第5話 過去
物心ついたときから、私には嘘が見える能力があった。
最初はおかしいと思ったら、口にしていた。嘘はいけないことだと信じて疑わなかった。
私の父は正義感が強い人だった。戦前は敏腕弁護士だったらしい。
とりわけ私も嘘は悪いことで、常に正しくあれ、とずっと思っていた。
あの時までは――。
あれは私が小学校を上がったくらいの頃か、同級生が嘘をついていたのを知ったときだ。
その同級生は幼い妹のために父親は死んでいると伝えていた。
しかし、実際は窃盗の罪でずっと刑務所にいた。
それを知らせまいと、小さい頭で彼なりに考えていたのに――。
“タケシ君、いけないんだよ。嘘をついちゃ”
“だって、君のお父さんは――”
その時の彼と彼の妹の表情は今でも忘れられない。
当時、その事実を知っている人はわずかだった。
誰かが聞きつけたのか、あっという間に広がった。
彼ら兄妹はほどなくして町を離れた。
自分のせいだった。
嘘をつくことは良くないことだとは思う。
嘘は、人を騙して傷つける。
けれど、全てがそうではない。
時には誰かを守るためにつく嘘があること、そのときようやっと知った。
そして嘘をつくために苦しむ人がいることも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます