第3話 噴水亭


「こんにちは~!」


 小春は店の裏口を開け元気よく挨拶した。


「お姉ちゃん誰?」


 小さな女の子がエプロン姿で手には洗い物の皿を持っていた。

 歳は8~10歳くらいだろうか?

 身長は100センチくらいで金色のショートカットに栗色の瞳。


「お手伝いに来ました!」


 小春はあたかも、お手伝いを頼まれた感をだして答えた。



「お父さん! お手伝いさん来たよ~!」


「おー! 助かった! 早速手伝ってくれ!」


 店主は何の疑問も持たずに返答した。


「じゃ、まず洗い物を片付けますね」


 溜まってる洗い物を見て手際よく片付けていった。


「次は何しましょうか?」


「じゃ、料理運んでくれ」


「わかりました!」


 小春はホールに出ると料理名を確認してテーブルに運んだ。


「お姉ちゃん新顔かい?」


 常連らしき男が声をかける


「はい、今日からです♪」


 小春の魂胆は既成事実をつくってしまおうという目論見、異世界の見たことない料理だけど『〇〇焼き』とか『〇〇炒め』などの名前は見れば大抵は分かる。


「おーい嬢ちゃん上がったよ」


「はーいすぐ行きま~す」


 お昼のラッシュタイムもようやく落ち着いた頃


「ところで嬢ちゃん、誰の紹介で来てくれたんだい?」


「えっとルディって男性から『噴水亭』がお手伝い探してるって聞いて」


 とは言わずあえてと言ったのには子供より大人の紹介って言ったほうが信用されやすいと思ったからだ・


「そうかい、そうかい、助かったよ、嬢ちゃん先に賄い済ませな」


 そう言って店主は手際よく料理を作ってくれた。


「空いている席で食べるといい」


「ありがとうございます、お先に頂きます。」


《さてさて、軽石パンしか食べてないし異世界の初料理だ、 う…… 不味い! ドブみたいな匂いに排水パイプの滑りぬめりみたいな食感、味は薄~い塩味》


 声にならない声でつぶやいた。


《これはダメだ、アカンやつだ『空腹は最高のソース』とかナポレオンは言ったらしいけど、あれはウソだった、どうしよう・・》


「マスター、ビネガーはありますか?」


《なんとかしないと食べれないよ、ビネガーでヌルヌルを流したい、おそらく今日の食事はこれだけ》


「どうした? 口に合わなかったかい?」


「いえ、朝、脂っこいの食べたのでサッパリさせたくて。」


《ルディごめんね、お姉ちゃん嘘ついちゃったよ》


「ビネガーねぇ、あるにはあるがちょっと古いぞ」


「大丈夫です。」


「そうかい?」



 そう言って店主は奥からホコリを被ったビンを持ってきた。


「ほらビネガーだ」


「ありがとうございます。」


《さてさて、ビネガーを大さじ一杯ほど料理に垂らす、確かに古いとは言ってたけど古すぎ!、でも今さら食べないわけにもいかないし》


《これはドブだ、 酸っぱいヌルヌルしたドブだった・・ これはヤバイなぁ、これじゃ明日の賄いもヤバイ》


「ごちそうさまでした~」


 力なく厨房にもどり洗い物に手を付けた。


「おう、じゃぁ俺たちも頂くか」


 そう言って店主と女の子が酸っぱいドブを持ってテーブルについた。


「お父さん、今日のは何か味ちがうね」


「よく分かったなぁミラ、今日は新しい油を使ってるから風味が違うだろ?」


 店主は得意げに言った。


「だから、いつもより美味しんだね」


《え?何言ってるのコノヒトタチ、舌壊れてるの? 異世界だとアレが美味しいのかなぁ、》


《あ! そうだ! 生野菜はあるはずだ》


 そう思って厨房を見回して葉野菜を見つけた小春はムシャムシャと馬のように食べるといくらか口の中がさっぱりした。


《明日から、賄いは絶対につくらせてもらおう・・》




「ごちそうさん」


「ごちそうさまでした」


 そう言って店主とミラが戻ってきた。


「嬢ちゃん名前は?」


「あ、小春です。 日向小春ひなたこはると言います」


「変わった名前だなぁ、俺は『ダン』コイツは『ミラ』だよろしくな」


「よろしくおねがいします」


 ミラがペコっと頭を下げた。


「明日からもよろしくおねがいします」


 そう言って小春は頭を下げた。


「お、明日も来てくれるのかい?」


「はい、もちろんです。」


「・・・でもなぁ」


「どうされました?」


「いやぁ、うちは忙しいんだが儲けが少ないんだよ、借金もあるしな、小春ちゃんに給金払えないかもしれないんだ」


「構いませんよ、賄いさえ頂ければ」


「そうかい? それなら賄いは好きなだけ食べていいからな」


「有難うございます! そうさせてもらいます」


「小春ちゃん賄い気に入ってくれたのかい? 嬉しいねぇ」


「あ、ドブ いえ賄いは明日から私に作らせていただけないでしょうか? 賄いは新入りの仕事ですので。」


「そのへんは気にしなくて良いんだよ」


「いえ、とっても気にします、私が命がけで作ります。」


「そこまで言うなら頼もうかね。」


「ありがとうございます!」


《ふぅ~ 危ない危ない、賄いだけは死守せねば、タダ働きでドブとか拷問だよ》



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