推し活という名の芸能活動

グレイジー

第1話 究極の推し活?

「うお~!今日も血涙ちるいちゃんの新曲が…!聞くしかない!寝るのは休もう!!」


俺、神無月かんなづき 誠也せいやは主にYouTubeで活動している深紅しんく 血涙ちるいちゃんという歌い手の大大大大ファンだ。基本、綺麗な声ながら曲によってはかっこいい声も出せる実力派。ちなみに俺はかっこいい系の曲の方が好みだ。

あと見た目もかわいい。


だが、この子はあまり広まっていない。なぜか?世界の見る目がないからだ!

そうなったら俺が布教するしかない…

確かにファンとしては有名になって遠い存在になるのが寂しく感じるというのもある…とても気持ちはわかる。

だが…それでも…血涙ちゃんが世に見つからないのは納得いかん!俺は友達と「血涙ちゃんの最新曲聴いた?」「聴いたよ~良かったね~」

みたいな会話をしたいんだ!!

ではどうやって布教するか…

普通じゃだめだ!それでは広まらない。そして考えた結果…


「本日のゲストは俳優の神無月誠也さんです!」


俺は俳優になっていた。


「神無月さんは画面越しでも伝わる感情演技で有名ですね。一体何を考えているのでしょう?」


「自分の経験から引っ張り出してますね。それが一番ノるんですよ」


これは嘘じゃない。


怒りの時は

「なんで血涙ちゃんのこの曲の再生数伸びてないんだー!!!ありえないだろー!」


悲しみの時は

「血涙ちゃんが入院?軽い足の骨折…そんな…供給が…」


喜びの時は

「はあ~!おれのDMの話じゃんこれ…認知してくれてる…死んでもいい…」


俺はこの方法で感情演技をして俳優としてのし上がった。


「なるほど~。でも何回も思い出していると次第に薄れていくのでは?」


「なにかどでかいものというのは薄れないものですよ」


血涙ちゃんのことなら俺は全てどでかいのだから何も問題ない。


「すごいですね…そんな最近人気急上昇中、神無月さんのあまり知られていないプライベートを聞かせてもらいたいと思います」


「はい、よろしくお願いします」


来た!有名バラエティーにてプライベートの質問。大抵、急激に人気の出た新人にはこういう場が用意される。


俺はこの時を待っていた。


この時のために演技を勉強し、体を鍛え、ファッションやメイクで人並み以上の容姿に整え、バラエティーでのトークも練習した。そして…どんな質問でも、血涙ちゃん関連なら完璧だ。血涙ちゃんが歌っている曲の歌詞も楽譜も覚えている。今の俺に隙はない。


「では最初はとても王道の質問から、好きな料理、嫌いな料理はなんですか?」


「好きなのはナポリタンですね。嫌いなのは…野菜に乗ってるフルーツですかね」


ナポリタンは血涙ちゃんが好きと言っていたから自分で料理してたら極めた。

野菜に乗ってるフルーツは子供の時からマジで嫌い。


「なるほど、ナポリタンはどこかおススメとかこだわりとかあるのでしょうか」


「自分で作ってるんですよ、隠し味とかもいれてます」


「なんと!その隠し味には何を使っているかとか…」


「それ言っちゃたら隠してないじゃないですか」


「確かに、あはは。野菜に乗ってるフルーツが苦手なのは私もわかりますよ」


「ははは、ですよね。フルーツはやっぱあの甘さ、酸っぱさが合うものに乗っていて欲しいですね。ショートケーキとかはシンプルに天才だと思ってます」


「大袈裟ですが、確かにショートケーキ美味しいですよね~。こちらもおススメとかありますか?」


「う~ん店のおススメとかはないですがあまりクリームが甘すぎないほうが好きですかね」


「なるほど、全体で纏まっている方が好きなのでしょうか?」


「そうですね、クリームが特に美味しいというより全体で美味しいほうが好きです」


「盛り上がりましたね、この王道の質問で(笑)。では次の質問です。趣味等はございますか?」


きたきたきたきた!この質問を待っていた!ったく好きな料理とかどうでもいいだろ!500文字近くも使いやがって!

まあ俺のバラエティートーク力にかかればちょろかったがな!


「音楽を聴くことですね」


「おお!最近ではどなたの曲を聴くのでしょう?」


「深紅 血涙ちゃんがずっと好きですね。YouTubeで主に活動しているのですが」


「へ~どこが魅力なのでしょう?」


絶対、司会の人知らなかっただろうがちゃんと話を進めてくれる。こういうところはプロだな。


「綺麗な声とかっこいい声の両方を持っているところですね。かっこいい声の時も清涼感があるんですよ」


「なるほど~結構ファンなのですか?」


「俳優になる前からずっと応援してます」


「おお!それはすごい!」


「じつは俺、ツイッターで血涙ちゃんのことフォローしてるんですよ?俺のファンの方でたまに気づいている人もいましたね」


「大ファンじゃないですか。その子の歌を聴くことが多いですか?」


「そうですね、趣味で音楽を聴くと言いましたがほとんど血涙ちゃんを聞いてます」


「いや~神無月さんにそんなこと言われるなんて羨ましいですね~。私もこの収録後、聴こうかな。初めて聴く人におすすめ!みたいなのありますか?」


「全部おすすめですが、先程も言った通り綺麗な声とかっこいい声が使い分けられているので、どっちを聴きたいかで選ぶといいと思いますよ」


「なるほど、私は綺麗な方から聴こうかな~」


「いいですね~感想聞かせてください」


「じゃあまた番組に来てくださいね」


「それはもう、いくらでも」


「いいんですか?そんなこと言っちゃって?」


「やばいですね~(笑)マネージャーが睨んでます」


「そっちのことは番組は関与しませんので(笑)頑張ってください」


「見捨てられましたね…」


「あははは、では次の質問…」


こっからの質問は適当に流した。血涙ちゃんの布教さえ出来れば用はない。


そっからの世の中の動き方はすごかった。

血涙ちゃんの実力、ルックスの良さも相まって一気に人気となった。


そして何より!血涙ちゃんから感謝のメッセージが届き、さらには共演までできることになった!

マネージャーから話が来たときは速攻で快諾した。

というか他の仕事を押しのけさせた。

マネージャーがとても嫌な顔をしたが知らん。

このためにやってきたのだ。


「はあ~会える!会えるぞ~!とうとう!やばい…キャラ崩壊してしまうかもしれん!歌を間近で聴けたりするだろうな…もしかしたら一緒に歌ったりも?いやでも俺は聴いていたい…が…一応、血涙ちゃんの歌ってる曲は全てカラオケで練習し100点を取っているが…」


結局俺はベッドで呻き寝れなかった。


そして当日。

控えにて…


「初めまして深紅血涙です。応援してくださりありがとうございます」


「は、初めまして。神無月誠也です。ほんとに大好きで…サイン貰っていいですか?」


「いいですよ~」


見よ…世のオタク共、推し活をしている者どもよ…

これが究極の推し活だ…幸せだ…

自分の世界は変えられる…

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