第5話
『じゃ、明日から入部と言うことで、よろしく頼んだぞ宮本』
「いや……明日からかよ……意外と早いし……」
陽キャがキャッキャウフフしている中庭から最も遠く、尚且つ誰もいない最高のポジション。
保健室裏側の、ちょっとした階段に座り込み、昼ごはん(ビニ弁)を食べながら1人つぶやく。
「……それにしても、面倒事を引き受けてしまったなぁ……」
上茶谷恵のコミュ障を治せ?
クラスカースト最底辺のやつに頼むことじゃないだろ。
「できるわけねぇだろ……!」
わざとらしくそう言って、自販機で買ったサイダーをグイッと飲む。
背後に聞こえる、陽キャたちの声にイライラしながらハンバーグを屠った。
離れているとはいえ、アイツらの馬鹿でかい声は建物を貫通する。本当に恐ろしい奴らだぜ……陽キャ。
「いっそ、陽キャじゃなくて良かったとすら思える」
「それはある」
「ですよね……って、その展開もういいです」
まぁ、なんか来そうな気はしてたけど……マジでここを見つけ出すとは。
「俺のストーカーかなんかですか?朱音先輩」
「そんな物騒な……。違うよ。愛のレーダーだよ」
「うわなんか気持ち悪いそれ……」
「酷いこと言うね君……。まぁホントのこと言うと、屋上から校舎まわりを眺めてたら後輩くんがいたから、ちょっかいかけよ〜って思ってね」
なぜその思考に至るんだ……。
「隣、座っていい?」
「俺の所有地じゃないんで。ご自由に」
やった、と小さく言って、隣に座る朱音先輩。
「いいんですか?超有名人である静華朱音がこんな奴といて。いじめられますよ?」
「なんでいじめられるのさ……」
「陰キャの近くにいたら、その人にも陰キャ判定を下すんですよ……陽キャってやつは」
「ひ……酷い偏見だ。確かにそういう人もいるけど、基本的にはいい子多いよ?」
「それは、朱音先輩の体を狙ってるだけです」
「もしかして、心配してくれてる?」
「ですね〜」
ビニ弁特有の、ガッチリ固まったポテトサラダを口の中にほおりこみ、完食。
「朱音先輩は昼ごはん、何食べたんですか?」
「おにぎり。ツナマヨといくら」
「へぇ。意外と少食なんですね」
「あいにく胃袋は大きくないのだよ……」
一息ついて。
「……というか、朱音先輩」
「ん? なに?」
「なに? じゃないですよ。なんですかあの入部届け」
あぁ〜、とどこかニヤついた様子で視線を青空にあげる。
「人員、増やせそうだったから……的な?」
「いや、的な?じゃないですよ。こちとら面倒事に絡まれて……」
「部活は……騒がしくしたいんだ」
突然聞こえた、朱音先輩らしくない、元気の抜けた声。
「それに、人は多いに越したことはないしね〜」
「……人に関してはそんな事ないでしょ」
「いんや〜? あるよ〜?」
「ほう?」
「いっぱい人を集めて、厳選して、いらない人は切り落とす。そうすれば、いい人材が沢山見つかるからね」
「おうふ……意外と残虐ゥ……」
「ま、そんなことはどうだっていいや」
いいのかよ……と思いつつ。
「頼んだよ後輩くん。あの部活を、復活させてくれや」
……いやいやいや。
「残念ですがね朱音先輩。俺にはそんなたいそれたこと出来ません」
「君ならできるよ」
「どこからそんな自信が……?」
「まぁ、どっかから?」
からかうように笑う朱音先輩。
「あ、私次の授業、移動教室だから戻る!じゃまた後で!!」
「あ……ちょっと!」
ダッシュで校舎に戻っていく朱音先輩。
それを見送って、俺は呟く。
「……たまにある、寂しそうなあの顔は……一体……」
時折見せる、朱音先輩のあの表情はなんだ。
学校でも、何時でも、見せる表情のどれもが明るくて、常に笑っている……。
それが、静華朱音への、俺が抱くイメージだったわけで。
その笑顔が崩れる何かがあったってことか?
「……ま、首を突っ込む事でもないか」
今でさえ、厄介事は多い。
朱音先輩から許しを乞う、上茶谷恵を救う、部活を復活させる……。
「……いや、できるわけねぇだろ……!」
ついさっきも言ったような言葉を、もう一度繰り返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます