第2話 新道区長は貪っている
海底にある湾央に日の光は届かない。そのため、町中は開放感や娯楽性を時に過剰に演出が施されている。天井を覆うライトは東京都内の天気を模しており、地上の太陽の傾きと同じように翳り、曇りの日は光量が少なくなる。
例えば、湾央区での盛夏。降り注ぐ日の光は公園の噴水からあたり一面に光の粒を生み出す。
辺りが暗くなり、新道は区長室の室内灯を点けた。先ほど、平佐から言われた言葉を繰り返す。「新関東都の知事就任が既定路線から離れいく可能性は持っていてくれ」思い出すだけで、イライラする。なんのためにあいつに尻尾をふってきたんだ。あいつの資金をフォローしていたのは誰なのだ? 下半身が動かない新道は指を上下に動かし、貧乏ゆすりをする。手のひらを返すとは正にこのこと。ただ、区長の任期満了を控えた今、次の席を確保するには人民党幹部である平佐の力を借りるしかない。
誰が、なんのために、暗号を漏らしたのだ?
サイバー攻撃を受けたのか?
とにかく早めに手を打つ必要がある。必要な選択肢は全て取りたい。
明日にでも、平佐先生から特殊部隊の招集をお願いしよう。
それと、野屋だ。ガーコム社側の九寨溝責任者である彼女にも話を聞きたい。
逡巡が収まると、自分の携帯端末の暗号資産口座を確認した、ウィルスが人を媒介し増殖するように増えていく暗号を眺める。
もっとはやく、もっとはやく。新道は暗号の増殖をひたすらに願っていた。
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