くなっとるわい」


「こやつにも聞かせてよいかの?」


「はい、かまいません」


カクカクシカジカでカクカクシカジカ・・・


「そうですか、ウッウッ、苦労なされたのね、これからは私達を家族と思って何時いつでも遠慮なくいらしてね」


「お言葉だけ大切に頂戴させて頂きます」


「おーい! あれを持て」


執事を呼んだ。


「はい、只今」



「お前にコレを渡しておこう」


「そうですわね、それがいいわ」


「これは、何でしょう?」


豪華な装飾がされた高価そうな木箱に入ったそれは、宝金貨に似ているが一回り小さく表には王家の紋章、裏には花が彫ってあった。それとは別にシリアル番号のようなものが四桁で「1001」と彫ってあった、この意味を小春は後々知ることとなる。


「これは王家と関わりが深いものが持つものでな、大抵のところはそれを見せれば出入りが出来る王宮の門も素通りできるし、憲兵も衛兵も近衛兵も優遇してくれる」


「それがあるとテレス王国だけじゃなく諸外国でも国賓扱いしてもらえるわ」


「そのような貴重なもの、わたくしには・・」


「前にも言ったぞ、遠慮もすぎれば・・・」


「はい、そうでした、では有り難く頂戴いたします。」


「うむ」


「それで小春よ、最近困ったことはないか?」


「と申しますと?」


「店で嫌がらせなどを受けておらぬか?」


「嫌がらせと言うほどではありませんが、お貴族様風の方の来店が増えており少々誤解を招くことが御座います、あと外国の方も少し」


「ふむ、やはりか」


「なにかあるのですか?」


「最近、見慣れぬ者が王国に入ってきているようでな」


「見慣れぬ者、ですか?」


「まぁ平たく言えば間諜かんちょうだ」


《間諜ってスパイのことだよね? どうしてうちに?》


「わたくしどもの店と何か関係が?」


「店と言うよりお前自信に興味があるようだ」


「私にですか?」


「お前は気づいておらんようじゃが、ある世界じゃ有名人じゃよ」


「どういう事でしょう?」


「お前が持っている知識じゃ」


《あ~~なるほど》


「おまえは何やら新しい金属を試しておるじゃろ?」


「あ、はい、しかしあれは鍛冶屋のアガシさんにきつく口止めしてますから」


「蛇の道はかえるじゃ、間諜にかかればすぐにバレる」


《え? 今、かえるって言わなかった?『蛇に睨まれた蛙』と混ざっちゃったのかな? 笑いそう、我慢しろ~私ぃ フ~フ~》


「ちなみにお前の店の従業員もすべて調査しておるぞ、一人を除いては調査は完了しておる」


《その一人ってまさか》


「その一人とは?」


「あの魔法使いじゃよ、アレの出自がまったく掴めておらん、小春よ何か聞いておらんか?」


「そう言えば今まで気にしてませんでした、けど、悪い人間じゃ無いことは私が保証します」


「うむうむ、それは分かっておる、間諜で無いことは確かじゃが、何処の誰であの魔法は何処で習得したのか皆目検討もつかんじゃ」


「彼女、ノーラは詮索を嫌います、できれば」


「心配するでない、なにも手出しはせんよ」


「有難うございます」


「ただし、そのノーラとやらをお前の養女にしなさい、身分証も持っておらんようだからの、そのほうが何かと安全じゃ。例えばじゃ、仮にノーラがさらわれたり犯罪に巻き込まれた場合、身分証が無いと国は動かんのじゃよ、身分証が無いと国民扱い出来んからな、そなたもそのほうが安心じゃろうて」


「そうですね、しかしあまりにも年が近すぎるように思えます」


「構わん、形式的なものじゃよ、それに養う力があれば問題ない」



「話はそれだけじゃ、呼びたててすまんじゃったの、どうしても確認せねばならん事だったからの」


「はい、私も初めて私の全てを話しましたので胸のつかえが降りた気がします」


「うむうむ」


「では店まで馬車で送らせよう」


「有難うございます。」



店に帰りノーラに王宮で言われた養女の件を話した。ノーラは問題は自分で解決出来ると言ったが養女になるのには喜んでいた。



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