第12話 大金貨
「おはようございま~す」
小春は目をこすりながら厨房に降りてきた。
「小春! 小春! 大変なことになってるぞ!」
ダンが小春に駆け寄り両肩を掴んだ。
「どうしたんですか?」
「今朝、男爵家のパーティーの代金を男爵様本人が持ってこられたんだ!」
「はぁ」
「『はぁ』じゃないぞ小春!」
掴んでる両肩を激しく揺らした。
「それが何か大変なことなんですか?」
「違うんだ、代金が大変なんだよ! 700万G! ななひゃくまんぎるなんだよ!」
《700万円!》
「え~~~~~~!」
眠気が一気に覚めた。
「それは幾ら何でも貰いすぎですよ! どうして受け取ったんですか? 私、今から返しに行ってきます」
「待て小春、俺も断ったんだよ『こんなに受け取れません!』ってな、そしたら男爵様が『これは娘の晴れ舞台の礼だ、受け取って貰わなければ困る』そう言って引いてくれ無かったんだよ」
「だからってダンさんが引いたらだめでしょ? 材料だって男爵家持ちだったんだよ!」
「分かってるさ、何度も断ったんだが、しまいには『男爵の私に恥をかかせるのか!』とか『カルミア家を侮辱するのか!』とか怒り出すから仕方なく受け取ったんだよ」
《はぁ。。どうしたもんだろなぁ》
「あぁ、でも『次はこんなに出せない』って言ってたな」
「当たり前ですよ! こんなに貰った胃に穴が空きますって」
「それでな小春、俺もミラも何もしてないのにカネもらうわけにはいかないんだ、だから全部お前のカネだ」
「ちょ、ちょ、そんなおカネ、怖い怖い」
「男爵様からもそう言われてるんだ『全て小春に渡しなさい』ってな。」
「え~~~~~!」
そうして小春は一気にお金持ちになった、なっちゃったのだ。
小春は代金の1割をノーラとルディに渡した、二人は『受け取らない』と言ったが強引に渡した。
その後、ルディは服と靴を何着か買ったようだ。
それから1週間ほどしてからメリアがよく来るようになった。お目当てはもちろんデザート、何故なのかわからないが、メリアは決まって前払いしていく。1万G払って「なくなったら言ってね」という具合だ、何故、前払いなのかはよくわからない、商人流なのだろうか。
男爵家のパーティーからひと月ほどしてから、またパーティーの依頼がきた。メリアのパーティーに出席していた賓客だそうだ。今回も社交界デビューのパーティー、またもや予算の上限なしで魚料理希望。
それから月に2度ほどあちこちの貴族の屋敷で大小のパーティーが行われ料理は全部小春を指名してきた、この頃から小春はパーティー専属というか小春しか出来ないので自然にそうなった。
王都では『デビュタントは小春シェフ』というのが流行になった。
ちなみに生魚はリーアンから3日かかってしまうのでノーラと小春で西の港に赴き、捕れたての魚を小春が活き締めにし、ノーラに急速冷凍してもらい、馬車に小型冷凍庫を設置し馬を取り替えながらノンストップで王都まで運んでもらう。料金はめちゃくちゃ高いが、予算の上限はないので問題なかった。むしろ客の希望だった。
一方の噴水亭の方は常に満員状態なのでこれ以上忙しくなることは無かった。
それから半年ほど経ってから『小春ブーム』も落ち着いた頃、小春は久しぶりに街に出かけることにした。服を選ぶ為にクローゼットを開けると金貨を入れていた箱が壊れクローゼットの底も抜けて、まるでダンジョンのお宝のように金貨が山盛りになっていた。
《ふぅ、凄いことになってるなぁ、帰ってきてから数えよ》
そう言って大金貨一枚だけポケットに入れてウィンドウショッピングに出た。
《高校生が10万円玉持って、お買い物なんて、どこのブルジョアさんなのよ》
「いろいろ行ってみたいところはあるけど、どこから行こうかなぁ、そう言えばこっちに来てから噴水亭以外でご飯食べたこと無いなぁ」
そう独り言を言いながら噴水広場から市場へ向った。大通りから一本入ったこの通りは職人街と呼ばれ小さな店が通りの両側に並んでいる、職人街にも小さな料理屋はいくつかあるが、小春は市場の屋台へ向かった。
「せっかくだから歩きながら食べたいよねぇ~」
ふと、一つの屋台が目に止まった。
「あれなんだろ?」
目に止まったのは両手を広げたほどの小さな屋台だった、看板は出ていないが屋台の中から小さな子どもたちが呼び込みをしている。
「こんにちは~」
屋台の子どもに声をかけた。
「いらっしゃ~い」
「ここは何のお店かなぁ?」
「ここは生ジュースの店だよ、ジュースってのはね果物の絞り汁のことなんだ」
「へぇ~美味しそうね、お姉ちゃんに一つもらえるかな?」
「うん、何がいい?」
「何があるの?」
「今日はアランチャ(オレンジ)とアプレ(アップル)の二種類だよ、混ぜたのも出来るよ」
「じゃぁアプレを頂戴」
「300Gだよ」
「はいこれね」
小春は代金を渡した。
「ねぇジュースはどうやって冷やしてるの?」
「ノーラって魔法使いのお姉ちゃんが『れーぞーこ』ってのを作ってくれたんだ、すげー助かってるよ」
「へぇ~、あのノーラがねぇ」
《以外っちゃ以外だなぁ》
「姉ちゃん、ノーラの姉ちゃんしってるの?」
「うん、良く知ってるよ」
「そうなんだ、ノーラの姉ちゃんすごいよな!」
「そうね、すごいよね!」
《魔法も凄いけど、慈善奉仕なんて凄いなぁ、私は考えたことも無かったなぁ》
「ねぇ、アプレってさ、切ったら黒くならない?」
「そうなんだよ、沢山切るとどうしても最初に切ったのが黒くなるんだよなぁ」
「いいこと教えてあげる、切ったアプレはレモネを絞った水に漬けると黒くなりにくいよ、今度試してみて」
「姉ちゃん詳しいね、なんでそんな事しってるの?」
「ん~何処かで聞いたから、かな?」
「今度ためしてみるよ、ありがとう姉ちゃん」
「うん、じゃぁまた来るね」
そう言って屋台を後にした。
《孤児院の子たちかなぁ、傷んだ服着てたもんね》
市場の屋台にも変化が見られていた。ハンバーガーを出してる店が多い、職人街や市場という立地もあってか手軽に食べられるハンバーガーが人気のようだ。小春は市場から離れ職人街の服屋に向かった。
「ごめんくださ~い」
「はい、いらっしゃい、おや、あんた噴水亭の」
女性の店主が店の奥から出てきた。
「あ、はい、小春です」
「この前のコロッケランチ美味しかったよ~~、あの味を知ってしまったら噴水亭以外じゃ食べる気しなくなったよ、よそも真似してコロッケとかハンバーグとか出してるけど噴水亭にゃ到底及ばないからね」
「あ、有難うございます」
「今日はどんな用だい?」
「えぇ、服をいくつか買い足そうとおもいまして」
「そうかい、天下の小春様のお眼鏡にかなうもんを出さなきゃだね、どんなのがいいんだい?」
「ん~~、動きやすいのが良いかなぁ」
「じゃぁ、これなんかどうだい? 生地は薄いが丈夫だよ編み方に工夫がされてて動きやすいよ」
「へぇ~よさそうですね」
セーラー服に似たデザインの白い生地のトップスで、襟に緑のラインが入っている、サラサラしてとても肌触りが良さそうだ。
「下はパンツかい? スカートかい?」
《そういえば学校の制服以外じゃスカートってはいてないなぁ、ここは思い切って》
「スカートを見せてもらっても?」
「ちょっと待ってな」
そう言って女将は裏に入っていった。
「またせたね、これなんかどうだい?」
女将は持ってきたスカートを台の上に広げた。それは、うっすらとした淡いピンク色の生地に細いプリーツが入った膝丈のスカート、丁寧な縫製でポケットも着いている、左の腰のところに小さな花のアップリケがあしらってある。
「かわいい! すごくかわいい!」
「そうだろ? 小春ちゃんにぴったりだと思うよ~」
「こんなに可愛いの、私に似合うかなぁ」
「似合うともさ、さ、あててみな」
そう言って女将がスカートを小春の腰に当てた。
「思ったとおりだ、よく似合ってるよ、そのへんの男もイチコロだ」
「これ下さい! 一目惚れしちゃった」
小春はピンクのスカートに一目惚れ
「あと、このトップスも下さい」
「はいよ毎度あり、ちょっと待ってな」
そういって女将は屈んでゴソゴソしていた。
「特別にオマケをつけてやるよ」
そう言って取り出したのは小さな花の髪留めだった。
「え~! これも可愛い~! これも下さい」
「いつも美味しい料理を食べさせてもらってるお礼さ、髪留めはサービスさ、その代わり
《さすがオバチャン商人だ、髪留め一つでガッポリ狙ってる》
「ありがと~」
服屋を後にした。
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