第5話 過去

 物心ついたときから、私には嘘が見える能力があった。


 最初はおかしいと思ったら、口にしていた。嘘はいけないことだと信じて疑わなかった。


 私の父は正義感が強い人だった。戦前は敏腕弁護士だったらしい。

 とりわけ私も嘘は悪いことで、常に正しくあれ、とずっと思っていた。


 あの時までは――。



 あれは私が小学校を上がったくらいの頃か、同級生が嘘をついていたのを知ったときだ。


 その同級生は幼い妹のために父親は死んでいると伝えていた。

 しかし、実際は窃盗の罪でずっと刑務所にいた。

 それを知らせまいと、小さい頭で彼なりに考えていたのに――。


“タケシ君、いけないんだよ。嘘をついちゃ”

“だって、君のお父さんは――”


 その時の彼と彼の妹の表情は今でも忘れられない。


 当時、その事実を知っている人はわずかだった。

 誰かが聞きつけたのか、あっという間に広がった。


 彼ら兄妹はほどなくして町を離れた。


 自分のせいだった。



 嘘をつくことは良くないことだとは思う。

 嘘は、人を騙して傷つける。

 けれど、全てがそうではない。

 時には誰かを守るためにつく嘘があること、そのときようやっと知った。


 そして嘘をつくために苦しむ人がいることも。

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