第16話 ステンレス完成
噴水亭からプリマへ引っ越す時に金貨をノーラとルディと三人運んだのだがあまりに重くて、数えるのを忘れていたことを思い出し、休暇中に計算してみたら、大金貨が850枚もあった、日本円にして8千5百万円である。
考えてみれば、お貴族バブルが続いてた頃は、一件あたり300万G~500万Gだったからこの金額になるのも当然である。
「幾ら何でもここに置いておくの心配だなぁ、皆んなの給料もここから出すわけだし…」
小春は顎に手を当て思案した。
「ねぇ、ノーラ居る?」
「ん、入るといい」
「お邪魔するね、ノーラに相談があるんだけど」
「ん」
「あのさぁ、金貨を保管するのに金庫を作ってほしんだけど・・・」
「土でつくる?」
「いやぁ、土じゃ不安かなぁ」
「鍛冶屋のアガシに頼むといい、完成品なら魔法ならかけれる」
「あ、そうか、久しぶりにアガシさんとこに行ってみる」
「私もいく」
「ルディは~、お休みだから誘わないほうがいっか」
「ん」
アガシの工房にて。
「こんにちは~」
「おう、嬢ちゃんたち、待ってたよ」
「嬢ちゃん、違う、ノーラ」
「あぁ、ノーラと小春ちゃんな」
「それでどうですか?」
「あぁ、見てくれ、これが小春が言っていたクロム鉄鉱石だけのヤツ、これが鉄と半々、これは鉄とクロム1:2だ」
「ん~見た目ではよくわかりませんねぇ」
「だろ? それでこれをそれぞれ塩水に三日漬けたものだ、どうだ?」
「おぉ! すごいすご~い!」
「な? クロムだけのが錆びてないんだ、だが加工が難しい、それで鉄を入れた1:2のヤツだ、薄っすらと錆は出てるがどうだい? ダメかぃ?」
「塩分を見ていいですか?」
小春はペロっと塩水を舐めた
「しょっぱ~~!」
「あぁ、塩と水と同量入ってるんだ」
「この塩分濃度でこれくらいの錆なら全然問題ないですね、これって薄く加工したり丸く加工したりできますか?」
「あぁ、問題ねぇよ、図面さえもらえりゃ鉄の加工とそう変わらんからな」
「ノーラ! 出来たよ!『ステンレススチール』」
「すてちんすれすれ」
「ステンレススチール! 呼び名は別途考えましょう、ルディにも教えてあげなきゃね!」
「ん、あいつ喜ぶ」
《ん? 最近ノーラとルディって・・》
「あ、シェフお帰りなさい」
「ただいま~」
「ん、帰った」
「お出かけされてたのですか?」
「鍛冶屋のアガシさんとこに行ってたの、それでね、聞いてルディ、ステンレスが完成したの!」
「ほんとですか!」
「ん、ほんと、ルディ居なくて残念」
「あ~、僕も行きたかったなぁ」
「ごめんねルディ、せっかくの休暇だから誘わなかったの」
「ハァァ~~」
ルディは肩を落とした。
「ん」
そう言ってノーラがポンポンと頭をなでた。
《やっぱりこの二人って、ま、私が口を挟むことじゃないか》
「あ、金庫忘れてた!」
「ん、忘れてた」
そのあとステンレス製のボールやポット食材保冷用の箱など図面を描いてもらうためにノーラとルディを連れてヒルダのところへ行った。
「お久しぶりで~す」
「やぁ、小春ちゃん、どうした?」
「今日はヒルダさんに相談がありまして」
「小春ちゃんのお願いなら、お姉さん何でも聞いちゃうよ~」
「図面を描いて欲しいんですが、こんな感じの」
「ふむふむ、ほかには?」
「こんな感じのをサイズ違いをいくつか」
「はいはい、ほかには?」
「あ、そうだ、ヒルダさん金庫の設計図とか書けますか?」
「はぁ?金庫ぉ~?」
「はい、金庫です」
「建物の設計図しか書いたこと無いぞ! しかしなんで設計図がいるんだい? 既製品じゃダメなのかい?」
「あ、そうか、その手があったか」
「カクカクシカジカなんですよ」
「なるほどなぁ~ 嬉しい悲鳴じゃねぇか、まぁ金庫以外の物は任せときな。」
「頼りにしてます、ヒルダ姉さん♡」
「おう」
「これから、他の図面も色々とお願いするかもしれませんが大丈夫ですか?」
「あぁ、小春ちゃんの注文は最優先させてもらうよ」
「有難うございます、お代は月末にまとめていいですか?」
「あぁ、今まで通りそうしてくれ」
そう言って工房を後にした。
「そうだルディ、金庫ってどこに売ってるか知ってる?」
「いえ、わかりません」
「ノーラは?」
「ん、多分、職人街」
「そうか、あそこならありそうだね」
「わたし職人街に寄ってくけど二人はどうする?」
「ノーラ帰る」
「え~っと、僕も、洗濯物とかしたいのでこれで」
二人が挙動不審。
《ハハ~~ン♪》
「うんわかった、付き合ってくれて有難うね~」
「はい、失礼します」
《そうかそうかぁ~ 二人にもとうとう春がねぇ~♪ 青春だねぇ~♪ 職場恋愛か~ら~の~♡♡ 職場結婚とかなるのかなぁあ》
スキップしながらヴィヴァルディの鼻歌しながら職人街にむかった。
途中、鍛冶屋に寄りヒルダから図面が届くことを告げた。
鍛冶屋のアガシに既製品の金庫の話を聞いたがオススメ出来ないとのことだった、
理由を聞くと既製品は闇で合鍵が出回ってるらしい、小春の財産は桁違いなので貴族
《お貴族様か、久しぶりにメリアちゃんところに遊びに行ってみよう》
「お久しゅうございます小春様、本日はメリアさまに?」
「はい、そうなんですが男爵様か奥様がご在宅でしたらお話させて頂きたいのですが」
「かしこまりました、こちらへどうぞ」
応接室へ案内された。
「あら、小春ちゃん、いらっしゃい」
「ご無沙汰しております、奥様」
「主人はもうすぐ帰ってくると思いますわ。お変わりありませんか? 少し痩せられたのでは?」
「はい、ここのところ忙しくしておりまして、あ、でも3日ほど休日にしてますので大丈夫です」
「こんにちは小春」
メリアがやってきて小春の横に座った。
「急に来ちゃってごめんねメリア」
「ん~ん、嬉しいよ」
「はい、お土産」
「え? いいの?」
「もちろん」
「わぁ、プリンだ! お母様、プリンですよ、プリンを頂きましたわ」
メリアの座席ピョンピョンはいつ見てもカワイイ。
「あらあら、メリアったら」
「ところで小春さん、今日はどういった用向きですの?」
「はい、実はカクカクシカジカなんです」
「まぁそれは大変ですこと、わたくしでは分からないので主人が帰ってきてからお話したほうがよろしいでしょうね」
「はい、そうさせて頂きます。」
そう言って3人でプチ女子会を開いた。屋台の話しや制服の話で盛り上がった頃、男爵が帰ってきた。
「なにやら賑やかだね」
「あら、お帰りなさい」
「お帰りなさいお父様」
「お邪魔しております男爵様」
「おぉ小春さん、元気にしておったかな」
「はいお陰様で」
「噂は聞いておるよ、市場に広場に大盛況だったそうじゃないか」
「はい、いろいろと大変でしたけど皆んなに助けて頂きました。」
「で、今日はどうしたんだ? ん? メリア、それはプリンではないか?」
《あ、しまった! プリン足りない!》
「はいお父様、小春に頂きましたの、
《メリアの性格がなんか明るくなったような、曲がったような》
「そ、そうか、ひ、ひと口でも」
「ダメですよ、あなた大人げないですよ。」
「そ、そうか、それで話しは何だったかな?」
「金庫の相談でまいりました、カクカクシカジカなんです」
「なるほど、紹介するのは全くもって問題ない、おい、いるか?」
執事を呼んで
「明日には金庫職人にそちらへ伺うよう指示したから大丈夫だろう」
「何から何までお世話になります」
「気にすることはない、紹介料でプリンを所望する、ハッハッハッ」
「分かりました、今度レシピをお教えします」
「それはダメだ、そう簡単にレシピを教えるものじゃない」
「いえ、構いませんよ、簡単ですし」
「いや、レシピはカネだ! レシピ一つでこの屋敷が建つことだってあるほどだ」
「あなた、もう商人じゃないんですよ、ほんとにもう」
「いやいやかたじけない、ついつい昔のクセでな」
「はぁ」
《そういう物なのかなぁ? 日本じゃプリンのレシピなんて小学生でも知ってたからなぁ》
「どうしてもと言うならレシピを買い取ってもいいが」
「あなた! いいかげんにして下さい」
「お前たちも家でプリンが食べたいだろう?」
「それは、その、まぁ、」
婦人とノーラが顔を見合わせてニッコリ笑った。
「な? そういう訳で買い取らせてもらうぞ」
「わかりました、紙とペンをお借りできますか?」
「おい! 何をしている! すぐに持って参れ!」
「ハッ」
執事がパタパタと走っていった。
「ほうほう、こんな簡単だったのか、料理とは不思議なもんだな」
「はい、調理の知識があればその日のうちに作れるようになれますよ」
「その日のうちにとは本当か? おい、料理番を呼びなさい、すぐに来るように」
小春はプリンの作り方を教え男爵とはレシピ売買の契約書を交わした、
契約と言ってもあってないような内容だった、『売ったからお金払った』だけの内容だった。契約料も小金貨1枚(1万円)である。
「小春、もう一つよいか?」
「はい何でしょう?」
「ハンバーガーだったかな? 料理番たちの間で流行ってるものは」
「あ~そうですね、ハンバーガーですね」
「あのレシピなんだが独占契約で売ってもらえないだろうか?」
「独占契約とは『レシピを買ったものしか作ってはならない』的なものでしょうか?」
「そう言った契約もあるが、今回は『シェフ小春公認レシピ』ってのを使わせてほしいんだ」
「でも、もう市場には色んなハンバーガーが出てますよ」
「だからこそなんだ、『小春公認ハンバーガー』となれば箔が付くんだ」
《食中毒とか出されると嫌だなぁ~~》
「『小春公認』ってのさすがに私も全てに責任持てないので『元祖』ってのはどうでしょう?」
「ほう『元祖ハンバーガー』ねぇ、いいかもしれんな、して幾らで売ってくれるかな?」
「おカネ要りませんよ、私は関与しませんから」
「ん~、そうか、では『元祖』使わせてもらうよ」
その後しばらくして市場は『元祖』だらけになったのは別のお話。
翌日の午前に金庫職人が来て寸法や諸々を聞き取り帰っていった。
出来上がりは一月後とのことだった。
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