第7話 心当

 それは野田から秘密を打ち明けられたその日のこと。


「会社、実は辞めようと思ってて」

「そんなに彼のところで働くのが気まずいのかい?」

「気まずくないわけではないですけど。実は、実家にいる母の具合があまり良くなくて、それもあって辞めようかと」


「母一人子一人ですから」


「いつ発つの?」


 ***


「いつ発つんですか?」


「確か、24日の朝には空港にって…」

「今日23日ですよ⁉︎」

 驚きの余り佐伯は立ち上がって言った。


「あ……」


 時計を見る。19時過ぎ。

 時間的にもう家に着いてる頃か。


「彼女の家は分かる?」

「えぇ」

「行きなさい、今すぐ。きっとまだ間に合うから」


 ふぅ、やれやれ。


 急いでコートを羽織った佐伯が言った。

「半田さんも一緒きてもらっていいですか⁉︎」

「え?」

「僕一人だと不安です」

 まるで子犬のような健気な瞳で私を訴える。

「……分かった、行くよ」

「本当ですか!!」


 頼まれると弱いのは私の良くない癖だ。



 直ぐにタクシーを捕まえて彼女の家へと向かう。


 しかし部屋は真っ暗だった。


「留守か…」


「行くあては?」

 少し考えてから思い出したように佐伯は言った。


「……あります!当たってればいいけれど」

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