第6話 常連客

「いらしゃいませ~ 今日もイチバンですね!」


 今日も元気よくミラは毎日一番にくる常連客をいつものテーブルに案内した。


「あの女性のお客さん、いつも一番乗りですね」


「そうだな、小春のランチを出すようになってから毎日だな」


《常連さんが付くのはやっぱり嬉しいなぁ》



「あとで挨拶に行ってきますね。」


「あぁ、そうしてやってくれ」


「あ、ミラちゃん! あの常連さん私が料理持っていくね」


「うん分かった」


「おまたせしました~ 今日の日替わりランチのスタミナチャーハンです。」


「ん」


《相変わらず無口さんだ》


「毎日来ていただいて有難うございます。」


「ん」


「そろそろ日替わりメニューの種類増やそうかと思っているんだけど何か食べてみたいものとかありますか?」


「さかな」


「お魚ですか」


「ん」


「魚介類はなかなか手に入らないんですよねぇ、鮮度が保てないから傷んでしまうので市場にも出てないんです」


「魚たべたい」


《わがままさんだ》



「こっちにも冷蔵庫あると良いんですけどねぇ~」


 ボソリとつぶやいた。


「れーぞーこ?」


「いえ、私の故郷では冷やした箱に魚とか野菜とかを入れて保管してたんです。」


「問題ない」


「え?」


「冷たい箱つくる」


「冷蔵庫を作れるんですか?」


「れーぞーこ、知らない、でも冷たい箱は作れる。」


《おおおお! これはもしかして! 革命おきるかも! 噴水亭で魚料理! 面白くなってきた~! 焼き魚定食に、ムニエルに、海鮮ナンチャラもシーフードナンチャラも! 魚醤とか仕込んだらテヘペロなものまで作れちゃうかも!》



「あの! 私、小春って言います、お名前伺ってもいいですか?」


「ノーラ」


「えっと、詳しいお話したいんですがどうしたら良いでしょう?」


「待ってる」


「外で待ってる」


「それは流石に…… ランチ終わるまでは長いので……」


「じゃぁ、あそこで待つ」


 厨房の中の椅子を指差した。


「マスター、あの椅子って使ってもいいですか?」


「あぁ、構わないよ」


「じゃぁ、また後でお願いします。」


「ん」


《やばい! テンション上がってきた! 冷蔵庫できたらデザートとか出来ちゃうじゃん♪》




 今日も怒涛のランチラッシュが終わった。


「ノーラさん、私達ちょっとまかない食べますね」


「ん」


 ノーラは営業時間中ずっとバタバタする厨房を眺めていた。


「ごちそうさまでした」


「それで、ノーラさん」


「ノーラ、 『ノーラ』でいい」


「じゃぁ私のことも『小春』って呼んでね」


「ん」


「ノーラが言ってた冷たい箱ってどんなの?」


「小春が言ったもの多分、作れる」


「えっとね冷蔵庫は外の気温に影響されずに中の温度は一定を保つの、扉がついていて食材を出し入れするんだけど扉を閉めるとまた冷たくなるの」


「ん、分かった」


 ノーラはしばらく考えて、


「箱、持ってきて」


「どのくらいの大きさがいい?」


「どんなのでも構わない、試作する」


「わかった、ちょっと待って」


 小春は厨房の奥にあるワインが入っていた木箱を持ってきた。


「これでいい?」


「ん」


 ノーラは木箱に手をかざして何か呪文らしき言葉を言うと、木箱に霜が着いてきてやがてカチカチに凍った。


「蓋、持ってきて」


「あ、そうだよね」


 再度、木の板にブツブツ言った。


「出来た」


「ん?」


「れいぞうこ出来た」


「えーっと、これどれくらいもつの? 温度」


「ずっと」


「ずっとって永遠?」


「壊れるまでずっと冷える」


「木箱が壊れない限り冷えてるってこと?」


「ん」


「すごい! すごいよノーラ! 魔法だよね? 今の魔法だよね!」


「ん、魔法、ノーラの魔法はすごい」


「そうなんだぁ」


「ほぅ、こりゃすごいな、こんな魔法は初めて見たよ」


 ダンが興味深そうにやってきた。


「どういうことです?」


「いや、普通の氷魔法は凍るが溶けるんだよ、術者の熟練度で持続時間が決まるらしいがノーラちゃんほどスゴイのは初めて見たなぁ、うちも開店した当初は奮発して魔法使いに氷魔法を頼んでたんだが、一日に何回も頼まなきゃならんのでやめたんだよ、しかしノーラちゃんのは別格だ。なぁ、ノーラちゃんあんたに氷温庫の魔法を頼んだら幾らでやってくれるかい?」


「ランチ無料でいい」


「よっしゃ乗った!」


「ん、決まり」


 無表情のノーラの口元が少し緩んだ。


「ねぇねぇノーラ、他にはどんなのが出来るの?」


「火、水、風、土、光、雷、闇、召喚、精霊以外は全部使える。」


「全部、さっきみたいに出来るの?」


「ん」


「すご~~い!」


《これならオーブンも作れる!》


「四属性以外も全部使えるのかい? こりゃまた凄い大魔術師さんだ、俺の知り合いが言ってたが、王宮の魔術師団長でも2つ、魔法学校の魔術師範でも3つって聞いたことあるが全属性とはすごいな!」


「ねぇマスター! ノーラちゃんを雇っちゃいません?」


「ノーラうちで働くと賄い出るからランチ無料だよ」


「それはさっき約束した、契約と違うから働かない」


「あ、そうだったね、じゃあノーラがご飯食べ終わったときに色々相談に乗ってもらうことは出来る?」


「ん、それならいい」


「マスター! メニュー増えますよ! 美味しい料理増えますよ~!」


「ほ~、そりゃ楽しみだなぁ。」



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